俺はもう手遅れなんだろうか
「克也、昼休み何処に行ってたんだ?」
教室に入ると、中津にそう聞かれた。
確かに疑問に思うのは当然だろう。
「屋上で飯食ってたんだよ」
中津は気の毒そうな顔をしたあと、非難するような表情になった。
「それでも、俺たちを誘えただろ? それにぼっち飯なんてつまらないだろ」
「それもそうか⋯⋯。 なら明日からは屋上で食おう。 今日面白いやつにあったんだよな」
すると、中津は興味深そうな表情になった。
切り替えの早いやつだな。
「面白いやつ? どんなやつなんだ?」
「実はさっき屋上からカツアゲされてるの見えてさ、助けに入ったんだよ」
「へぇー、まぁ、克也は見て見ぬ振りをするとか言いつつも、愚痴愚痴言って助けに入るからな」
中津はさらっとそんなことを言った。
なんか貶されてるのか褒められているのか非常にわかりづらい。 だが、中津の事だ。 きっと貶しているんだろう。 すぐにそう確信してしまうのは中津が悪いんだろうか? それとも俺が悪いんだろうか? きっと両方だろうな。
俺はそんなことを考えながら少し遠いところを見ていた。
中津はそんな様子に訝しんで俺を見る。
「それで?」
「そしたら既にお金取られたあとで微妙な感じになってさ、その人と一緒にご飯食べて恋バナとかしたんだよ」
「おいおい! 話飛びすぎだろうが。 てか、お前どんだけうじうじしてたんだよ」
中津からのツッコミが入ったが、ここは無視する。
うじうじのところで少し心にダメージを受けたが⋯⋯。
「まぁ、そこは置いといて。 それでなかなかそいつ面白くってな。 これから毎日一緒に下校してら巻き込むことにしたんだ」
すると、中津は何か信じられない者を見る目を向けてきた。
「お前⋯⋯カツアゲよりもタチが悪いぞ」
「失礼な! 俺はちゃんと本人の許可もとったぞ?」
「それは分かってるよ。 だからタチが悪いって言ってんだよ⋯⋯」
中津は呆れたようにそう言った。
確かに俺も悪いことをしたとは思うが、そうしないと俺が耐えきれる気がしない。
「まぁいいじゃねえか。 それで明日紹介するからな」
「おう、楽しみにしとくわ」
そうしてチャイムが鳴り授業が始まった。
今日の授業が全て終わり、やっと帰宅だぁー!と思ったところで、今から綾乃を送り届けないといけないことを思い出して憂鬱な気分になった。
地震でも来てくれないかな⋯⋯なんてくだらないことを思ってしまう。
もしこの数分後に来たら俺は申し訳なさで学校に来れなくなるだろう。
俺がそんなことを考えながら、ため息を吐いていると、綾乃がこっちに来た。
「克也くん、帰りましょうか」
綾乃はそう言って俺に完璧な笑顔を向けた。
そんな様子を見ていると、つい思ってしまう。
女子はみんなこうなのだろうか?と。
だってそうだろう。
こんな猫かぶっている様子を見たら、ついつい女子みんながこうなんじゃないかと思ってしまう。
もちろん妹を除いてだ。
もしそうなら俺は女性限定で人間不信になってしまいそうだ。
だからといって特殊な性癖を持つ訳でもない。
「そうだな⋯⋯あぁ、それとさっき彼女いるかって聞かれて居るって答えたんだよ」
「そうなの⋯⋯それで会わせてやる、とか言ったのかしら?」
「そうなんだよ。 それでこの後そいつに会って私が彼女です、って言ってやってくれ」
「はぁ、まぁ仕方ないわね。 さっさと済ませちゃいましょ」
「おう、いやぁ本当に助かるよ」
それから下駄箱に行くと、利明はいた。
俺を見つけると笑顔になった。
⋯⋯ざ、罪悪感が凄い。
「来ましたか、それで彼女さんはどこですか?」
利明はキョロキョロと辺りを見てから言った。
綾乃はスルーされている。
こいつ信じていたのかよ⋯⋯。
「こいつ」
俺は綾乃を指指して言った。
綾乃は一瞬俺を睨んだが、すぐに表情を戻した。
利明は目を見開いたが、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。
「危ない、騙されるところでした。 一瞬本気にしちゃったじゃないですか。 それと星野さんと仲良かったんですね! そいえば、同じクラスですもんね!」
利明の顔は嘘をついているようにはみえない。
どうやら本気で信じていないようだ。
なんだかそれは悔しく感じる。
そして素朴な疑問なんだけど、利明って人見知りじゃなかったのかよ!
「いや、普通に恋人なんだけど」
「だから嘘はいいですって⋯⋯そんなに僕と帰りたいんですか? 別に構いませんって」
「いや、単純に事実なんだけど⋯⋯」
俺がそう言うと、利明はじーっと俺を見てきた。
それからいいことを思いついたという感じで手を叩いた。
「じゃあ克也は星野さんのどんなところが良くって付き合ってるんですか? 克也さんの人柄的に好きなところがないとは思えないですし」
「⋯⋯全部だよ。 ⋯⋯そんなことよりも本当かどうか綾乃に聞けよ。 なんで俺ばっかなんだよ」
俺が全部だよと言ったときに場がまた微妙な空気になった。
俺の言葉は完璧に棒読みだったからだ。
それから誤魔化すようにそう言った。
「そんなの聞き辛いからに決まってるじゃないですか! 僕みたいな陰キャラが話しかけたら⋯⋯ほんと何この人、マジ迷惑なんですけどお⋯⋯とか思われるかもしれないじゃないですか!」
利明はそう力説した。
なんかその言葉は心にくるものがあったが、スルーすることにする。
「私⋯⋯克也くんと付き合ってますよ?」
綾乃はおそるおそると言った感じでそう言った。
綾乃が言うと本当のことを言っているよう感じる。
これが女子力なんだろう。
俺は感心しながら何度も頷く。
利明の表情は信じられない者を見る目だ。
最近はこんな目ばかりを感じる。
「う、嘘ですよね? だって、だってその人重度のシスコンですよ? それに⋯⋯いや、そう言えばクラスの人がそんなことを言っていた気が⋯⋯」
「ふっふっふ、どうだね非リア充の利明くん。 そして俺はシスコンじゃない。 ちょっと仲が良いだけだ」
「そ、そんなぁ。 どうしてこんな人の恋人なんかに⋯⋯星野さん。 もっと良い人いると思いますよ? それに、さっきこの人どこが好きか聞かれて嘘つきましたよ。 それに、あんなバカップルが言いそうな言葉で嘘をつこうとしたんですよ? 絶対に騙されていますよ」
利明は慌てた様子でそう言った。
綾乃はとても曖昧な表情をしている。
きっと、私もこんなのと付き合いたくなんかないわよ、とか思っているんだろう。
それなら早く好きな人を作って別れて欲しいものだ。
「おい、利明。 さっきから俺をディスりまくりやがって、俺はお前の恩人だと思うんだが」
すると、利明は俺をしらけたような表情で見た。
どうしたそんな表情をしてんだよ!
「来るの遅かったんですけど⋯⋯それに助けてなんてお願いしてませんし、恩を売ろうとするのは間違いだと思うんですよ」
「おい、ちょっと利明くん? さっきと様子違うくない? いつからそんなに図々しくなっちゃったの? お母さんそんな子に育てた覚えないかなあ?」
「いつからお母さんになったんですか⋯⋯それに、非リア充がリア充の爆発を願うのは当たり前のことだと思いますけど」
「くそう⋯⋯俺だってそっち側がよかったよ」
「どうしてリア充が非リア充を羨ましがるんですか⋯⋯はぁ、もう分かりましたよ。 それじゃあ帰りましょうか⋯⋯あ、星野さん。 僕の名前は森島利明って言います。 よろしくお願いしますね」
利明は全然物怖じせずにそう言った。
どうやら、本当に人見知りでは無いようだ。
なら、どうして俺のときはどもってたんだろうか?
「えぇ、こちらこそよろしくね」
綾乃は笑顔でそう言った。
そんな綾乃を見て利明は少し頬を赤くした。
やっぱり綾乃は美少女だ。
そして、利明の綾乃を見る目はアイドルを見ているような目だ。
「な、なら早く帰りましょうか」
そう言って利明はそそくさと行動した。
そのとき、綾乃が俺にドヤ顔を向けてきた。
俺はそれを無視することにした。
綾乃の家の近くで、利明は駅に向かっていき、今は俺と綾乃の二人だ。
今日は利明のおかげでそこまで視線を感じなかった。
これで俺の寿命も縮まずに済むだろう。
「今日はありがとう。 それにしても、危ないわね。 あなたの友達、私とあなたが恋人なのは納得してなかったみたいだし⋯⋯それもこれもあなたがあんな嘘をつくからよ」
綾乃は不機嫌そうな様子でそう言った。
「それは悪かったな。 俺も焦ってたんだよ」
「私の良いところなんていくらでもあるでしょう。 そんなことも言えないの?」
「おい、その言葉はとても痛いぞ? でも⋯⋯綾乃の良いところなんてみんな知ってるだろ? だからそんなにモテてるんだから」
「確かにそうね。 なら嘘でもいいからバレないようにしてね?」
「おう、それにしても、お前アイドルみたいな扱いだよなあ」
「まぁ、ファンもいるんだし、アイドルとそんなに変わらないと思うけど⋯⋯」
「マジかよ⋯⋯まぁ、確かに容姿端麗で頭脳明晰、それに加えて運動神経も抜群ときた。 モテて当然⋯⋯か。 そう考えると俺は周りから羨ましがられて当然か」
「そうよ⋯⋯だからあなたには迷惑をかけてしまっているし」
綾乃は申し訳なさそうにそう言った。
どうやら少し同情されてしまったようだ。
「これは綾乃が悪いわけじゃないんだ。 だから気にするな。 それに、綾乃の普段見られないところも見られたんだ。 俺は役得だとは思わないか?」
「そうね⋯⋯。 そうよね! 感謝してちょうだいね」
綾乃は笑顔でそう言った。
そのとき、頬が少し赤くなっているように見えたが、気にしないことにした。
「へへー感謝してます」
「それでいいのよ。 それじゃ、また明日ね」
綾乃はそう言ってさっさと家に戻って行った。
俺はそんな様子に少し違和感を感じたが、いつも通り気にしない。
俺は家に帰ろうと思ったが、マッサージの本を買いに今日も本屋によることにした。
それからさらに別の本もついでに見ていると、帰りが遅くなってしまい、美沙紀に文句を言われたのは仕方の無いことだろう。
少し怒った様子の美沙紀を見て怖いよりも先に可愛いと感じてしまった俺はシスコンなんだろうか? それとも兄妹ならそんなもんなんだろうか? 俺は少し悩みながらその日眠りについた。