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恋人役することになりました  作者: イワヒサ
15/15

美沙紀の気持ち

「何をしているのかしら?」


俺はその言葉を聞いて、まるでロボットのようになってしまった体で声のした方を見た。

そこには、俺を睨みつけている綾乃がいた。


「え、えーっと、キス⋯⋯かな?」

「へぇ、あなたは彼女以外とキスするのね?」

「あはは⋯⋯。 実は王様ゲームをしていてね? たまたま俺と美沙紀がキスすることになって」

「たまたま、ね」


綾乃はそう言うと、美沙紀を睨んだ。


「そうです。 私はたまたま命令されて、たまたまお兄ちゃんとキスをすることになったんです。 だから、邪魔しないで貰えます?」


見るは綾乃にそう言うと、俺に顔を近づけてきた。


「まだ続ける気!? ⋯⋯したら許さない」


綾乃はそう言って俺を睨んできた。

どうして俺を睨む! 綾乃を睨めよ! ⋯⋯いいや、ダメだ! 妹を身代わりにしようとするなんて、俺はなんて酷い兄だろうか。 どうしよう。 いや、まだなんとかなる。 美沙紀を説得しよう。


「なぁ美沙紀? キスは初めてか?」

「うん! もちろん初めてだよ!」


よかった。

まさかここで、もう既にしてます⋯⋯なんて言われたらどうしようかと思った。


「よかった。 それなら尚更ダメだ。 ファーストキスなんだし、こんな場に流された形でするのはダメだと思わないか?」

「⋯⋯確かに。 でも」

「でもじゃない。 それに、美沙紀がしたいなら直ぐに出来るさ。 美沙紀はモテるだろう?」

「⋯⋯むぅ。 私、お兄ちゃん以外としたくない」


あれれ? 好きな人がいなかったら、兄妹としたくなるのだろうか? それとも俺の事が⋯⋯、いや、やめよう。 もし違ったら、俺はめちゃくちゃ痛いやつになる。 今考えても分からないことは後で考えよう。


「それでもいいさ。 だけどな? もしかしたら美沙紀にも好きな人が出来るかもしれないだろう? だから、俺とするのは待ってくれ。 ⋯⋯それに、後悔はしたくないんだ」


また、どうしようもなく後悔すれば、俺はもう立ち直れない気がする。

だから、後悔しないように生きていく。


「うん、わかった。 それじゃあ、お兄ちゃんはそれまで誰ともキスしないでね」

「おう、わかった」

「ちょっと、わからないでくれる?」


いい雰囲気だったのを、綾乃さんが壊してくれた。


「なんですか?」

「なんですかじゃないわよ。 克也くんが誰ともキスしないのは、関係ないでしょ?」

「ありますけど? もしかして、お兄ちゃんとキスしたいんですか?」

「⋯⋯そんなのどっちでもいいじゃない。 この人は私の恋人なんだから、そんな約束されたら困るに決まっているでしょう?」

「恋人? まだ付き合っていたんですか!? 別れるって言ったじゃないですか!?」


美沙紀は信じられないようで、綾乃にそう叫んだ。

綾乃は、そんな美沙紀を見て鼻で笑った。


「別れたわよ? でも、もう一度本当に付き合うことにしたの」


本当に付き合うことにした⋯⋯?

あ、あれ? 俺、もう一度恋人役にしてもらうつもりで言ったのに。

だけど、確かに俺も言ったあとでそうなんじゃないかと思っていた。

あれって本当の告白みたいだ⋯⋯なんて。

あはは⋯⋯笑えねぇ。

まぁ綾乃と付き合うのは嫌じゃないし、それでも構わない。

だけど、美沙紀はどう思うだろうか⋯⋯?

あれ?

なんでここで美沙紀が出てくるんだ?

不安に感じる理由なんてないはずなのに。

兄妹だから⋯⋯?

そもそも、兄妹だからってなんなんだろうか。


「う、そ。 嘘つかないでください! お兄ちゃんは、お兄ちゃんは私の⋯⋯」

「嘘じゃないわよ。 それに、あなた克也くんの妹なんでしょう? まさか、兄に恋心をいだいていたなんて言わないわよね?」

「⋯⋯」


美沙紀が俺に恋心?

それは⋯⋯どうなんだろうか。

正直わからない。

兄妹だから。

その言葉に惑わされていたが、やはり兄妹にしてはおかしかったのかもしれない。


「⋯⋯まぁいいわ。 それで約束を取り下げてくれる?」

「⋯⋯嫌です」

「もし恋心を抱いてないなら、取り下げてくれてもいいでしょう?」

「嫌です」

「我儘ばっかり言わないでくれる? 取り下げて頂戴」

「嫌です! 私はお兄ちゃんが大好きだから! あなたなんかよりもずっとずっと大好きだから! なのに⋯⋯なのにどうして!? どうしてあなたはお兄ちゃんと付き合っているんですか!? そんなのおかしいです!」

「美沙紀⋯⋯」


美沙紀は涙を流していた。

そんな美沙紀を見ていると、胸が苦しくなった。


「おかしくないじゃない。 あなたは妹として接してきたんでしょう?」

「⋯⋯当たり前です」

「そこよ。 あなたは妹としてではなく、一人の女性として克也くんに接すればよかった。 それなのにどうしてなんて、よく言えたものね」

「⋯⋯⋯⋯そんなの仕方ないじゃないですか。 そんなことすれば、お兄ちゃんと距離ができてましたよ」

「⋯⋯」


確かにそうだ。

俺は今まで、美沙紀の何を分かっていたんだろう。

やれ美沙紀のためだの、やれ後悔しないだの言って後回しにして、美沙紀を苦しめていた。

俺はどうすれば良かったんだろうか。

これからどうすればいいんだろう。

美沙紀は俺の妹だ。

でも、妹だからと言って、それが理由になるんだろうか⋯⋯。


「そうやって諦めているから無理なのよ」

「⋯⋯お兄ちゃんの妹でもないあなたに何が分かるんですか」

「でもね、まだ終わったわけじゃないのよ?」

「もう終わってるも同然じゃないですか」

「じゃあ、克也くん。 今この場で私にキス出来る?」


綾乃にキス?

出来るわけがない。

して言い訳がない。

こんな軽い気持ちで綾乃にキスが出来るものか。

そんなことをすれば、俺はただのクズ野郎だ。

それに、美沙紀に辛い思いをさせるし、美沙紀に嫌われたくない。


俺は力なく首を振った。


「それじゃ、妹には?」


俺はそう言われて、美沙紀を見る。

出来る。

だけど、これは美沙紀を女性として好きだからではないのかもしれない。

家族のためだから出来る。

俺は綾乃と美沙紀のことをどう思っているのかわからない。


「⋯⋯できるよ」

「なら、私とあなたの妹とキスはしたい?」

「⋯⋯出来るならしたいな」

「⋯⋯そう。 あなた最低ね」

「え?」

「⋯⋯お兄ちゃん酷い」

「何が?」

「私たち両方ともとしたいなんて」

「え? そんなの男なら誰でも思うだろ? な、正木?」

「え? そうなの? 僕は3次元には興味ないからわかんないや」

「なんだよ! なら、中津は?」

「⋯⋯俺もキスまではしたいと思わねぇぞ」

「嘘つけ! 絶対嘘だ!」


すると、中津は目を逸らした。

くそ!

女子にはわかんないのか!


「男子はだいたい女子とキスしたいもんなんだよ!」


綾乃はドン引きしたのが分かる。

蔑んだような視線に、嫌そうな表情までおまけ付きだ。

美沙紀も困惑しているようだ。


「最低ね」


言われてしまった。

それに、結構傷ついた。


「お、お兄ちゃん。 そんなお兄ちゃんでも、私は大丈夫」


美沙紀は少し目を逸らしなが言った。

これは大丈夫じゃないやつだろう。


「むむむ、俺も誰だってじゃねぇよ。 美沙紀と綾乃だからキスしてぇんだよ」


俺は自分が恥ずかしいことを言っていることに気づき、目を逸らした。

すると、誰かが首に手を回していた。

前を見ると、美沙紀がいた。


「それならいいよね? お兄ちゃん、私のことが異性として好きなんだよね?」

「そ、それはわかんねぇけど」

「でも、いいよね? したいって言ったし、出来るって言ったもんね?」


美沙紀は俺に顔を近づけてくる。

妹といっても、異性として見られていると分かると、こっちまでその気になってしまう。

そうなると、理性が働かなくなる。

俺は、吸い寄せられるように、美沙紀に顔を近づけていった。


ドンッ!


何かが思いっきり当たってきた。

俺は美沙紀をかばいながら倒れる。

そして、顔を上げると、そこには、またも怒った様子の綾乃がいた。


「で? 恋人の目の前で何やろうとしているの? それ、二股なんじゃないの?」


やばい。

確かにそうだ。

普通にダメなことをしていた。

俺は無言で綾乃の方を向くと、土下座をした。


「とりあえず、妹とキスするのは禁止。 もししたら⋯⋯わかってるわよね?」

「ごめん。 わからないです?」

「Limeで二股しているって流すからね? さらに、その相手が妹だってことも」


そんなことをされれば、俺は人生の終わりじゃないだろうか? 社会的にも、物理的にもやられることだろう。

悪いのは俺だから、なんにも言えないんだが。


「誠に申し訳ございませんでした。 ですから、それだけは御容赦ください」


土下座は素晴らしい。

相手の顔を見ることも見られることもないため、現実逃避をすることが出来る。

しばらくすると、ため息をする声が聞こえた。


「はぁ、もういいわ。 それじゃあ、そっちの妹さんと、お話したい事があるから、話せる場所はあるかしら?」

「お兄ちゃんの部屋でいいですか?」

「克也くんの部屋! んんっ、そこでいいわ。」

「おっと? 俺の許可は⋯⋯うん、やっぱいいや。 ごゆっくりどうぞ」


なんか、綾乃と美沙紀の目が怖いから、俺は黙った。

いつから俺達は、女性の目だけで怖がるようになってしまったんだろうか。

俺は二人が2階に行ってからも立ち尽くしていると、肩をぽんと叩かれた。

慰めかと思って後ろを向くと、中津が腕を振りかぶっているとこだった。


「おい! なんだよ! そこは同情する場面だろ! ってか、殴られるのはお前じゃねぇか! さっきはよくも嘘つきやがったな!」

「はっ! 嘘じゃねぇし! 俺だって相手は選ぶわ!」

「くそっ! 確かにお前は顔で判断する野郎だったな!」

「ふん! 今はそんなの関係ねぇ! 何しれっと二股してやがんだ! さっさと別れてこい!」

「それは!」

「⋯⋯はぁ、正直な話。 お前どうするんだよ」

「⋯⋯」

「まぁ混乱してるだろうから、考えてから決めればいい。 だけどな、あの二人を悲しませるなよ? それに、美沙紀ちゃんはお前を本気で好きだったんだ。 もちろん異性としてな? だから、ちゃんとそこんところも考えておけよ?」

「⋯⋯わかってるよ」


それから沈黙した空気が漂う。

すると、正木が手を叩いた。


「さっ、そろそろなんかしようよ。 今日は遊ぶためにきたんだから」

「そうだな」


俺はそう言って、落ちている割り箸を拾った。

その割り箸の番号の所を見てみると、1と3が一つ、それから2が二つもあった。

他に割り箸は落ちていない。

さらに王と書かれた割り箸もない。

どうゆう事だ?


「なぁ、正木と中津。 さっきの王様ゲーム⋯⋯ずるとかしてねぇよな?」


中津と正木は俺の手元を見ると、口元をひくつかせた。

もう、アウトだろう。


「あはは、そんなことする訳ないじゃん」


正木はそう言った。

しかし、その声は棒読みだった。


「⋯⋯はぁ。 どうせ美沙紀が考えたんだろ? じゃねぇとあんな命令しないしな」


すると、中津と正木は拍手してきた。

なんかその仕草が馬鹿にしているようで、とてもイラつく。


「うわぁーすごいすごい。 いつも鈍感なのに、今日はよくわかったねー」


うぜぇ。

俺は本気で誰かいい友達紹介してくれないだろうか、と思った。

読んでいただき、ありがとうございました。

今回やらかした気がするんですが、大丈夫ですよね? これはもうちょっと後かなって思ってたんですけど、そうすると主人公達と綾乃の仲だけが進んでしまいそうで⋯⋯。

今後どうなるか分かりませんが、これからも読んでいただけると嬉しいです。

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