俺は微妙なことが多い
長くも短くも感じる授業が終わると昼休みだ。
俺は授業が終わるとすぐに屋上に向かった。
何故屋上なのかと言うと、周りの視線が怖いからだ。
俺は屋上に行くと影になっている場所で弁当を出して食べようとした。
だが、こうゆうときに限って嫌なものが見えてしまう。
ここは屋上。
そのため、見える範囲が広い。
だから、教室からでは見えないところも見えてしまう。
それは、いじめだった。 いや、もしかしたらいじめのつもりはないのかもしれない。
だけど、周りがいじめに見えたらいじめで良いだろう。
今俺が見ているのは、気の弱そうな男子と、俺と同じような三人組だ。
三人組は、見ためは普通っぽい人だ。
だけど、その表情は普通ではない。
軽蔑やあざけりといった様子だ。
いじめは悪いことなんだろう。
でも、俺は自分の人徳が優れているとは思わない。
他の人もそうだろう。 誰だって人が失敗するさまを見ると笑う。 きっと人にはそんな一面が必ずあるものなんだろう。
だけど、いじめはダメだと言う。
それは、国がそうならないように動いたからだろう。 俺もそう思う。 だから、いじめの場面を見ると気分が悪いし邪魔したくなる。 それに、いじめられてる人を見ると同情してしまう。
「はぁ、本当に見なきゃ良かった。 これも全部綾乃のせい⋯⋯と言いたいところだけど、俺のせい⋯⋯⋯か。」
俺はいじめが起きてる場所に向かって走った。 弁当は仕方ないから置きっぱだ。
屋上のため、少し時間がかかったが、そこの近くに着いた。
見た感じ同級生だろう。 でも、同じクラスになっていないため、名前がわからない。
ここでどうしようか迷ったが、普通に話しかけてみることにした。
「あれー? ここ人居たんだー。 それにしても、何やってるのー?」
俺はすごく棒読みな感じでそう言ってしまった。
きっとこうゆう所で演技力が問われるんだろう。
すると、三人組はバツが悪そうな表情になった。
「いや、何もしてないですよ。 はぁ、見られてたなんて着いてねー」
そう言って立ち去って行った。
後半の言葉は小さめに言ったつもりだろうが聞こえていた。
俺は難聴主人公ではないのだ。
きっとここでご都合主義と思われてしまうんだろう。
だが、今まで妹の声聞けてないじゃんと思うかもしれないが、あれは別だ。
普通に聞こえないのだ。
そもそも聞こえる声で言っていないため、聞こえていないだけだ。 ⋯⋯聞かなかったことにしたことはあるが。
俺はいじめられていた男子をじっと見た。
別に特殊な性癖というわけでもなければ、ここから物語が始まっちゃったりすることを期待しているわけじゃない。
⋯⋯女子なら良かったのにな、とは少し思ったが。
とりあえず話しかけてみようと思う。
「大丈夫? お金取られてない?」
お金の方に関心がいってしまったのは、学生なら仕方のないことだろう。
男子A(仮)君は少し戸惑った様子だ。
きっと人見知りなんだろう。 さぁ、感謝の言葉を言ってみよう!
それから申し訳なさそうな表情になった。
「すいません⋯⋯お金、もう既に渡しちゃいました」
「そ、そうなんだ。 遅くなっちゃってごめん」
もう既に遅かった。
俺がグズグズしていたせいもあるだろう。
なんか後ろめたく感じた。
男子A(仮)君は手をブンブンと振って、「いえ、そもそも僕が取られたのが悪いんですし」と申し訳なさそうにした。
それから微妙な空気が漂う。
今日は本当に運が悪い。
ヒーローは遅れてやってくるとはよく言ったものだ。 本当に大切なものだけを守って他は既にやられていた。 これは物語だけに許される事だと理解し、現実は非情だなぁと少し現実逃避した。
「と、とりあえず飯食おうぜ。 昼休み終わっちゃうし⋯⋯さ?」
男子A(仮)君は頷いて、「そ、そうですね!」と言った。
何故こうも、俺の周りは微妙な関係ばかりの人が多いのだろうか。
俺は少し遠い目をして思った。
それからご飯を持って屋上で食べよう!となって一旦自己紹介もせずに解散した。
これで来なかったら俺は本気で微妙な心境になってしまうため、来て欲しいものだ。
だけど、自己紹介をしていない辺り、来ないんじゃね?とか思い、何故か一人で、来るか来ないかの賭けをするという謎の遊びが始まった。
きっとぼっちの人なら分かるんではないだろうか? 友達が多い人にしられたら、信じられない人、または可哀想な人を見る目で見られ、また微妙な空気になることだろう。
全力で知られないようにしよう!と思いつつも、話す話題がなければそんな話題を出しそうな自分に悲しくなった。
俺は今遠い目をしてぼーっとしているように見えることだろう。
実際そうだ。
すると、そんな俺を見ている人物を発見した。
なんか話しかけづらくてずっとそこで待機していたんじゃないかと思われる男子A(仮)君だ。
すごく気まづそうな顔で俺を見ている。
もう現実から逃げ出したい!
そう思いつつも、妹が怖いことを言い出しそうだからしないが⋯⋯。
「あ、あのう⋯⋯考え事はもう良いですか?」
「考え事?」
「あぁ、はい。 なんか一人で悩んだり苦笑したり頭抱えたりですけど」
またしても微妙な空気になる。
どうして二日続けて精神に多大なダメージを負わなければならないのだろうか。
毒か呪いでもくらったのだろうか。
それなら早く教会に行くか、僧侶を雇いたいところだが、今も時間は進んでいて、昼休みが終わってしまうため、考え事はやめた。
「少し悩み事をね。 それよりご飯食べよ。 俺の名前は田巻克也。2年1組だよ。 それで君の名前は?」「ぼ、僕は森島利明。 2年2組です」
普通クラスとかから言うんだろう。 少しミスったが、普通にスルーしてくれた。
こんなところで微妙な空気を作っていくんだろう。
俺はため息を吐きそうになったが、我慢した。
「それじゃあ食べよう。 昼休み終わっちゃうし」
「そうですね」
利明の昼ご飯はコンビニで買った物のようだ。 利明は普通にご飯を食べ始めた。
俺もご飯を食べようと弁当を開けると、利明が目を見開いて弁当を見ていた。
利明はおそるおそると言った様子で、「克也さん、それ彼女の手作りですか? どうして一緒に食べないんですか?」と言った。
「え? これ妹が作ってくれた弁当だけど⋯⋯」
俺がそう言うと、利明は信じられない者を見る目で俺を見た。
まぁ、彼女のと間違われても仕方ないのかもしれない。
だって、この弁当は⋯⋯
「なんで妹の作った弁当にハートマークがあるんですか! それにめちゃくちゃ手の凝った弁当じゃないですか!」
そう、妹の料理はまるで彼女が彼氏に作る弁当のようなのだ。 いや⋯⋯それ以上と言ってもいいだろう。
ほぼ、必ずと言っていいほど、ハートが入っているし、すべてに手が凝っている。
普通はおかしいって思うんだろうが、ほぼ妹によって洗脳されている俺は⋯⋯。
「本当に出来た妹だよな! 仲の良い兄妹は少ないって言うし、珍しく思うのも仕方ないた思うぞ」
まったく理解していなかった。
「いや、まぁ確かに今どきあんまり見ないかもしれないですけど、さすがにそれは⋯⋯」
「おかしいのか!?」
「い、いやぁその」
「え? そんなにおかしいの?」
「い、いえ、普通だと思います、はい」
利明は押しに弱かった。
そんな利明の言葉に俺は安堵の息を吐いた。
「良かったぁ、普通で」
そんな俺の言葉に利明は曖昧な笑顔を浮かべる。
「も、もうこの話題は終わりません?」
「それもそうだな、あ、利明は毎日たかられてたの?」
「いや、偶にですよ」
「そうか⋯⋯なら良かった」
「よりにもよって、出す話題はそれですか⋯⋯」
利明はなんとも言えない表情でため息を吐いた。
「む、話題出すの苦手なんだよな。 まぁ、男子の話題と言ったら恋話かな?」
「それは偏見だと思いますけど⋯⋯克也さんは好きな人とか居るんですか?」
「俺? likeの方は結構いるけど、Loveの方は居な⋯⋯いや、いるけど言わねえ」
危ない。 こうゆうところでゲロって実は綾乃の事なんか好きじゃないってバレるとマジで刺される。
居ることにしといた方が良いだろう。
「そうですか⋯⋯ならlikeで一番好きな人は誰です?」
「妹だな」
俺が即答すると、利明は悟ったような表情になった。
「あはは、そうですか⋯⋯彼女出来るといいですね」
俺はそこでドヤ顔をした。
利明はそんな俺を訝しんで見ていたが、悟ったのか驚きに目を見開いた。
「ま、まさか⋯⋯彼女居るんですか!?」
「おう」
利明は信じられない者を見る目で俺を見た。
その視線は本当に信じられない者を見る目だ。(大事な事なので二回言いました)
「そ、そんな⋯⋯い、いや、危ないところでした。 演技下手なのかと思ったら上手いじゃないですか。 危うく騙されるところでした⋯⋯⋯⋯あの弁当を普通と言える人に彼女なんて出来るはず無いのに」
後半少し聞こえなかったが、冗談と受け取ったようだ。
さすがの俺でも信じてもらえないのは悔しく感じる。
「本当だぞ? 今日会わせてやるよ。 それで家どこら辺?」
すると、利明は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「わかりました。 会わせてもらいますよ。 いつも駅で通学しているので、少し遠いですよ?」
「なら問題ないな。 今日から一緒に帰ろうぜ。 まぁ、俺を信じなかった罰ってことで」
俺がそう言うと、利明は苦笑した。
「なんですか、友達居ないんですか? 別に嘘でもそれくらい構いませんよ」
「本当だな!? 嘘じゃないよな!? 言質とったからな?」
「どこまで必死なんですか。 ちゃんとそうしますから安心して下さい」
利明は少し嬉しそうにそう言った。
俺はその言葉にガッツポーズを作った。
⋯⋯これでこの地獄から解放される。
だが、ここで良心が痛む。
関係ないやつを巻き込んでしまって本当に良いのか?と。
だが、別に利明に後で選んでもらえばいいかと開き直ることにした。
「利明⋯⋯ありがとな。 それと、友達居ないはブーメランだったり?」
「そ、そんな事ないですよ」
俺がじっと見つめると、利明は意気込んで、「友達居ないのは認めますが、居ないのではなく、作らないだけです!」と言った。
なぜいじめを受けていたのにそこまでプライドが高いのか知らないが、気にしないことにする。
俺は利明のそんな様子が面白く、笑ってしまった。
「そ、そんなに笑わないでくださいよ!」
利明はそう言っていたが、俺がずっと笑っていると、利明自信も可笑しくなったのか一緒に笑いだした。
そんな様子に、今日は運が良かったのかもな、と思い改めた。
笑いが止むと、利明に気になっていたことを聞くことにした。
「利明は好きな人とかいるの?」
「え? えーと、ぼ、僕は居ないですよ!」
一緒にして嘘だとわかってしまう。
俺も嘘つくときはこんな感じなのだろうかと、少し遠い目をしてしまってが、すぐに質問してみることにする。
「おいおい、誰なんだ? 同じクラス?」
すると、利明は恥ずかしそうな様子で、「実は同じクラスの萬木梨佐って名前の人なんですけど」と言った。
繋ぎで聞いたのに答えてくれた。
友達とはあんまり話したことがないんだろう。
少しそのことを可哀想に感じたが、同情されるのは嫌だろう。
「へぇ、どんなところが良かったの?」
「え? それも聞くんですか? それはですね⋯⋯容姿と物静かなところですね。 同じ作者の本を読んでるので意気投合して、それで話しているうちに⋯⋯ですね」
照れたようにそう言った。
なんか、ここまで言うとは本気で思わなかった。
でも、いい話が聞けたかもしれない。
中津は可愛い子なら誰でも良いって感じだし、正木は二次元のキャラクターを言い出す。
少し新鮮で羨ましくも感じる。
「そうかぁ、それでいつ告るの?」
「え? え? まだ告りませよ! でも、もう少し仲良くなったらいつかは告ります!」
「そうか⋯⋯そのときになったら教えてくれよ! 慰めてやるからな!」
「ちょっと待ってくださいよ! なんで振られる前提なんですか!」
「あははははっ、いいじゃん。 でも⋯⋯成功するといいな」
「はい⋯⋯っていや、成功させるんですよ!」
「そうか⋯⋯いや、確かにそうだな。 今度俺も萬木梨佐って子に会ってみるぜ」
「だっ、だめですよ! それに、どうしてそんなことするんですか!」
「それは面白、じゃなくて友達として当然だろ!」
「ちょっとよくわからないです⋯⋯てか、面白そうとかマジでやめてくださいよ!? 将来がかかってるんですから!」
「将来って⋯⋯まぁ、ぼっちは少しづつ治していこうぜ。 俺の悪友⋯⋯じゃなくて友達紹介してやるから」
「すいません⋯⋯もうそれ言ってますよ? 悪友って⋯⋯僕お金取られませんよね?」
利明は本気で心配しているようだった。
そうか、さっき金取られてたんだったな。
「なんかすまん。 まぁ、悪い奴らではないからさ。 さ、そろそろチャイム鳴るし戻ろうぜ。 放課後下駄箱でな!」
「はい⋯⋯それでその、悪友さんは来ませんよね?」
「多分来ないから安心してくれ」
なんとも微妙な空気で俺たちは教室に戻った。