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絵本の中へ  作者: ジパング大柴
第4話 貧弱な金太郎
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第9話 絵本部の憂鬱

 秋…山の中にいた熊は食料を求めて気を荒くしながら山から降りてくる。それは、金太郎の世界でも同じだった。


 山原市立高等学校 第一会議室。

 放課後の高校では数人の生徒会委員が集まり、長机の上で話を進めていた。

 「…では、山原高校付近の噂のゴミ屋敷の清掃作業については保留という事でお願い致します」と優しいが、やや優柔不断な“生徒会長”。

 「はーい」と気さくな“書記”。

 「ういっす」は、チャラい“副会長”。

 「……」暗い“高1代表”。

 「♪」陽気な“高2代表”。

 「了解」と真面目な“高3代表”。

 「はい」と平凡な“学内活動担当”。

 これが生徒会全メンバー7名。

 「話を次にすすめましょう、会長」と高2代表。

 「そうだな、次にすすめよう。」

 生徒会長は自分のファイルに入れておいた資料を出して生徒会委員は目を通すように言った。そして資料が一周すると生徒会長は口を開いた。

 「資料の通り、今学校は資金が不足している。学園祭の企画もこれから使う費用も考えるとクラス費だけでは足りないクラスも多いが学校も渋るところがあるそうだ。」

 次は学内活動担当が口を開く。

 「ここで話す話題ではないかもしれませんが、最近よくわからない部活が増えてきて、部費を多額に請求してきたりするところもあるらしいです。無駄、不必要と思われる部活動を廃部にすれば学園祭の費用問題、先日保留になっていた“無駄な部活動問題”の解決にも至ると思います。」

 目を見開き生徒会長は答える。

 「それはいい案だ。ここで部活を減らせば一石二鳥だが、廃部の通達、手続きなどは一体誰がするんだ?」

 「僕は学園祭のことでいっぱいいっぱいです。できればある程度の余裕のある学年担当の人に手続きや廃部通達をしてほしいです。」

 申し訳なさそうに学内活動担当が言う。

 「なるほど…でも学年担当も学園祭の事で手一杯なはずだけど…」

 うーんと唸り、保留のほの字を言おうとした会長を遮る様に高2担当がバッと手を挙げた。

 「!?できるのか、有馬くん…」

 「できます。丁度目につけていた部活があったんです」

 「なるほど。じゃあ、廃部通達や手続きは有馬くんが担当だ」

 話がひと段落ついたところで生徒会は休憩。

 スマホを手にとった”有馬”は

 「君達をいじめた絵本部は僕が廃部にするよ。お礼、よろしく」と可愛いスタンプ付きで誰かへとメールを送っていた。

 その頃、絵本部はひたすら絵本を読み込んでいた。


 後日、絵本部は絵本を読みふけっていた。

 「どれくらい読めばいいんですかこれ~」

 僕はビターンと音を立てるくらいの勢いで机に顔をしならせた。

 「んーそうだな。あと“金太郎”に目を通せば今日のノルマクリアにしよう」

 部長はハツラツと質問に応えてくれたけど、自分はというと疲れ果てて「はぁい」と情けない返事しか返せなかった。

 「こんな絵本読んでなにになるんだか…」

 緑髪の桐さんは、コーヒーを飲みながら渋々絵本を読んでいる。前の一件から数週間経って桐さんも絵本部員として馴染んできたが、随分図々しい様な気もする。ちゃっかりコーヒー飲んでるし。と、考えていると部長は笑いながら、そんな桐さんの独り言に答えた。

 「絵本の中でなにかするなら少なくとも絵本のシナリオ通りに事を進めなくちゃいけないからな」

 「めんどくさ…そんなん依頼が終わる辺りで修正すればいい話じゃ…」

 顔に渋々と書いている様な顔でブツブツ独り言を言う桐さん。

 そんな会話を続ける部員たちの前に、もうその人は立っていた。

 「御機嫌よう、絵本部さん。生徒会委員の有馬雄助だ」

 「「「!!?」」」

 眉間にしわを寄せる部長。声を上げる僕。

 コーヒーを吹き出す桐さん。

 いつの間に入ってきていたんだ?寿命が縮むかと思った。

 「ノックするぐらいしてくれ。生徒会委員がこんな所になんの用だ?」

 苦笑いしながら部長は冷静に対応する。

 有馬委員もそれに応える。

 「生徒会の方で無駄な部活が増えているという報告があった。そして僕が無駄な部活か否かを判断して、無駄な部活には廃部の手続きを通達しにいく仕事を引き受けた。絵本部は今日から廃部だ」

 唖然とする僕と桐さん。部長はニヤニヤしながら口を開いた。

 「他にもっと無駄な部活はないのか?」

 「もう絵本部以外無い。ゲーム部、スイーツ部、オカルト部、旅部などなど…まともな活動をしていない、高額な部費を要求する部活は全部許可を取り廃部手続きをした」

 一体どんな風に説得して廃部にしたのだろう。

 すると、有馬委員は腕を組みながらとんでもないことを言い放った。

 「弱みを教えてやろう。絵本部、内部では校外活動やいじめを主に“仕事”しているのだろう?」

 「なっ…いじめなんかしていない!むしろ救った方だ!」

 怒りがこみ上げ、僕も声を上げる。

 「黙れ。噂ではお菓子を貢がせたり、校長になにかしでかしたとか…」

 ダメだ。どんな事を言っても噂で反論してきてらちがあかない。

 困惑する僕を見ながら部長はいかにもひらめいた反応をして口を開いた。

 「有馬雄介…弱みは“一週間前忙しさが原因で別れた彼女がいる”」

 「!!」

 動揺する有馬委員。

 「据え置き型ゲームのカラオケソフトで歌っていたら近所から通報を受けた。浮気経験あり。カンニングも時々。決め手の弱みは、数週間前の朝の集会で流れた爆音は司会で控えていた有馬雄介のゲップの音。全部半年内に起きたことだ。」

 ニヤニヤしながら話す部長。

 冷や汗を流し始める有馬委員。

 「なぜそれを…」

 「勝手に手続きしたら新聞部に頼みでるから。サービスでお笑い欄に掲載で頼んであげる」

 深呼吸しながら有馬委員は口を開いた。

 「いいだろう…続部テストを受けさせてあげよう。学園祭の部活企画で資金0円で5000円売り上げたら今言った廃部手続きは無しだ。その代わり新聞部に頼みでるのはやめろよ」

 「受けた」

 部長がニヤッとしながら呟く所を見て、有馬委員は用は済んだと言って足早に帰っていった。


 「どうすんだよ!なんの企画するんだよ部長!?」と焦る桐さん。

 きっと案を考えていると部長に目をやると、「どうするかなあこれ」と抜けた顔でビックリすることをいいだした。もし自分が千手観音だったら、自分が持ってる限りの手でツッコんでいた。

 部長が考えていないならみんなで考えるしかない。う~んと唸って考える。そういえばさっきの金太郎読みかけだ…。

 その瞬間、脳内でピンッと音がした。

 「部長!桐さん!思いつきました!」

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