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41.過去と向き合う時

事故も起こさず、元気そうにやっているようで安心した。姉貴はそんな一言から長い夜の言葉の交わし合いを始めた。


「よく飛空士科に入れたわね」

「まぁ補欠なうえに、特例中の特例でだけどな」

「ちがう、違うレンの話じゃなくて。あのちっちゃい子、エイルちゃんよ」


何を聞かれるのかと身構えているたレンであったが、最初の話題はちっこい少女ことエイルの話題であった。


「見た限り相当危なっかしく見えるけど、大丈夫なの彼女は?」

「まぁそれに関しては否定しない。俺たちがしっかりフォローしないといけない部分は多い。でも、チームとして一緒に飛んでいる限りは大丈夫だ」


本人がこの場にいないのを良い事に、軽く失礼な事を言い出した姉貴。とはいえ、レンも彼女の言葉を認めざる得ない。

時折、湯気立つ珈琲を啜りながら姉貴の話を聞き入れる続けるレン。


「エイルちゃんもそうだけど、私としてはねレンの事が心配なの。空へ上って、お父さんと同じような事にならないか――」

「……」


レンは父親の話題を出された瞬間、唇からカップを遠ざけると無言で受け皿へと戻した。それは沈黙への一歩だった。彼は彼女から目を背け、意味も無くテーブル脇の窓から外を眺めはじめた。

彼女もこの話題を出すからには、気まずい空気になることは重々承知だった筈だ。それでも、弟同然に彼の成長を見守って来た姉にしてみれば、そろそろ現実と向き合って欲しかったのかもしれない。彼だって子供ではない、もういい歳なのだから。


「レン――」

「今朝。今朝、逢いに行ってきた」

「そう……」

「中央都市郊外の霊園だ。前に行ったときは10年近く前、葬儀の時だったな。あの時は幼かったから、意味も分からず…… 意味も分からないまま俺の時間は殆ど進まなくなったんだ……」


一通り湧き上がってくる言葉を口にすると、窓から姉貴へと視線を戻す。しかし真っ正面にいたはずの姉貴は見当たらず、気づけば彼の横へと陣取っていた。


「今日、レンは父の眠る地へ足を踏み入れた。ほんの少しだけど、受け入れる事が出来た。充分なんじゃないのかな。今はそれ以上考えなくて良いんじゃない」

「そういうものなかな――」


姉とは言え一つしか歳の変わらないレンにとっては幼馴染のような存在。そんな彼女に絆され心の内を漏らしてしまった自分を情けなく思ったのか。レンは再び窓の方へとソッポを向くと、後頭部を掻きだす。


彼が他所を向いている間に彼女は二杯目の珈琲を酌んできた。積もる話をもっと聞かせなさい、とでも言いたいのだろうか。


「話題を変えるわよ。レンと同期でジークって奴が入ってきたって聞いたけど、あの有名な飛空士…… なんだっけ?」

「ウルフか?」

「そうそう、その人の息子らしいじゃない。絡んだりするの?」

「あぁ。世話になってるよ」

「彼、凄いの?」


ジークという男が凄いか?

それはもう、凄いなんてものじゃない。近年稀に見る逸材は父の名を語るに相応しい実力だと、講師陣の間でも評判だ。もちろん同じ志を持つ科の生徒たちからも絶大な評判を得ている。

所詮、自分なんかと比べられる相手では無い。同じ条件で編入した者同士とはいえ、瞬く間に実力差が現れた二人。ジークの話題になるとレンは劣等感を抱かざる得ない。


「そのジークとかって奴に、負けず劣らずやれてるの? 父親に見せられる程度には上手い事やっていけてる?」

「あぁ、負けちゃいないよ。まだまだあの高みへは遠い道のりだけどさ」


レンにとって痛いところを突きに行った姉貴。学年唯一の最低評価Eを授かり、他の奴からも相手にされずチームを組めずに売れ残り。やっとの思いで組んだチームは実質最下位の実力。そんなこと口が裂けても言えない。深入りされる前にこの場を去ろうと、レンが立ち上がると姉貴は寂しそうに彼を見上げた。


「まだまだ夜はこれからなのに…… いやぁん……」

「何が『いやぁん』だよ。色気使うんだったら、胸に何か詰めてからに――」

「うっさいわね! さっさと帰りな。今日は店じまいだ。あと最後の学生生活なんだから、沢山女遊びを経験しときなさい」


彼女らしい締めで、レンを店から送り出す。夜道へと消えゆく彼の背に彼女が言葉を投げた。


「また戻ってきなさいよ。今度はチームメイトの子たちで全員揃ってね。席空けて待ってるわよ」

「いつもガラガラじゃねえか、姉貴の店……」


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