51.強敵揃い
結局イリスの判断で航空トーナメントへの出場を決めたものの、周りのチームからは嘲笑われた。私たちですら出場を躊躇うというのに、学年最下位のチームが恥も恐れずよくもエントリーしたものだと。元々周りの目など気に留めないカティアとエイルは笑われようが何だろうが、恥じる様子は無かった。イリスも覚悟を決めたからには周りの声などシャットアウトして、自分たちの目標に集中し準備を進めた。
果たして各国の猛者たちが集まる大会への出場は本当に無謀だったのか。その答えが明らかとなる第40回航空トーナメントの開催を明日へと控えていた。
今回の舞台は我らが中央都市の上空。勝手知りうる自分たちのホームで飛べるというのは大きなアドバンテージだ。好成績への期待が俄然高まる。
敵集団を地元で迎え撃つレン達は、大会を前に偵察へと来ていた。
地元開催の当校学生は当日に学園の練習場から直接飛んで会場入りすれば良い。しかし、アウェイの参加者達はそうもいかない。会場となる国営の飛行場には各国から選りすぐりの学生たちが集り、自分たちの身を託す機体の整備に追われていた。
「いやぁ、どちらさんも手強そうっすね」
「あれ、ティアあれ見て。なんか速そう……」
各国から集まった機体は形式様々で、学園で使っているマスター機とは一味違う物が勢揃い。軽く展示会を回っている気分になってしまうが、他所に見惚れている場合ではない。前日に会場へ足を運んだのは偵察の為である。
明らかに自分たちの機体よりも型が新しく、性能面で優れているであろうマスター機が多数見受けられる。
その中でもエイルとカティアが思わず見入っていたのは、細身で凹凸の少ないボディーに如何にも出力の高そうな魔力炉を積んだ機体だ。
「あれは一世代前の軍用機をベースにした機体ね。速いわよ、ピーキーな特性を乗りこなせればの話だけどね」
「あんな奴らとハンデ無しに争うのかよ…… あの機体はどこの学園なんだろうな」
「学園名は忘れたけど、南方隣国の有名校だったかしら。その国はウチの国以上に飛空士育成へと予算をつぎ込んでいるから、機体も高価な代物が与えられて――」
これまた座学を手中に収めるイリスの知識が炸裂。語る語る。
タイムレース形式の大会に軍用ベースの機体を持ち込まれては堪ったものではない。自分たちの機体は型落ちな上、民生品を組み合わせている様な代物だ。
偉大な飛空士を数多く輩出し、この国で最も名誉あるとされる当学園。その学園が与えた機体がこうも劣っているとは。イリスはやるせない気持ちになりかけるが、学園にも意図があることは彼女たちも承知の事実。学園側は敢えて旧型機での実習を一年目に強いているのだ。旧型故に構造がシンプルで自分たちで整備が行える事に加え、限られた性能をどう活かすのか。そういった事を頭に置きながら訓練を積んで欲しい。一年目は空を志す者として基礎をしっかり身に付ける事が重要という思いあっての、型落ち機体だという。とは言え競い合いに参加するとなれば分が悪い。
「これ割と厳しいんじゃないんっすか?」
「だ、大丈夫よ…… いくら高価な機材を使ってても、それを乗りこなす実力が無ければ持ち腐れ。その点、今の私たちは基礎もしっかり固まってきている」
元から自分たちの実力では渡りあえないと乗り気でなかったカティアは、猛者たちを前に改めて冷静な意見を口にする。今まで大会参加を猛プッシュしてきたイリスも会場に集う猛者たちを前に動揺していないと言ったら嘘になる。それでも、自分たちに分がある筈だとチームメイト、そして自分自身にも言い聞かせる。
しかし、彼女の言葉に根拠は無い。彼女らしくもない、冷静に自分たちを見れていないイリス。そんな彼女を目にカティアは何か引っかかるものを感じ始めていた。
「隊長、今からでも良いんで取りやめ――」
「ダメ、絶対ダメよ。トーナメントには絶対に出場する、結果も出す。これは隊長権限で決めた事」
「学年のエースさんのところみたいに余裕があるチームならいいっすよ。でも、ウチのチームは実技でも遅れてるんっす。大会が終わる頃には――」
「カティア、あなたさっきから何が言いたいの?」
「いや、つまり大会に出るよりも学園でいつも通りカリキュラム熟す。その方が得策ってことっすよ」
カティアの発言を耳に、大きくため息を吐いたイリス。彼女は一度決めたことは変えられないとカティアの言葉を一蹴し会場を後にした。
意見を喋らせておきながら聞く耳を持たれなかったカティア。彼女もまた肩を落とし、わざとらしくため息を吐き捨てると、無言で会場を去って行った。




