付き合うことになりました
「今からテストを返します。 出席番号一番の人から取りに来てください」
先生がそう言った。
「次の人」
俺はかなり緊張しながら取りに行った。
今回は友人と競っている。
それだけなら別にそこまで気にする必要はないだろう。
だが、今回は罰ゲームがある。
そして、帰ってきたテストを見ると、82点。
まあ、悪くはないだろう。
俺はそのテストを緊張気味に友人達の所へ持っていった。
「よう、どうだった?」
そう言ってきたのは、服装が少し乱れていてチャラそうなやつだ。
名前は中津正彦って言う。
「俺はこれ」
俺はそう言ってテストの用紙を見せた。
すると、二人はにやけながらテストを見せてきた。
なんと、二人とも90以上あり、これでもかって言うほどのドヤ顔をしていた。
「おい! どういうことだ!? 勉強してないって言ってたじゃん!」
すると、もう一人の方が言った。
名前を正木康行と言って、イケメンだ。
ただ、オタクでもあり、こいつと中津のせいでクラスメイトに変な三人組と思われている。
それを知った時にはどうしていいのかわからず戸惑いとショックを受けたが、もう過ぎたことだと割り切ることにして納得した。
「何言っているんだよ。 そんなの嘘に決まってるだろ? 信じるなんて克也の頭はお花畑だな」
「そうだぞ、大体殆どの人は勉強してないと言いつつもやってるものだぞ?」
「おい、俺は殆どやってないって言って本当に殆どやってないぞ!?」
俺がそう言うと、中津はやれやれと手を振った。
「だからお前はバカって言われるんだよ」
くそっ、 こいつ、めちゃくちゃ腹が立つんだが言い返せない。
「それで克也くん、罰ゲームは分かってる?」
「あぁ、わかってるよ⋯⋯はぁ」
今回の罰ゲームは簡単ではない。
なんと、誰々に告白しろ!ってやつだ。
初めから誰に告白するかは決まっていて、振られるのは確定だ。
なぜ振られるのが確定なのかと言うと、俺が告る相手は星野綾乃と言ってこの学校で一番人気のある人だ。
頭脳明晰で運動神経も抜群。
それに加えてとても美人だ。
もうダメな部分が見つからない。
もちろんその人はよく告られている
だが、誰も成功した人は居ない。
なぜ成功しそうにないのにみんなが告っているのかと言うと、星野さんに彼氏は居ないし、そうゆう人も浮いてこないからだ。
一応星野さんとはクラスメイトだ。
なのになぜこんなに他人行儀なのかと言うと、話したことがないからだ。
別に俺がコミュ障とか星野さんが男子と話さない訳でもない。
単純に俺が星野さんに興味がないだけだ。
だからといって不能でもない。
単純に美人だから好きになる。
そうは決まっていないだろう。
そう言うことだ。
もし告白して成功してしまえばそれはそれで困る。
だから告って失敗する人に告ることに決めたのだ⋯⋯他の二人は知らないが。
まあ、そんな訳で俺は振られてこなければならない。
憂鬱だ⋯⋯。
でも、これもいい経験だろう。
そう割り切る事にした。
「よーし、ラブレターかけたぞー!」
と言って、ラブレターを見せてきた。
何を勝手にと言おうとしたが、中々の出来で言えなかった。
「ちゃんと告白しろよ?」
「わかったよ。 でも見られたくないから場所は屋上にしてくれ」
「ピュアな所もあるんだな」
そう言って二人はゲラゲラと笑った。
「うるせぇな。 もう俺席に戻るから入れといてくれ。 今は6限目だし、終わるまで寝る。 授業終わったら起こしてぇ」
俺はそう言って不貞寝した。
それからしばらくして目を覚ますと、クラスの何人かが掃除を始めようとしていた。
俺は慌てて準備を終えて教室から出ていくと、既に帰ったかどこかで待機しているだろう二人に怒りが沸いた。
だが、もう二人がどこにいるか分からないため、俺はため息を吐いて、それから慌てた。
やべぇ、時間何時か分からねえ! もう行った方がいいか? いや、行った方がいいだろう。 それからメールで聞こう。
俺は急いで屋上に向かった。
屋上までの階段を登り、ドアから出ようってところで止まった。
なんと、扉は空いていて、既に先客がいた。
あいつらだろうかと思いながら覗くと、別のクラスの男子と星野綾乃がいた。
きっと告白だろう。
そう思って観察すると、男子の方は顔が赤い。
それから大きな声で付き合ってくださいと叫ぶと頭を下げた。
角度は90度辺りで丁度顔が見えない。
俺もあんなくらい頭を下げるべきだろうか?
そんな事を思いながら観察を続行した。
男子に対して星野綾乃は頭を軽く下げて何かを呟く。
すると、男子は泣きそうになりながらも、分かっていたのか、少し笑顔を浮かべながら走って屋上から出ていった。
俺は丁度扉に隠れていて見つからなかった。
それから少し悩んでいると、星野綾乃と目が合った。
俺はそれに対してとりあえず挨拶をすることにした。
「やぁ、こんにちは。」
それに対して綾乃さんは戸惑いながら、
「はい、こんにちは」
と言った。
そして、気まづい空気になってしまう。
こんな空気嫌だなあ。
俺は早くこんな空気を変えようと世間話をしようとすると、綾乃さんが先に言った。
「あなたは田巻克也さんですよね?」
綾乃さんは戸惑い気味にそう言った。
「はい、そうですが何か?」
俺がそう聞くと、綾乃さんは困惑した様子だ。
それからある手紙を取り出した。
「これ······なんですけど」
ラブレターだろうか。 そうか! また別の人に今から告られるんだろう。
それで邪魔だからどっかに行けと言いたいんだろう。
「あぁ、ラブレターか。 これからまた告られるんですね? 分かりました。 さすがに見られたくないですよね。 さっさと帰ります」
俺はそう言ってそそくさと帰ろうとした。
「待ってください、これあなたからのラブレターなんですけど」
綾乃さんは訝しみながらそう言った。
俺はその言葉を聞いてしばし固まってから思い出した。
「ああ、すいません。 これから告白するんでした。 えぇっと、好きです? 付き合ってください」
俺はさっきの人の真似をしながらそう言った。
それに対して、綾乃さんは訳が分からないと困った様子だ。
当然だろう。
俺は今のは自分でもないわぁと思い、諦めた。
もう撤回は出来ない。
綾乃さんは困った様子から一変して目を鋭くしながら俺を見た。
「まさかだとは思うけど·····悪ふざけなんて言わないよね?」
「あははっ、そんなわけないじゃないですか」
俺は少し冷や汗をかきながらも本当の事だからはっきりとそう言った。
「さっき教室で少し聞こえてたんだけど、何か競ってたわよね? それの罰ゲームとか?」
俺はその言葉に、きっと表情は青ざめているだろうと思いながら、どうしようか悩んだ。
俺が黙りこくったのを見て正解と見たのか、綾乃さんは不機嫌そうな顔をしている。
「ねぇ、そんな罰ゲームで一々呼び出さないでくれる? 私にも時間があってやりたいことが山ほどあるの。 それなのに毎日毎日呼び出されて人の時間をなんだと思ってるの?」
綾乃さんはキレ気味にそう言った。
美人や初めて怒ったのを見る人は怖い。
ましてやそれが二つ合わさるのはとても怖い。
俺はそれに対して頬を引き攣らせた。
「それは大変だね⋯⋯でも、怒らないでよ。 皺が増えちゃうよ? だから、ね?」
「本当に誰のせいで怒ってると思っいるの!? ねぇ、なんでだと思う!?」
「それは⋯⋯普段君が呼び出されてるからかな⋯⋯? だから怒っているのは呼び出しているみんなに対して?」
それに対して綾乃さんはさらに顔を赤くする。
これは、決して照れてるとか良い意味ではない。
「あなたよ! あなたに怒ってるの! ねぇ、わかってる?」
「は、はい。で、でも⋯⋯ それが分かってないから今こうして怒られてたり、なかったり?」
すると、綾乃さんはため息を吐いた。
「はぁ、ダメね。 あなたの一つ一つの言動に腹を立てていたらキリがないわ」
「うん、その通りだよ」
「本当にあんたは⋯⋯」
「そんなに呼び出されたくないならさっさと彼氏作っちゃえばいいのに。 どうして誰とも付き合わないのさ?」
「そんなの、好きな人がいないからに決まってるじゃない。 私も居たら今頃こんなことにはなってないわよ」
「はぁなるほどー、それは大変だね。 まあでも、付き合ってたら付き合ってたでその人大変そうだし、今の状態が丁度良いんじゃない?」
俺がそう言うと、綾乃さんは納得したようだ。
それから少し悩むと、何かを思い付いたようで、ニヤリと笑った。
俺はそれに嫌な予感がした。
「それもそうね⋯⋯なら、あなた私の恋人になってくれない?」
いきなりそんな事を言い出した。
それにしても、綾乃さんは馬鹿なんだろう? いきなり綾乃さんの恋人は危ないと言ったばかりで、そんなのになりたい訳ないのに...。
「嫌だよ。 絶対に嫌だ。 俺まだ死にたくないし」
「ふふ、私の初めての告白だったのに⋯⋯あなた勿体ないことしたわね。 でも、本当に良いの? こんな美少女の恋人になれるのよ? みんなお金を出してでもなりたいって言うのに」
「そう言われると少し勿体ない気がするが、ここで俺が恋人になってくれって言ったらなるの?」
俺がそう聞くと、綾乃さんは唇に手を当てて悩んだ。
その仕草はとても可愛い。
普通の女子がやればぶりっ子呼ばわりされそうだが、綾乃さんがやるとかなり可愛かった。
そんな様子に綾乃さんはニヤっと笑った。
「あれ? 今ときめいちゃった? でも仕方ないよね? 私美人だし。 でもまあ、あなたが付き合いたいんなら恋人役にしてあげてもいいわよ?」
「恋人役? そんなの嫌に決まってるだろ。 それと、別にときめいちゃった訳では無い。 単純に普通の女子との差に驚いていただけだ」
「そう⋯⋯でもまあいいわ。 あなたは恋人役になるのよ。 そうしないと、あなたに罰ゲームで告白されたって言い触らすわよ? そうすればどうなるか⋯⋯分かるわよね?」
「な、なんだと!? そんなの脅しじゃないか! そんなことしたら親御さんが悲しむぞ!」
俺がそう叫ぶと、綾乃さんは勝ち誇った笑みを浮かべた。
くそう、仕草が一々様になったいる!?
「別に嘘じゃないもの。 それに私の今の状態を知ったらきっと同情して許してくれるわ。 それに、相手は罰ゲームで私に告ってきた相手。 逆にあなたに怒るんじゃないかしら?」
「くっ、確かにそうだが⋯⋯」
「ならいいわね? 今からLimeで私の友達に送るからね? そうすれば明日には⋯⋯うふふふふっ、いい気味ね」
そう言って綾乃は笑った。
悪魔だ⋯⋯。 まるで本に出てくる悪役みたいではないか⋯⋯!
「悪魔だぁー! 悪魔がいるよおまわりさーん!」
「誰が悪魔よ。 それにあなたは悪魔が出たら警察を呼ぶのかしら? 中々現実的ね⋯⋯。 あ、それと、もうLimeし終わったわ。 抵抗しても無駄よ」
「くそう、さすがは悪魔だ。 手が早い。 ギネスを狙えるぞ!」
「なんのギネスよ⋯⋯でも、これからよろしくね。 ダーリン」
俺はそう言った相手に嫌そうな目で見て言った。
「さすがにそれはバカップルみたいだからやめてくれ」
俺がそう言うと、理解したのか頬を赤くした。
「確かにそうね⋯⋯。 んん、でも、これで私も時間を取られないで済むわ。 これからよろしくね、克也くん」
綾乃は普通の笑顔でそう言った。
少しその笑顔が可愛いな、と思ったが、すぐに明日からの事を考えて憂鬱な気分になった。
「ああ⋯⋯よろしくな、綾乃」
もし、本気で恋人役をしたくないならしなくても済んだだろう。
だが、恋人役を嫌々ながらも受けたと言うことは、きっと綾乃に少しでも同情してしまったからだろう。
毎日告白される、そんなの嬉しい筈がない。
もし少しでも綾乃の助けになったならそれはいい選択だったんだろう。
俺はそんなことを考えてため息を吐いた。
そして、そもそも勝負に負けてしまった自分が悪いと納得することにした。