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13.断たれた希望

青空が垣間見えない日がここ暫く続いている。視界に映る空は雲に覆われてはいるものの、遥か上空には浮遊島が居座っている。足切りを兼ねた試験を目前に控え最後の練習期間とばかりに、飛空士科の生徒達は次々と地から飛び立っていく。


レンとイリスは焦燥感に駆られていた。

まだ飛ぶことが出来ず、地上を這いつくばっているのはイリス隊長率いるチームを残すだけとなった。彼女たちとワースト争いをしていたチームもつい先日、初飛行に成功した。

既に科を去るのは彼らで決定だと、他のチームは安心しきっている。講師陣が彼らに向ける視線も冷たい。この期に及んでまともに飛び立つことすら叶わない彼らに施す術は無い、といった具合で相手にしなくなった。

これは単なる言い訳に過ぎないが、チームを組んだのがあまりにも遅すぎた。加え、未だにチーム人数は三人で受験資格すら満たせていない。


本来、練習機は四人または五人でポジションを分担する。先頭に操縦士一人、中程の魔力炉運転に二人か三人、最後尾には魔力炉監視として一人が就く。最低でも四人が必要な練習機だが、三人で飛ばす方法が無いわけでもない。構造上は魔力炉監視の人員はいなくても、稼働させることができる。勿論、監視役のポジションはお飾りでは無く、安定した飛行を長時間継続するためには欠かすことができない。しかし、短時間の飛行であれば魔力炉の監視役を省いても支障はでない。

もう四人目のチームメイトが見つかるまで、指をくわえて他所の飛行を鑑賞している訳にもいかない。三人体制で練習を強行する事となった。


この日は授業の始まる前に朝から搭乗し、試行を繰り返すものの未だ機体を浮かせるに至らない。

イリスの魔力制御は安定性に欠け、カティアは意識齟齬で思いがけない動きをする。機体の先頭で操縦を担当するレンも、出遅れた事が響き曖昧で不十分な知識で操ろうとするものだからミスが絶えない。

高いチームワークが要求される場において、歯車が噛み合わない。徐々に苛立ちを見せ始めていた。


「カティア、あなた真面目にやってるの? 注ぎ込む魔力量を増やしなさいって言ったのに、なんで減らしてるのよ」

「いや、強めてたっすよ。隊長さん、相対性って言葉を御存じで? ウチが強くしても隊長さんまで強くしてたら、結局変わらなく感じるっすよ。隊長さんから見たら」

「違うわよ、明らかにそっち側の炉が出力不足で機体が左旋回してたじゃない。まぁいいわ、それなら確たる証拠を突き付けるまでよ。レン、今の試行、私とカティアの魔力炉にどれだけの差があった? 操縦席の計器で見てるでしょ」


呆れたような溜息をつきイリスは第三者に証拠の提出を求めた。操縦席には二基の魔力炉の運転状況を確認できる計器があり、操縦士であれば常に気を配る場所だ。


「実を言うと、見てなかった」

「えぇー?」


レンの回答にイリスは甲高い声で返す。


「俺だって手探りで、必死にやってるんだよ。小刻みに踊ってる計器の針なんか見てる暇は無い」

「何よそれ、私の魔力供給が雑だって言いたいの?」


レンに対しても盾突くイリスを横目に、カティアは声を出して笑いだした。それも他人が聞こえるような大きな声で。


「これは失礼したっす」


彼女は面白いことがあるとついつい声に出して笑ってしまう癖があると謝罪する。謝るのはいいが、なおも笑っているせいで、さらにイリスの機嫌を損ねる。


「なんかもうダメかも知れないっすね。他のチームは皆空に出払っている状態で、こんな事してるのウチらだけっすよ。ははははは――」

「ふざけんな! あんたいい加減にしなさいよ!」


焦燥感、自分の不甲斐なさ、他人との摩擦を抑えてきた何かが決壊し、ついに声を荒げて感情を吐き出した。イリスは鋭い目つきでカティアを睨みつける。それはあまりに殺気立った目つきであったため、睨まれた方も堪らず目線を逸らす。真顔になったカティアはしばらくの間、気まずそうに口を開けなかった。

全員の声が隅々までいきわたる程度の広さしかない、機内の空気は一気に悪くなる。このままの状況で続けても目標達成がさらに遠退くだけだ。一旦全員で休憩とし、レンは二人のフォローに入った。特にイリスの怒りを収めようと湧きだす愚痴を聞いて差し上げた。


レンの仲介もあって、ようやく練習を再開できそうになった頃合い。都の上空に浮遊島が最接近する。この日一番の接近で、魔力密度が今までになく高まる。魔力の供給能力が貧層なレンであっても、魔力の密度や流れというものは認識することができる。特に行先を決める操縦士にとって、魔力の分布を見極める能力は必要不可欠とされる。

初めての成功を予感させるコンディションに全員の期待が高まる。


「今度こそやるっすよ!」

「カティア出し惜しみなく目一杯、力を出し切りなさい。私も全力で力を注ぎこむから」


いつでもいける。

レンが二人にそう伝えると魔力炉へ膨大な魔力が流し込まれる。

魔力炉によって魔力は動力へと変換され、両翼のプロペラを駆動させる。この日一番、渾身の魔力供給により、プロペラは強い推進力を生みだす。今までになく力強く機体が加速しだすと全員が確信した。『行ける』と


「もっと……もっとよ!」


イリスは執念の全力供給で魔力炉に鞭を入れる。魔力供給能力でB判定を誇る彼女の膨大な魔力を絶えず受け入れる魔力炉。

しかし、無情にも魔力炉は彼女の魔力を拒んだ。

膨大な魔力を注がれ、虐め続けられた炉は悲鳴を上げ、機体を火炎が包み込んだ。火炎は直ぐに収まったが後に機外は黒煙で包まれた。


「うっ、うそ……」


魔力供給装置へ触れていたイリスの手が震え出す。


「うぅ、うわぁ」


レンは何か間抜けな言葉を発した後、機体を停止させる。

そしてカティアは暫く沈黙した後、堪えきれず笑い出した。


「にゃはははは…… やっちゃったっすね。これはさすがに面白いっすよ隊長。ある意味才能っす。直ぐに修復できそうな状況でもなさそうだし、ウチは帰るっすね」


この日一番の笑い声をあげたカティアは、今日は店仕舞いとばかりに、機体から降り我先にと帰って行った。

カティアの姿が見えなくなった折、イリスは声をあげ感情を露にした。感情の向き先はレンでもなければカティアでも無く、自分に対して向けられていた。やがて不甲斐なさで、俯き込む。操縦席に居る彼に見せる顔がない。

絶好のチャンスを不意にしてしまった。

機材まで使い物にならなくしてしまった。

もう消えてしまいたい。


そんな彼女を背に何か言葉を掛けたいという感情を押し堪え、レンが後ろを振り向くことはなかった。

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