5.落ちこぼれの称号
「あなた達、初年度の学生が操るのがマスター機。この機体は四人、もしくは五人で搭乗し運用されます。というのは、基礎として大分前に講義で説明したけど、編入生の為にもう一度確認の意味も兼ねて――」
学園に編入生扱いとして入学し数日後、新調した制服に身を包み講義を受けるレンの姿があった。他の生徒と比べて出遅れている彼は、座学であろうと何であろうと人一倍取り組む必要がある。講師の話に耳を傾けつつ、教本を目で追う。
「マスター機は操縦士一人、魔力炉運転に二人ないしは三人、魔力炉監視に一人を配置し運用します。皆さんはチームを組み、いずれかの役割を担うことに成ります。ただし、望めばどのポジションにでも就けるという訳ではありません。適性があります。大きな壁となるのが、魔力炉運転に必要となる魔力の供給能力。残念ながらこれは訓練によって高めることはできず、天性によって決定付けられます。魔力炉運転を満足に行う能力が無い者は自ずと操縦士か魔力炉監視の役割しか残されていません――」
飛空士として重要な素質、それが魔力を扱う能力だ。もちろん能力の優劣を可視化するための尺度が存在する。
魔力の供給能力は供給量と安定性の二つの指標で評価される。供給量はAからFの六段階。安定性は1から5で五段階。
供給量評価でD以上の能力が無いと、満足に航空機用の魔力炉を動作させる事は叶わない。最低評価のFに至っては魔力を一切扱えない者に与えられる称号だ。
「講義後、初年度の皆さんには能力検査を受けていただきます。なお、検査結果は公表されるので、今後チームメイトを探す際の指標として参考にしてください」
――講義後
高い天井、走り回れる程度には広い床面積、窓からの木漏れ日によって明るく照らされる室内。剣術の屋内競技などで使われる多目的空間へとやってきた。
検査会場は百人を超える飛空士科一学年の生徒で賑わっている。
『検査待ちの最後尾はこちらです。検査は一人ずつ行います、横に広がらないでください』
一台の検査機器に連なる隊列は、つづら折りを何度か繰り返し形成されている。検査は少々時間を要し、一度に一人ずつしか行えないため列の進行は遅い。
検査にかける意気込みは人それぞれ。
準備運動とばかりにストレッチをしながら、列を進む者。効果があるかは不明。
自分のキャリアを左右する重要なイベントを前に、足が小刻みに震える者。気の毒だが良い結果が出せるようには見えない。
順番が回ってくるその瞬間までイメージトレーニングに抜かりがない者。努力は天性をもひっくり返すと信じて止まないのだろう。
既に学園に馴染み、気の合う者同士で歓談しながら検査順を待つ者。判定結果にかかわらずチームを組む気でいるのだろう。
一方で検査を終え、待機組とすれ違う者たちの顔色も一括り、あるいは二つ程度では表しきれないほど様々である。
予想以上の好結果にニヤつきが抑えきれない者。
素質が無いという現実を突きつけられ、落胆する者。
概ね予想通りの結果に安心しつつ、秀でた才能を持っていない事実を目の当たりにし浮かない顔の者。
仲良し同士で結果を喜びあって、チーム決めの話題で盛り上がる者――
順番が近づき、検査機器が見え始めた頃、列の前方で歓声が湧き上がる。
レンと時を同じくして編入扱いで入学した、伝説の飛空士の息子ことジークが検査を終えたらしい。本人に聞くまでもなく結果が耳に届く。
『おぉぉぉ! 出た、A判定!』
『安定性評価は3でA3か。さすがウルフェンドール、家名に偽りなしだ!』
『B判定ですら、ここまで一人しかいなかったのに』
レンは素直に賞賛を送ろうと思った。同じ編入生として勇気づけられる節があるからだ。そして、同じ編入生として自分も負けてはいられない。
――と粋ってみたいところだが、正直この能力検査に関しては期待を寄せていなかった。入学試験を兼ねた事前の適性検査で、試験官に適性が無いと断言されていたからだ。前回の適性検査では具体的な結果が開示されないため、今回改めて能力が可視化される格好となる。
入学前の適正検査が芳しくなかったとは言え、試験官が脅しただけではないのか。適性検査で使用した検査機器が狂っていたという線もある。もしかしたら、大逆転で意外な程の好成績が出るかもしれない。楽観的な考えが頭を巡る。
流石にA判定とまで高望みはしないが、B判定くらいは叩き出しておきたい。いや出せるに違いない、そう信じよう。編入生として出遅れた分は天性の力で巻き返す!
意気込むレンとすれ違ったジークが短い言葉でエールを送る。良いだろう、見せてやろう真の実力を!
大蛇のように長かった待機列も随分と短くなり、検査順を次に控えた。
目前で検査を開始した少女の後ろ姿を眺めながら自分の出番を待つ。腰まで伸びた金髪を、一本に結んだ少女は、横髪から少し尖った耳を覗かせる。エルフ族と呼ぶには突出が足りないその耳は、彼女がヒューマン族とエルフ族の混血種である事に他ならない。
現在、世界に住まう者達は三つの種に分類することが出来る。世界の人口をほぼ均等に二分しているヒューマン族とエルフ族。そして極めて稀な存在として混血種というどちらとも言えない者がいる。
稀な存在であることに加え、そういった種が生まれてくる背景も合わさり、色々な意味で目立つ存在といえる。
何がとは言わないが、彼女も多くの気苦労を乗り越え飛空士科への入学までこぎ着けたのだろう。
「はい、結構。B1ですね。次の方?」
金髪の少女はB判定という最高ではないにしろ、優秀な結果を叩き出す。それにもかかわらず納得のいかない表情で『絶対Aだと思ったのに……』などと口から漏らす。思わず目で追ってしまう様な美しい金の束を靡かせながら、彼女は検査場を去っていく。
――随分と自信家なものだ。こんな娘と同じチームになれたら、自ずと伸びていけそうだな……
「次の方? 時間が押してるんで早くしてください」
検査員に急かされ、いよいよ検査順が回ってきた。検査機を前に肺の空気をすべて吐き出し、新鮮な空気を目一杯に取り込み直す。不規則な模様が刻まれ、少し楠んだ銀色の球体に両手を添える。人間の頭部より少しばかり大きな銀球は人肌より冷たく、手のひらに心地よさを与える。
彼は球形へと意識を集中させ、魔力を検査装置に流し込む。魔力に反応を示し球体に刻まれた溝に青白い光が走る。
周囲の空間から最大効率で魔力を取り込む為に、全身隅々まで感覚を研ぎ澄ます。全身から魔力を帯びた細い糸が集まり、徐々に絡みつく。紐となり縄となり、最後は両の手から装置へ通づる太い魔力線をとなる。固く圧縮され、且つ歪みの無い真球を粘土から生み出すようなイメージを思い浮かべ、球体に対し魔力を丁寧且つ無駄無く注ぎ込む。繊細さも疎かにせず、出せる力を全て出し……
「はい、もう結構。ほら、おしまい、おしまい……」
レンの意識は魔力制御に食いつぶされ、脳は検査員の声を理解していなかった。肩を何度か叩かれようやく検査終了に気付いたレンが慌てて銀球より手を退ける。
「えーっとE4 ……はい、次」