35.長旅は三等車にて
雨風を凌ぐドーム型の屋根に覆われているとはいえ早朝ということもあり、肌寒さを感じる駅のプラットフォーム。寒さも相まって機関車から漏れる蒸気も一段と白く映る。
始発の刻限を迎えたプラットフォームでは、間もなく列車が旅立つ旨のアナウンスが響き渡る。四人が駆け足で客車に滑り込んだ折、ドアが閉ざされる。なんとか間に合ったようだ。一日に多くの列車が発着するターミナル駅は悠長に列車を休ませている余裕など無い。客車同士が軽く突き合った後、ゆっくりと景色が流れ始める。レンの地元へ向け長旅が始まる。四人はイリスが確保した切符の指定席へと向かった。
「で、俺たちの席はここか?」
「そうだけど」
「マジか…… 三等車じゃないか……」
レンは知っている。目の前の座席が長旅とは最悪の相性を誇る、最低グレードの代物であることを。長時間乗車の際にはなかなかの苦痛を伴う事は、彼自身が証明済みである。何の緩衝剤も敷かれていない木製の二人掛け座席。その座席が向かい合う格好で四人分のボックス席を形成する。
「みんな、どこに座る――」
イリス隊長が各自何処に座りたいか尋ねようとする。
「ウチはここっすね」
「じゃあルーはこっちにする」
しかし彼女が言い終えるよりも先に、カティアとエイルが我先にと窓側の席を陣取った。残った通路側の席にレンとイリスが掛けると早速不満を漏らし始める。
「狭い…… やっぱり狭いぞこれ」
「そうね。想像以上に窮屈ね……」
何も考えずに座れば、膝同士が干渉し合うほど向かい合った席の間隔は狭い。大して大柄では無いレンとイリスでも例外ではなくこの問題に突き当たり、膝が押し合うほどだ。ここは一工夫して脚が千鳥になるよう体をずらして座る。少しはマシになっただろう。
一方で我先にと窓際を占領していたカティアとエイルは幾分か足元には余裕があるようだ。エイルが小柄であるが故の事だろう。
「いやぁ想像以上に窮屈っすね。帰りは客車のグレード一つ上げた方が良さそうっすね」
「私も賛成よ」
「差額は隊長の自腹で――」
「自分で出しなさい」
街から郊外へと脱出した列車は車速を上げ、レールの繋目を跨ぐたびに心地よい音を響かせる。床下から刻まれるリズムも相まってか普段から眠たげなエイルは目を閉じたまま揺られていた。いつもはお喋りなカティアも他の乗客がいる場では達者な口を閉ざす。そして時期に彼女も眠り始める。
向かい合っているレンとイリスは何をするわけでも無く、首を斜めに車窓を眺める。線路脇の木々は瞬く間に流れ去り、少し奥に見える民家はゆっくりと流れ、さらに奥に見える山々は時間を掛けて車窓を移動する。
列車が横に揺れレンの膝がぶつかりあう度に、イリスは気まずそうに自分の髪を摘まんでみたり、無駄に水筒の中身を口にしたり……
長い鉄路の旅はまだまだ続く。
やがて鉄路は単線となり、山間部へと差し掛かる。その頃、イリスの様子に異変が現れ始めていた。




