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55.行方知らずの隊長

「光り物! 光り物だ!」


酒の匂いが充満する小汚い部屋、またの名を酒盛り部屋という。

良い歳をした男たちは口を揃えて、その言葉を吐き出していた。彼らはレンの宿舎に住まう先輩飛空士達。無料という条件に釣られて身を寄せる飛空士達は皆訳ありだ。

そんな彼らを前にして、我ながら相談する相手を間違えたと後悔するレン。しかし、酒盛り部屋に足を踏み入れてしまった時点で既に時遅し。

賃料タダという誘惑に負け、此処に引っ越してきて暫く。レンもここでの生活に大分慣れてきたようだ。しかしそれは主に悪い意味での慣れを意味する。収入には困らないとされる飛空士という肩書を持ちながらも、金の掛からない宿舎に集うような男衆。正直ろくな奴がいない。

彼らにとって汚れを知らない若き学生は格好の餌食。レンは廊下で先輩とすれ違うだけで可愛がられる。そんな彼が、先輩達の巣穴である酒盛り部屋に足を突っ込んだのが最後。

レンは頭の七割が酒に浸かっているような先輩達に囲まれ、絡まれているのが今の状況だ。

そんな近寄りがたい連中相手でも誰でもいいから相談し、何か解決の糸口を見つけ出したい。それ程に少年は気負っていた。


「いやだから、女の口説き方が聞きたいんじゃなくて。どうしたらまた自分たちの元に戻ってきてくれるか、という話で……」

「だから言ってるだろ光り物だって。光り物を見せれば女は機嫌が良くなるし、簡単に脚を開いてくれる――」


酒が回り過ぎた彼らは、もうダメそうである。当てにならない。レンが尋ねている内容を三割も理解できていないだろう。

彼らの巣穴に入ってしまったが最後。レンは地獄絵図と化した部屋に朝まで拘束される羽目になった。


翌日、一睡も出来なかったレンの姿が学園にあった。気持ちの入れ替えも出来ず心が一向に軽くならない彼は座学に励む。運よくカティアも同じ講義を受けていたので、彼は隣の席へとお邪魔していた。事の引き金を引いた張本人は激しく落ち込んでいるのかと思いきや、意外にも彼女はいつも通りの愛嬌を見せ、受け答えする。


「つまり隊長の宿舎を知りたいんっすね?」

「あぁ。今朝から学園中を探し回ったが見かけてない。それに、チーム部屋の私物もまだ取りに来てないみたいで。たぶん宿舎にでも篭ってるのかと思って」

「そうっすね、その可能性が高いっすかね。隊長、ウチと別の門から学園に出入りしている辺りから察するに旧市街の寮に住んでるんじゃないっすか」


カティア曰く、飛空士科の女子寮は中央都市に二か所あるのだとか。どちらの寮にイリスが居るのかもおおよそ見当がつくと語る。なら話は早い、場所を聞き出そうとするレンにカティアは警告を発した。


「女子寮とだけあって男子禁制っすからね。女装でもしない限り捕まるっすよ」

「男子禁制、マジか。あと女装とか変な事言うなよ」

「まぁレンはちっこいんで、女装しても気付かれ無さそうっすけどね」

「いつも言っているが、俺は標準的な体型だ」


いつものカティア節が飛び出してきている様を見る限り、彼女は昨日の一件はさておき平常運転に戻っているようだ。

ともあれ、レンがイリスの元を尋ねるのは厳しそうである。そうなれば必然的に、カティアに頼み込む流れとなる。しかし、話題を振った途端に彼女は声のトーンを落とし、俯き加減へと移った。


「ごめんなさいっす。まだ隊長に会いに行く決心がつかなくて、もう少し待って欲しいっす」

「もう少しって、そんな流暢な事言ってられないぞ」

「昨日の一件は反省してるし、謝る気はあるっすよ。でも自分からいざ行くとなると、まだ顔を合わせられそうにないっす」


あれだけイリスの心をえぐり出す様な発言をしておきながら、目の前の彼女は何を言っているのか。事の一部始終を知っている人間が今の発言を聞いたら、そう思わざる得ないかもしれない。

しかし、カティアはカティアで取り消せない過ちを犯し負い目を感じているのだろう。

レンは少し話題を変えてチームメイトのもう一人、エイルはどうしているのかとカティアに尋ねた。彼女が『あそこにいる』と指差した先には褪せた水色で短髪の少女の姿が垣間見える。


「さっきから後ろ姿を見てるっすけど、ルーちゃんにしては珍しく居眠りもせず、しっかり講義受けてるっすよ」

「珍しいというのは否定しないが、そうみたいだな」


今まであれば同席していたチームメイトに板書を託し、眠りに落ちてたエイル。そんな彼女が今は一人で黙々と講義に耳を傾けている。辛辣ながらも的を得たイリスの言葉が心に刺さり、エイルは変わろうとしているのかもしれない。


「あっ、寝落ちしたっすね」

「寝たな……」


前言撤回。講義も終盤になるといつもの様にエイルは机に伏せ、眠りの世界へと移って行った。


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