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6.優等生からの誘い

気がついた時には貸家の天井を眺めながら、寝床に就いていた。

絶望した。湧き上がる感情といえば絶望ただそれだけ。

誰が聞いている訳でもないのに、ワザとらしくため息を吐いた。何度も、何度も。何度吐いても心は晴れない。


学園での能力検査終了後に、新入生全員分の結果が開示された。しかしE判定となったものは、自分以外にいなかった。魔力炉を扱えるか否かの境界線と言われるD判定なら数人ほど散見したが、それよりも下はいなかった。

恥ずかしい?

恥ずかしいよ。しかし、そんな感情よりも、怒りの方が勝っていた。何処にも、誰にも向けられない怒りで手が震えた。何事にも原因があると言うのであれば、無様な現実はどこに起因している?

大抵こういう場合は自分に原因がある場合が多い。そうだよ、悪いのは俺だ。

俺に怠惰だった節があったか?

あったかもしれない。

そこさえ誤らなければ、こんな結果にはならなかった?

いや違う。嫌というほど分かっていただろ。魔力制御の能力に至っては天性で決まってしまうと。


魔力の扱いに長けているかどうか。これに関しては遺伝による部分が大きいという。また、空の世界では親子代々飛空士になるケースが多いと聞く。飛空士として食っていけるほどの能力を持った親なら、その子供も近しい能力を授かって生まれるという。先の能力検査で最高の判定を得たジークを見ればそれは明らかだ。国中に名を知られる程の飛空士の息子が優れているのは決まり切ったことなんだ。


如何に努力しようが、人として正しく生きようが、神に祈りを捧げようが何一つ変えることはできない。もう、何をしたって無駄なんだ。


「あああああ! やめだ、やめ! いつまで女々しくしてるんだ俺は。能力に関してはもう絶対に覆らない。絶対に、絶対にだ。なら残された道は一番前(操縦席)に乗るか一番後ろ(魔力炉監視)のどちらかだろ。まだ二つもポジションがある。空に行けることには変わりない。他は得意な奴に任せて、自分のできる方面の技能習得に力を入れよう」


ようやくベッドから起き上がる。再び沸いてきた意欲が抑えきれずに、じっとして居られなくなる。まだ住み始めて日の浅いこの街の散策にでも行くか?

両手でカーテンを勢い良く開けると、窓の外は殆ど陽の光を失った薄暗い空に包まれていた。終わったことを一人悩んで、随分な時間を浪費してしまったらしい。


翌日。


「機体を動かし、我々人類を空へと誘ってくれる魔力炉。この動力ユニットを稼動させるのに必要なのが魔力ですが、何時でも何処でも魔力を得ることはできません。知っての通り、魔力というものは地上には存在せず浮遊島から放出されているからです。浮遊島は一ヶ所に留まろうとせず、常に移動しているため、近辺を漂っている時のみ魔力を得られるのです。しかしこれでは魔力を使えるタイミングは、浮遊島の動き次第で不便極まりない―― さて、話が途中ですがもう時間ですので、続きは各自教本で確認しておいてください」


講義後、生徒達が疎らになった講義室で自習を続けるレンにジークが声をかける。


「随分と勉強熱心なんだな。意外だよ」

「意外ってなんだよ意外って。まぁ、あんな評価(能力値E)を突きつけられた以上、他で補えるだけの何かは必要だろ」

「そうか。もっと落ち込んでるかと思ったけど、意外と吹っ切れてて安心したよ」


既に先日の検査結果は無かったかのように、気持ちが入れ替わったレンの受け答えぶり。

そんな彼を目に、まずは一安心のジーク。だが、心配して損したという気持ちが無いといったら嘘になるのかもしれない。


「そうだ。夕方まで暇だろ、付き合えよ?」


講義室を後に、ジークはレンをランチに誘うため、学外へと連れ出した。行き先はジークに任せて彼の背を追い付いていくレン。導かれたのはテラス付きの店であった。


「本当は、テラス席がいいんだけど、外があの調子じゃな……」


風に煽られ、音をたてる立て付けの悪いガラス窓。強風が吹きつける度に振動する窓の外では、軽く砂埃が舞いご自慢のランチをテラスで嗜む雰囲気ではなさそうだ。

オーダーした品が届く前にジークが本題へと入る。


「チーム単位で行われる最初の試験、今年はその試験で足切りが発生するって話。聞いてるか?」

「あぁ知ってるよ。生徒に競争意識を持たせる一環だとかなんだとか……」

「今年からの試みで、試験最下位のチームが脱落させられるって仕組みで――」


飛空士科に入ったことで、自分のキャリアが約束されたと勘違いし、学園の格式に背くような生徒が少なからずいる。そういった意識の低い者を生まない為にも、今年から新たに導入されたのが成績不良者の強制除籍だという。空の世界は実力の無い者に対しては容赦がない。

実のところ、レンが補欠として収まった特別増員枠はこの仕組みを試す為に急遽設けられたものであったのだ。


「なぁレン、俺と同じチームに入らないか? 今日の昼飯は俺が出すからさ」

「おっ、昼飯代出してもらうなら乗らない手は無いな。 ……いくら何でも、安請け合いすぎるだろ」

「言うほど安くないぜ、ここの店?」


一番口にしたかったであろう話題が始まったタイミングで、ランチがテーブルを飾った。一先ず、話す事から食べる為に口の役割を切り替えつつも、この先のチーム決めについて考える。

普通に考えてジークのチームメイトというのは悪くない。

悪くない?むしろ良い。良すぎる。

間違いなく、大多数の奴がジークと組むことを夢見るだろう。極上の蜜に群がる昆虫のように、彼を巡り奪い合いなるのは想像に容易い。


飛空士科でのカリキュラムは座学を除けば、四人ないしは五人のチーム単位で行動が求められる。もちろん在学中にチームメンバーの変更などは自由に行えるが、最初に組んだメンバーで卒業まで過ごすのが一般的だと聞いたことがある。

今誘いを断れば、空いたポジションには直ぐに他の者が群がり、二度と空くことはないだろう。


目の前で平然と食事を進めるジークを眺めながら、考えを巡らせる。

ジークが視線に気づくと、食う物食って、午後の講義にさっさと戻るぞと急かされる。気付けば、テーブル上には全く手を付けていない皿の上の御馳走と、少し千切られたパンが残っていた。相方は既に昼食を綺麗に平らげ、食事の邪魔にならない様にと視線を窓の外に逸らしながら、自分が食事を終えるのを待つ。


「悪いなジーク」

「口に合わなかったか?」

「そうじゃねえよ」


ランチの代金を釣り銭無く、テーブル上に伏せ立ち上がる。

こういう時はどういう顔をすれば良いのだろうか。

その時の表情は傍から見ると、怒っているように見えたようだ。


「そっか…… って、そんなに怖い顔すんなよ。別に逆恨みなんかしないから」

「俺みたいな格下が断れるような立場じゃないっていうのは理解している――」

「そんな卑屈になるなって。実際、空に上がってみないと分からないだろ? 個人の能力とチームでの力っていうのは別物なんだから。だからさ、そんな格下とか悲しい事言うなよ。やっぱり昨日の結果で病んでるのか?」


突き付けられた事実に対し、全てが吹っ切れたと言ったら嘘になる。

まだ結果を受け入れ切れていない自分に気付き、苛立ち、顔が強張り声のトーンが下がる。


「怖い!怖い!怖い! 取り敢えず頑張れや。俺もだけどさ。チームは違えど、敵同士じゃないんだから。これからもよろしく頼むぜ」


ジークは嫌味の無い笑顔でそう言い放つと、お代を卓上に置き、先に退店する。二人分のお代を置いて……


気さくなジークに対し、自分はなんて嫌な態度を取ってしまったのだろうと気付く。他人に、自分の弱みを見せてしまい情けない。でも、彼にだけならそういう部分を曝け出しても良いと思えた。

ただし、男同士のそういう関係に発展するのは御免被りたいところである。

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