50.高ぶる隊長
「やるわよ! 出るわよ! この大会!」
太く結ばれた金色の髪束を揺らしながら、チームリーダーこと隊長イリスは高ぶっていた。彼女はレンが持ち帰ったトーナメントの概要を目に、その場で立ち上がり声をあげる。慎重派の彼女にしては珍しく即断だ。
「いやいや隊長。ウチらの実力でなんとか出来るんっすかこれ? 各国から猛者達が集まるんっすよ」
「弱気ね、あなた。学年での成績はちょっと振るわないけど、腐っても此処の生徒なのよ」
カティアからの冷静な指摘を焼き払うほどイリスの熱量は凄まじかった。普段みせないイリスの高ぶりにエイルも茫然としながら、言葉のやり取りを傍観する。
イリスの言い分は確かに正論かもしれない。学内では少しばかり成績が悪い。いや、ちょっとどころかワーストの実力であることに疑いは無い。しかし自分たちはエリートと題される最も権威ある中央都市の学園という土台の上に立っている。土台の下にいる他学校の訓練生相手なら勝負になるかもしれない。レンもイリスの考えに賛同し、残り二人の背を押そうとする。ところがカティアとエイルの腰は重く、一向に前向きな返答を得られない。エイルに至っては
「えぇ…… 面倒くさい」
と一掃してくる始末。
「ルーちゃんに同じく、争い事は好きじゃないんで」
「争い事って…… まぁ競い合いはするけど、誰も血を流す訳じゃないんだから。あっ、上位に入ればチーム予算も増額されるらしいわよ。そうなれば、色々捗るわよカティア。この部屋を過ごしやすく私的な空間にしたり――」
「マジっすか? それはいいっすね」
心変わりが早い、早すぎる。まさかそこで釣られるとは。レンも突っ込まずにはいられない。
「カティア、随分と安いプライドだな」
「んっ? 何か言ったっすか?」
こころなしかカティアの表情が怖い。口出し無用と言いたげな塩対応で言葉を返され、レンとの会話が続くことは無かった。
この日はエイルとカティアが先に帰宅し、残り二人も帰ろうかという頃になると窓の外は分厚い雲も相まってすっかり暗くなっていた。
帰り支度も済み、そろそろ退室というタイミングで、レンはイリスに聞いてみた。どういった風の吹き回しで、イリスがこんなにも出場に前向きなのか。
「レンも含めてメンバーには、自信を持って欲しいなと思って…… 何か変?」
別に『おかしい』などとレンは一言も言っていないが、イリスがそこまでチームの事を思っていることに彼は驚いた。隊長なんて肩書に過ぎないとばかり思っていたが、彼女は肩書以上の役割を果たそうと奮闘している。頼もしいし、何か手助けをしたいと思う反面、彼女が力み過ぎているようにも感じられ不安が残る。
そして思い返せば、隊長を務める彼女自身がこのチームは仮の形だと強調してきた。仮設ゆえ何かちょっとした、小さなきっかけで崩れてしまう事が無ければいいが。
チーム部屋の施錠を終え校舎から踏み出すと、空にはひと際黒く分厚い雲が居座り、濡れた土の匂いを乗せ強い風を吹かせていた。




