70.新たな決意
レンとイリスが中央都市のターミナル駅に到着したころには夜も遅く、エントランスには各所へ向かう夜行列車への乗車待ち列が出来ていた。朝早くに彼女の地元を出たにもかかわらずこの地に戻ってきたのはつい先程。如何に鉄路が鈍足か、或いは彼女の地元が遠い地であったかが窺える。
都に住まうようになってから見慣れた筈のターミナル駅はいつもより大きく立派に映った。こんなにも堂々とした佇まいだっただろうか。片田舎の風に当たり過ぎて感覚が少し狂ってしまったのか。それとも心新たにこの地を踏んだせいだろうか。
暑苦しい日中とは打って変わって、少し肌寒い夜の空気を目一杯吸い込んだ彼女はレンと顔を合わせる。
「戻って来たわね」
「あぁ。俺たちが夢を追い求める場所にな」
「ちょっと澄ました事言わないでよ」
小っ恥ずかしい事を口にするレンに、イリスはそっぽを向いて他人の振りをして見せる。しかし、程なくして口を開くとこんな質問を投げかけた。
「ねぇレン? あなたが空を目指す理由って何?」
「これまた唐突だな。子供の頃からの夢で、他人にはとても誇れないような大した物ではなかった。でも今は誰にでも胸を張って言える目的が一つ増えた」
「何?」
「カティア、エイルそしてお前の夢を叶えてやりたいなって。一緒に過ごすうちにそう思えるようになってきた。随分と都合の良いな話だろ? でも気づいたらそれが空を目指す一番の原動力になっていた。――あれ、俺何かおかしなこと言ったか」
「別に……」
またしても小っ恥ずかしい事を漏らし始めたレン。しかし意外にもイリスは視線を逸らさずに彼の言葉を聞き届ける。彼の夢は彼女にとっても悪い話では無かったのかもしれない。
彼女の夢を叶えてやりたい。共に夢を叶えるべく、もう一度レンは彼女を夢舞台へと連れ戻そうとする。
「なぁイリス。実を言うとまだトーナメント大会は終わってないんだ。もう少しだけ悪あがきしてみないか?」
「そうね…… それも悪くは無いかも。いいわよ、私が言い出したことだから、あの大会への参戦は」
一度は夢潰えた大会への復帰を二人で誓う。残すは二人のチームメイト。彼女たちが戻ってきてくれれば夢舞台への道は再び現れる。では誰がカティアとエイルを呼び戻す役を務めるのか。自ずと本人は分かっていたようだ。
「やっぱり自分からあいつらの所に顔出しに行くのは恥ずかしいか?」
「そんな事ない…… って言ったらウソになるかも。でも隊長だもの、今度こそ仮じゃない本当のチームとして隊長に就任するのは私。だから私に任せて」
「ありがとうイリス。二人の事は任せる。俺は大会に向けてちょっとばかり秘策を考えようかと思う」
「秘策?」
すっかり彼女は腰を据えていた。今度こそ解散などさせない。仮などという称号も取っ払い卒業まで四人で空を目指すチームになる。凛とした自信気な横顔に、レンは安心して託す。
夜風が一層冷たくなってきた、背にするターミナル駅からは汽笛と共に夜行列車が中央都市を去っていく。今夜、この街へやって来る列車はもう無い。駅前の広場に面する店は灯りを消し、戸締りを進める。彼らも物騒な夜の街に長居は不要。
やるべきことは決まった。大会へ向けて互いにやり切ろう。二人は閑散とした広場を後に各自の床へと向かった。




