23.運命の日
清々しい朝、学園へと通ずる歩きなれた道。いつにも増して、空模様が気になり、レンは何度も見上げてしまう。
雲は疎らで青空優勢の晴れた空。雲よりさらに高くに漂うは浮遊島。空へ上がるには申し分の無い良好なコンディションだ。
学園の門をくぐり、飛空士科の校舎へ向かい広い敷地内を歩む。もうここを通るのも最後になるかもしれない。消極的な事を思い浮かべながら、チーム部屋の設けられている校舎へと入る。昨晩静寂に包まれていた廊下も、今では嘘のように賑わっている。学園に入って初の試験を前に、皆テンションを抑えきれないのだろう。順位はともあれ、足切りで落第となる心配は無用。さぞ気楽な気持ちで挑めるのであろう。
チーム部屋へとやってくると、既に扉は解錠されており人影が映る。『イリスは今朝も早いな』などと声を掛けようとしたが、そこにいたのは意外な人物だった。
「珍しく早いな、カティア」
「にゃはははは、おはようっす。こんな大事な日に時間ギリギリ登場とあらば、誰かさんに嫌な顔されそうっすからね」
「いや、イリスじゃなくても嫌な顔されると思うけど。それはともかく、嫌な顔されてたく無いんだったら、止めておいた方がいいぞそれ」
朝一番乗りのカティアは砂糖菓子の詰まった瓶に手を突っ込み、順調に消費している。確かこの砂糖菓子はイリスの私物で、以前もカティアに貪られた代物だ。あれ以降、瓶を見かけないと思っていたら、どうやら目につかない場所へと念入りに隠していたらしい。それを見つけ出す彼女も彼女だが……
暫くして、廊下からイリスとエイルのお喋りが耳に入ると、カティアは慌てて瓶を元あった位置へと戻す。罪悪感はあるらしい。
「おはよう。って意外ね、カティアがもう来てるなんて。今日は雨…… いや、今日こそ飛べるかもしれないわね」
「にゃはははは。それは縁起がいいっすね」
「試験実施前、最後のミーティング。始めるわよ」
試験の概要がイリス隊長の口から伝えられる。まずはコレを……
と、卓上にコースが記された地形図を広げて見せる。試験内容は単純で練習場から飛び立ち、設定されたコースを辿り、戻ってくる。その間のタイムを競うという形式である。大幅なコース逸脱はタイムの加算。その他規定違反はタイム加算、最悪の場合は失格となる。もっとも、タイム加算のペナルティが与える影響など軽微らしく、ほぼ例年、計測タイム順で順位が決まるのだとか。
単純な試験ルールを理解できていない者はこの場に誰一人としていなかったが、全員渋い表情が浮かべたまま。タイム云々以前に、機体を浮かび上がらせる事すら成功させていない。大一番で初飛行に成功するかどうかも分からない、この現状。せめて彼女たちを意気込ませる一言でも掛けてあげたい――
「大丈夫っすよ。ほら何時も遅刻気味のウチが、朝一で来たんっすから。しっかり飛びきった後、雨も降って、大嵐まで来ちゃうっすよ」
「わぅ。それ、大嵐が来たら学園が消し飛んじゃう……」
くだらない冗談と、エイルの鋭い突っ込みにようやく固まっていた表情が解け笑いが戻る。廊下を行き交う生徒が増え、ドアの向こうが騒がしくなる。試験開始時間が近づき、各チームとも機体を匿っている格納庫へと向かっていく。さぁ、自分たちも行こう。四人全員が部屋を後にした。




