34.早朝のターミナル駅
この立派な佇まいを拝むのは二度目だろうか。いや三度目かもしれない。
入学初日に中央都市にやってきて以来、久方ぶりにターミナル駅へとレンは足を踏み入れた。まだ早朝であるにもかかわらず、駅前の広場では都を旅立とうとする者たちで賑わっていた。老若男女、種族様々、身分様々、彼らは皆朝の一番列車で各地に向かうのだろうか。
レンは駅へと入るとエントランスに掲げられた列車時刻表を確認しつつ、旅を共にする三人を探す。三人を、というよりはイリスを探した。真面目で、学外でも隊長としての威厳を気にしてそうな彼女のことだ。三人の中では恐らく彼女が一番乗りで、集合場所に来ているだろう。
そして発車間際にカティアが顔を見せたところで『遅い』とでも言うのだろう。そんな普段よく目にする光景を思い浮かべながら、エントランスを見渡していると褪せた水色髪で小柄な少女の後ろ姿が彼の目に入った。
これは意外。本日の一番乗りはエイルのようだ。ところが、エイルの脇には見慣れない人物がいて、何か会話を繰り広げているように見受けられる。
いつかの再現でまたナンパに遭い、というわけでも無さそう。彼女の話相手は明らかに女性なのだから。
何故レンは見知らぬ人物の後ろ姿を見ただけで女性と判別がつけられたのか。
エイルを呼び止め、彼女と脇の人物が振り返るとその理由が露となる。エイルと話していた女性は、立派なメイド服に身を包んでいたのだ。フリルを多用し、清潔感のある彩色を心掛けたであろう立派な衣装。大きな屋敷で奉公する分には最高の着こなしであろう。
しかし当然、駅エントランスという場には似合わない恰好なのは明白で、通り過ぎる人々の視線を釘付けにしていた。
「おはようエイル。この方は?」
「私のことはお気になさらず。とは言え、名乗らないのも無礼なので軽く自己紹介を。エイルシファー様専属のメイドでございます。以上です」
「――えっ、それだけ?」
そうかメイドなのか。レンも見た目で想像はついていた事である。
しかし驚いたものだ。エイルが良い所の娘だとは知っていたが、彼女一人に専属メイドまで就いているのだから。
「もう一つ聞いても良いですか。どうしてメイドさんがここに?」
「私のことはお気になさらず。とは言え、エイルシファー様のご学友なのでご説明すると、寝坊防止の為に朝起こしに行きました。その後身支度をお手伝いし、駅までお付き添いしてきた格好です。早朝の街は物騒ですからね」
「わぅ。ルーは別に寝坊しないし、一人でそれくらいできる」
「しかし、そう言われてしまうと私の御役御免となってしまいます。エイルシファー様が本家を出られて、御一人で暮らすようになってから、私は心配で心配で……」
悪い人ではないのだろう。しかし、こういうタイプは時に人を甘やかしすぎて、ダメにする事もある。
後にレンがエイルから聞いた話によれば、メイドな彼女は定期的にエイルの元に顔を出しては、身の回りの手伝いをしているのだとか。エイルの親が差し向けた親心なのか、あるいはメイドの独断行動なのか……
やがてイリスとカティアが揃ってエントランスに姿を見せた。チーム四人が揃いそうになったところでメイドは『私の事はお気になさらず』の一言を残し、手早くその場を去って行った。
「いやいや、皆さん。おはようっす」
「おはようレン、エイルシファー。四人分の切符、用意してきたわよ」
「隊長の自腹っすか?」
「違うわよ。後で払いなさい」
「ぶー…… それにしても、さっきすれ違ったメイドさん。綺麗な恰好だったっすね――」
カティアが持ち出そうとしたメイドの話題を遮る様に、レンは朝の一言を済ませた。エントランスに吊り下げられた大時計と発車案内板を眺めると、彼の地元への一番列車は間もなく発車時刻を迎える。
「あんまり立ち話している時間は無いわよ。12番線からの発車みたい。急ぎましょう」
「隊長? 列車内で何かつまめる物買ってきていいっすか」
「カティアあなたね。もう発車まで時間が無いのよ。向こう着いてからにしなさい。あとつまめる物とかオヤジ臭いからやめなさい」
「ぶー」




