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53.決壊

予選最下位。

ただし敗者復活戦の成績如何によっては本戦進出の可能性あり。意気揚々と挑戦したトーナメント大会であったが、イリス隊長率いるチームは散々な結果に終わった。幸いにも敗者復活戦による救済措置が後日用意されているが、彼女らのチームが再び戦線に戻る目途は立ちそうに無かった。

失意のまま会場から引き揚げ、チーム部屋へと戻ってきた四人。ようやく互いに口を開いたと思えば、責任の擦り合いへと発展していた。


「そもそもウチらの身の丈に合っていなかったんすよ。隊長はそんなに生き急ぎたいんっすか」

「身の丈に合っているかどうかなんて、実際にやってみないと分からないでしょ。それに合っていなかったら出場しちゃいけないの?」

「迷惑なんっすよ。ウチだって個人として消化しなきゃいけない講義も残っているし、それを犠牲にしてまで出場したらこの様。堪ったもんじゃないっすよ」


何時もは冗談交じりに突っつき合っている二人も、この時ばかりはそういった雰囲気では無かった。カティアは相手の非を見つけ認めさせようと必死で、対するイリスは論理性を失った言葉で返す。二人の揉め合う光景は過去にも見られたが、ここまでの険悪さは醸し出していなかった。


「はぁ…… もうこういう無益な言い合い止めにしないっすか? 前のチームリーダーを彷彿とさせて、ちょっと気分悪いっす」

「はっ? なによそれ。チームで何が問題だったか話しているのに、それが無駄な事だって言うの」

「無駄っすよ。どうせ入学直後の試験を乗り切る為だけに寄せ集めた、仮のチームだったっすからね」

「仮は仮よ。でもどういう形であれ、その場で精一杯善戦しようとは思わないわけ?」


魔力放出の疲れからか、着座しながらカティアといがみ合っていたイリス。ついに重い腰を上げ立ち上がった。彼女は声を大にし、語尾は上がり剥き出しになった抑えきれない感情をカティアに向ける。

カティアの言う通り、このチームが仮のものであるとイリスは今まで散々強調してきた。しかし、いざその事を言い訳に使われるとイリスにとっては都合が悪いようだ。

彼女は更に声のトーンを上げ、普段の凛とした顔は怒りに満ちた様相となりカティアと対峙する格好に。睨まれる覚えが無いのか疲労困憊なだけなのか、カティアは視線を合わさず目を瞑りながら対峙する。


傍から見てもどちらかが取り乱すのは時間の問題となってきた。嫌な緊張感が部屋を包み込む。エイルは普段見せないイリスの言動に恐怖にも近い感情を覚えたようで、二人の言葉が途切れたところでようやく口を開いた。


「イリス怖い……」

「エイルシファーあなたもあなたよ。いつまでも他人に頼るんじゃなくて、自分の役割を見つけなさい。そもそも、あなたは何しに飛空士科に来ているの? 寝るため? 暇つぶしのため? いい加減にして」


今まで口にせず堪えてきた言葉は脆くなった壁を突き破り、エイルへと注がれた。突然矛先を向けられたエイルは堪らず、イリスから後退りし距離を取るとレンの袖を掴む。


「あるよ…… ルーにはちゃんと目的がある。イリス、なんでそんなに怒ってるの?」

「怒るわよ! リーダーの指示は聞かない、努力はしない、自分の気分次第で行動する。私には隊長としてチームの成績を保つ責任があるんだから」


イリスは怒っている事を認め声をあげると、手を突き出し壁を叩いた。不意に自分の頭上の壁を叩かれたカティア。

暴走気味に一人勝手に感情を高ぶらせているイリスを目にカティアは内心笑いを堪えていた。黙っていられなくなったのか、流れに任せ何気なく発した彼女の一言。それが全てを終わらせることとなる。


「あぁ―― もしかして隊長あれっすか? 女の子の日で機嫌が悪いんすか?」


まさか大事になるとは思わず彼女は口にしてしまった。


「おい、カティア――」

「あっ……」


カティアが発言した直後、レンは間髪入れずに立ち上がり彼女を叱咤する。口にした本人もそれが失言だったと直ぐに気付くも、既にその言葉はイリスの尖った耳へと届いていた。

たった一言で先程までの言い争いが嘘の様に部屋が静まり返った。


イリスの様な混血種(ハーフ)は決して子を宿すことができない。彼らぐらいの歳にもなれば常識として誰しもが知っている事である。そしてこの類の話はデリケート極まりないので当人がいるような場で口に出す事はご法度。

もともと種に関しての云々は公の場で話題には出してはいけないとされる。まともな親なら子が幼いうちから、当たり前の事として教え込み道徳だ。幼稚な時期を脱し、種の違いを理解できるようになれば、決して公でそのような話題は出さないものである。


言い争いの最中、感情的になっていたとはいえカティアのそれは迂闊な発言であった。

仲間だと信じていた者から差し向けられた言葉に耐えられるほど、感傷的になっているイリスに余裕など残されてはいなかった。

彼女は三人に背を向け数歩進むと、ドアに手をかけで言い放つ。


「この仮チームは今日限りで解散。後は各自で勝手にやって」


彼女は振り返ること無くドアを閉めると、チーム部屋から去って行った。

この解散発言を最後に彼女は姿を眩ませた。


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