美沙紀の気持ち
「何をしているのかしら?」
俺はその言葉を聞いて、まるでロボットのようになってしまった体で声のした方を見た。
そこには、俺を睨みつけている綾乃がいた。
「え、えーっと、キス⋯⋯かな?」
「へぇ、あなたは彼女以外とキスするのね?」
「あはは⋯⋯。 実は王様ゲームをしていてね? たまたま俺と美沙紀がキスすることになって」
「たまたま、ね」
綾乃はそう言うと、美沙紀を睨んだ。
「そうです。 私はたまたま命令されて、たまたまお兄ちゃんとキスをすることになったんです。 だから、邪魔しないで貰えます?」
見るは綾乃にそう言うと、俺に顔を近づけてきた。
「まだ続ける気!? ⋯⋯したら許さない」
綾乃はそう言って俺を睨んできた。
どうして俺を睨む! 綾乃を睨めよ! ⋯⋯いいや、ダメだ! 妹を身代わりにしようとするなんて、俺はなんて酷い兄だろうか。 どうしよう。 いや、まだなんとかなる。 美沙紀を説得しよう。
「なぁ美沙紀? キスは初めてか?」
「うん! もちろん初めてだよ!」
よかった。
まさかここで、もう既にしてます⋯⋯なんて言われたらどうしようかと思った。
「よかった。 それなら尚更ダメだ。 ファーストキスなんだし、こんな場に流された形でするのはダメだと思わないか?」
「⋯⋯確かに。 でも」
「でもじゃない。 それに、美沙紀がしたいなら直ぐに出来るさ。 美沙紀はモテるだろう?」
「⋯⋯むぅ。 私、お兄ちゃん以外としたくない」
あれれ? 好きな人がいなかったら、兄妹としたくなるのだろうか? それとも俺の事が⋯⋯、いや、やめよう。 もし違ったら、俺はめちゃくちゃ痛いやつになる。 今考えても分からないことは後で考えよう。
「それでもいいさ。 だけどな? もしかしたら美沙紀にも好きな人が出来るかもしれないだろう? だから、俺とするのは待ってくれ。 ⋯⋯それに、後悔はしたくないんだ」
また、どうしようもなく後悔すれば、俺はもう立ち直れない気がする。
だから、後悔しないように生きていく。
「うん、わかった。 それじゃあ、お兄ちゃんはそれまで誰ともキスしないでね」
「おう、わかった」
「ちょっと、わからないでくれる?」
いい雰囲気だったのを、綾乃さんが壊してくれた。
「なんですか?」
「なんですかじゃないわよ。 克也くんが誰ともキスしないのは、関係ないでしょ?」
「ありますけど? もしかして、お兄ちゃんとキスしたいんですか?」
「⋯⋯そんなのどっちでもいいじゃない。 この人は私の恋人なんだから、そんな約束されたら困るに決まっているでしょう?」
「恋人? まだ付き合っていたんですか!? 別れるって言ったじゃないですか!?」
美沙紀は信じられないようで、綾乃にそう叫んだ。
綾乃は、そんな美沙紀を見て鼻で笑った。
「別れたわよ? でも、もう一度本当に付き合うことにしたの」
本当に付き合うことにした⋯⋯?
あ、あれ? 俺、もう一度恋人役にしてもらうつもりで言ったのに。
だけど、確かに俺も言ったあとでそうなんじゃないかと思っていた。
あれって本当の告白みたいだ⋯⋯なんて。
あはは⋯⋯笑えねぇ。
まぁ綾乃と付き合うのは嫌じゃないし、それでも構わない。
だけど、美沙紀はどう思うだろうか⋯⋯?
あれ?
なんでここで美沙紀が出てくるんだ?
不安に感じる理由なんてないはずなのに。
兄妹だから⋯⋯?
そもそも、兄妹だからってなんなんだろうか。
「う、そ。 嘘つかないでください! お兄ちゃんは、お兄ちゃんは私の⋯⋯」
「嘘じゃないわよ。 それに、あなた克也くんの妹なんでしょう? まさか、兄に恋心をいだいていたなんて言わないわよね?」
「⋯⋯」
美沙紀が俺に恋心?
それは⋯⋯どうなんだろうか。
正直わからない。
兄妹だから。
その言葉に惑わされていたが、やはり兄妹にしてはおかしかったのかもしれない。
「⋯⋯まぁいいわ。 それで約束を取り下げてくれる?」
「⋯⋯嫌です」
「もし恋心を抱いてないなら、取り下げてくれてもいいでしょう?」
「嫌です」
「我儘ばっかり言わないでくれる? 取り下げて頂戴」
「嫌です! 私はお兄ちゃんが大好きだから! あなたなんかよりもずっとずっと大好きだから! なのに⋯⋯なのにどうして!? どうしてあなたはお兄ちゃんと付き合っているんですか!? そんなのおかしいです!」
「美沙紀⋯⋯」
美沙紀は涙を流していた。
そんな美沙紀を見ていると、胸が苦しくなった。
「おかしくないじゃない。 あなたは妹として接してきたんでしょう?」
「⋯⋯当たり前です」
「そこよ。 あなたは妹としてではなく、一人の女性として克也くんに接すればよかった。 それなのにどうしてなんて、よく言えたものね」
「⋯⋯⋯⋯そんなの仕方ないじゃないですか。 そんなことすれば、お兄ちゃんと距離ができてましたよ」
「⋯⋯」
確かにそうだ。
俺は今まで、美沙紀の何を分かっていたんだろう。
やれ美沙紀のためだの、やれ後悔しないだの言って後回しにして、美沙紀を苦しめていた。
俺はどうすれば良かったんだろうか。
これからどうすればいいんだろう。
美沙紀は俺の妹だ。
でも、妹だからと言って、それが理由になるんだろうか⋯⋯。
「そうやって諦めているから無理なのよ」
「⋯⋯お兄ちゃんの妹でもないあなたに何が分かるんですか」
「でもね、まだ終わったわけじゃないのよ?」
「もう終わってるも同然じゃないですか」
「じゃあ、克也くん。 今この場で私にキス出来る?」
綾乃にキス?
出来るわけがない。
して言い訳がない。
こんな軽い気持ちで綾乃にキスが出来るものか。
そんなことをすれば、俺はただのクズ野郎だ。
それに、美沙紀に辛い思いをさせるし、美沙紀に嫌われたくない。
俺は力なく首を振った。
「それじゃ、妹には?」
俺はそう言われて、美沙紀を見る。
出来る。
だけど、これは美沙紀を女性として好きだからではないのかもしれない。
家族のためだから出来る。
俺は綾乃と美沙紀のことをどう思っているのかわからない。
「⋯⋯できるよ」
「なら、私とあなたの妹とキスはしたい?」
「⋯⋯出来るならしたいな」
「⋯⋯そう。 あなた最低ね」
「え?」
「⋯⋯お兄ちゃん酷い」
「何が?」
「私たち両方ともとしたいなんて」
「え? そんなの男なら誰でも思うだろ? な、正木?」
「え? そうなの? 僕は3次元には興味ないからわかんないや」
「なんだよ! なら、中津は?」
「⋯⋯俺もキスまではしたいと思わねぇぞ」
「嘘つけ! 絶対嘘だ!」
すると、中津は目を逸らした。
くそ!
女子にはわかんないのか!
「男子はだいたい女子とキスしたいもんなんだよ!」
綾乃はドン引きしたのが分かる。
蔑んだような視線に、嫌そうな表情までおまけ付きだ。
美沙紀も困惑しているようだ。
「最低ね」
言われてしまった。
それに、結構傷ついた。
「お、お兄ちゃん。 そんなお兄ちゃんでも、私は大丈夫」
美沙紀は少し目を逸らしなが言った。
これは大丈夫じゃないやつだろう。
「むむむ、俺も誰だってじゃねぇよ。 美沙紀と綾乃だからキスしてぇんだよ」
俺は自分が恥ずかしいことを言っていることに気づき、目を逸らした。
すると、誰かが首に手を回していた。
前を見ると、美沙紀がいた。
「それならいいよね? お兄ちゃん、私のことが異性として好きなんだよね?」
「そ、それはわかんねぇけど」
「でも、いいよね? したいって言ったし、出来るって言ったもんね?」
美沙紀は俺に顔を近づけてくる。
妹といっても、異性として見られていると分かると、こっちまでその気になってしまう。
そうなると、理性が働かなくなる。
俺は、吸い寄せられるように、美沙紀に顔を近づけていった。
ドンッ!
何かが思いっきり当たってきた。
俺は美沙紀をかばいながら倒れる。
そして、顔を上げると、そこには、またも怒った様子の綾乃がいた。
「で? 恋人の目の前で何やろうとしているの? それ、二股なんじゃないの?」
やばい。
確かにそうだ。
普通にダメなことをしていた。
俺は無言で綾乃の方を向くと、土下座をした。
「とりあえず、妹とキスするのは禁止。 もししたら⋯⋯わかってるわよね?」
「ごめん。 わからないです?」
「Limeで二股しているって流すからね? さらに、その相手が妹だってことも」
そんなことをされれば、俺は人生の終わりじゃないだろうか? 社会的にも、物理的にもやられることだろう。
悪いのは俺だから、なんにも言えないんだが。
「誠に申し訳ございませんでした。 ですから、それだけは御容赦ください」
土下座は素晴らしい。
相手の顔を見ることも見られることもないため、現実逃避をすることが出来る。
しばらくすると、ため息をする声が聞こえた。
「はぁ、もういいわ。 それじゃあ、そっちの妹さんと、お話したい事があるから、話せる場所はあるかしら?」
「お兄ちゃんの部屋でいいですか?」
「克也くんの部屋! んんっ、そこでいいわ。」
「おっと? 俺の許可は⋯⋯うん、やっぱいいや。 ごゆっくりどうぞ」
なんか、綾乃と美沙紀の目が怖いから、俺は黙った。
いつから俺達は、女性の目だけで怖がるようになってしまったんだろうか。
俺は二人が2階に行ってからも立ち尽くしていると、肩をぽんと叩かれた。
慰めかと思って後ろを向くと、中津が腕を振りかぶっているとこだった。
「おい! なんだよ! そこは同情する場面だろ! ってか、殴られるのはお前じゃねぇか! さっきはよくも嘘つきやがったな!」
「はっ! 嘘じゃねぇし! 俺だって相手は選ぶわ!」
「くそっ! 確かにお前は顔で判断する野郎だったな!」
「ふん! 今はそんなの関係ねぇ! 何しれっと二股してやがんだ! さっさと別れてこい!」
「それは!」
「⋯⋯はぁ、正直な話。 お前どうするんだよ」
「⋯⋯」
「まぁ混乱してるだろうから、考えてから決めればいい。 だけどな、あの二人を悲しませるなよ? それに、美沙紀ちゃんはお前を本気で好きだったんだ。 もちろん異性としてな? だから、ちゃんとそこんところも考えておけよ?」
「⋯⋯わかってるよ」
それから沈黙した空気が漂う。
すると、正木が手を叩いた。
「さっ、そろそろなんかしようよ。 今日は遊ぶためにきたんだから」
「そうだな」
俺はそう言って、落ちている割り箸を拾った。
その割り箸の番号の所を見てみると、1と3が一つ、それから2が二つもあった。
他に割り箸は落ちていない。
さらに王と書かれた割り箸もない。
どうゆう事だ?
「なぁ、正木と中津。 さっきの王様ゲーム⋯⋯ずるとかしてねぇよな?」
中津と正木は俺の手元を見ると、口元をひくつかせた。
もう、アウトだろう。
「あはは、そんなことする訳ないじゃん」
正木はそう言った。
しかし、その声は棒読みだった。
「⋯⋯はぁ。 どうせ美沙紀が考えたんだろ? じゃねぇとあんな命令しないしな」
すると、中津と正木は拍手してきた。
なんかその仕草が馬鹿にしているようで、とてもイラつく。
「うわぁーすごいすごい。 いつも鈍感なのに、今日はよくわかったねー」
うぜぇ。
俺は本気で誰かいい友達紹介してくれないだろうか、と思った。
読んでいただき、ありがとうございました。
今回やらかした気がするんですが、大丈夫ですよね? これはもうちょっと後かなって思ってたんですけど、そうすると主人公達と綾乃の仲だけが進んでしまいそうで⋯⋯。
今後どうなるか分かりませんが、これからも読んでいただけると嬉しいです。




