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64.爺さんの相棒、規格外につき

空を知り尽くした大先輩と共に、機体が眠る格納庫へとやって来たレン。広い格納庫を独占し、佇むは二人乗りの機体。

老人は新しい相棒を背にすると自慢げに腰へ手を添えてみせた。老人の背で誇らしく光沢を放つ真新しい機体こそ、ご自慢の代物のようである。一目見ただけで若い機体だと分かるだけの洗練されたモダンなデザイン。極限まで無駄を省いた流線形のボディー。

そのオーラからは何かを感じずにはいられない。


「さっさと乗り込め。今日はお前さんが前、ワシが後ろだ」

「待ってください、俺魔力炉を動かすことはできないですよ」

「だから若造が前に乗るんだよ。ワシは後ろで魔力炉に全神経使って力を注ぎ込むから、操縦はお前がやるんだ」

「でも、こんな最新鋭の機体、授業では扱った事なんて――」

「そんなもの覚えるより慣れろ! 機体なんてどれも仕組みは同じだ。弄っているうちに自然と飛ばせるようになる」


目的地まで勝手に誘ってくれるのかと期待していた少年であったが、それは疎かな考えだった。操縦桿(ステアリング)はお前が握れ、それがこの機体で目的地を目指してやる条件だと告げられる。学園で扱っているマスター機の操縦なら顔についてきたレンであったが、全く扱った事が無い機体となれば話は別だ。まずマニュアルが欲しいし、そもそも二人乗りの小型機体の特性など知る術も無い。

レンが操縦席へ乗り込むことを躊躇している間にも、爺さんは後部席の準備を進めていた。この機体は基本一人乗りのようだが、予備シートを組み立てれば狭いながらも二人目の搭乗スペースが生まれる。


「おい若いの早くしろ。怖気づいて引き返したくなったか? 大切な婚約者の事は諦めるのか?」

「イリス…… 諦めてなんかいない、俺はあいつを連れ戻す。あとな爺さん、あの娘は彼女でもなければ婚約者でもない。大切なチームメイトだ」

「なんだっていい。早くしろ」


ようやく彼が操縦席へと乗り込むと今までの不安から一転、男心が騒めきだした。全ての不安要素が消え去ったわけでは無いが、それ以上に目の前の光景に胸が高まっていた。

真新しく先鋭的なコックピット。何に繋がっているかも分からない目新しい計器。このダイアルは何だろう、このノブはどんな時に引くのだろうか。操縦桿一つとってみても、形状が格好良い。驚いたのは速度計。今まで見たことも無いような高速域まで数値が刻まれている。

男心を鷲掴みにされた彼が新型機に見惚れていると、爺さんに肩を叩かれる。


「どうだワシの新しい相棒は?」

「かっこいいし、速そう」

「はははは、なんだその子供みたいな感想は。まぁ実際こいつは速い。そこいらの量産された機体と一緒にしてもらっちゃ困る」


レンは飛行前のチェックと設定をしながら、爺さんの自慢話に耳を傾ける。

この機体、ボディーこそ量産型の平凡な物だが魔力炉が違うという。軍用、それも一点物でプロトタイプな代物を乗せているのだとか。どうしてそんなブツを一個人が入手できたのか老人は語らなかったが、この年寄の人脈ならあり得なくも無い話だ。


「いつでもいけます――」

「よし全開で飛ばしていけ」


準備万端と一声掛けると、爺さんは目一杯の魔力を注ぎ始めた。魔力量を示す計器がすぐさま振り切りそうになる。操縦席のレンは慌ててレバーを引きプロペラへの駆動力(トラクション)を高める。次の瞬間には、体は強くシートに押し付けられ、凄まじい速力から生み出された強靭な揚力によって機体は瞬く間に地を離れた。機体は上昇中だというのに、チーム機の最高速を優に上回る数値を計器が示す。爺さんの新しい相棒は伊達では無い。

機体はあっという間に巡回高度に到達。心配されていた空域の魔力量不足も感じさせないほど調子が良く、高速飛行へと移る二人を乗せた機体。普通の機体であれば安全に飛ぶことすら難しい状況下でもこれだけのパフォーマンスを発揮できるとは、軍用スペックには恐れ入る。

しかしいつまでも安堵しているわけにはいかない。次なる問題が待ち構えていたのだ。機外へ広がる地平線へと陽が沈もうとしている。間もなく夜がやってくる。


「爺さん、ここまで来て言うのもアレなんですけど――」

「なんじゃまた弱気になって。夜間飛行の経験は無いとか言い出すんだろ?」

「はい」

「そんなもん適当にやっとけばいい。別に出来栄えが採点される授業じゃあるまいし、無事に到着すれば済む話だ」


飛び方というのは本来学ぶものでは無く、実践してその場で身に刷り込むもの。それが爺さんの哲学。学外なんだから周りの目を気にせず、やりたいように試してみろと機体の行く末を委ねられる。


中央都市の飛行場を出て暫く。最新鋭の装備は未熟な彼の操縦を助け、良好なペースで飛行を続ける。普段、学園で扱っている旧世代の機体に慣れている為か、爺さんの機体は扱いやすくて仕方ない。旧型機で基礎を覚えさせるという学園の方向性は強ち間違っていないのかもしれない。


機体は間もなくレンの地元上空を通過しようかという頃合いだ。しかし、まだ鉄路を利用した場合の一割程度の時間しか経っていない。列車と違い途中停車も無ければ、地形の都合で蛇行することも無い空路。これならイリスの地元に、先回りすることも不可能では無いかもしれない。


「よし高度を200まで落としてみろ」

「えっそこまで下げるんですか、危ないですよ。この辺は平地続きというわけじゃ――」

「この機体には地形計測用の装置が積まれている。前方に障害物が近づけばベルが鳴る。分かったらさっさと落とせ」


これまた軍用の装置が平然と積まれていると抜かす老人。武装こそしていないものの、軍用機に迫るスペックこの機体。牙を抜かれた肉食獣といったところだろうか。

指示どおり高度を落とすと、何もない暗闇の中にうっすら光を放ちながら地を移動する物が目に映る。


「よし、お前さんの婚約者が乗った列車はまだこの位置だ。このペースなら余裕で先回りできるぞ」

「よかった、なんとかなりそうで―― あとさっきも言いましたけど、婚約者じゃないんで」


列車を追い抜き暫く、爺さんが指示した通りの場所に機体を着陸させた。初めて操る機体、暗闇の中での飛行と厳しい条件ながら、なんとか無事に地へ戻り肩の力を抜く。


「よくやったな若いの。言っただろ、適当にやってみても案外何とかなるって」

「おかげさまで上手く行きました。ところで、ここの飛行場? 勝手に降りて良かったんですか?」

「なに心配するな。ここはワシの知り合いの敷地じゃからな。話はあとで付けておく」

「ならいいんですが」

「それより急げ小僧。駅へはあっちの道を暫く、突き当たったら大通りを右に曲がれ」


レンは操縦席から飛び降りると後処理は機体の持ち主に任せて、駅を目指し直ぐに駆け始めた。

後に聞いた話によれば、この夜着陸した場所は飛行場とは到底呼べないような狭い整地だったという。普通の機体であれば制動しきれないような狭い敷地にもかかわらず、何事も無く止まりきれたのは皮を被った軍用機故なのか。はたまた暗闇の中視界が悪く、余計な物が目に映らなかったせいなのかは定かでは無い。

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