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絵本の中へ  作者: ジパング大柴
第3章 2人の桃太郎
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第8話 2人の桃太郎

 「ここの鬼達は、僕がきびだんごで雇ったから説得したって無駄だよ」と荒れる鬼達の後ろで、緑髪が笑いながら言う。

 僕達はさすがに考え無しに飛び込めるほど強いとは言えなかった。

 「カツラを返せ!何が目的だ!」と部長が切羽詰まった顔で言うと、緑髪は手で顔を合わせながら大笑いした。

 「君ら、あのハゲの校長先生に依頼されたのか?随分笑える事を言ってくれるじゃないか。」

 緑髪は笑いを止めて息を吸い込むと言った。

 「別に校長のカツラが欲しいわけではない。このカツラはあくまで君らを呼び出す口実でしかない。校長はきっとどこに助けを借りようとバカにされるのを怖がって君らに助けを借りると僕は踏んだ」

 「じゃあ何が目的だ…」

 「目的?んー…強いて言えばこの前にメガネをいじめていた2人組いるだろ?実はあの2人は僕の後輩でね…僕は君らがいじめているのを止めたところ…つまり絵本に入って君らを見ていたんだ。僕の後輩達がいじめているのを楽しんでいたのに、絵本部が止めてしまったおかげで楽しみが一つ減ってしまった。その仕返しが目的だ。」

 「そんな理不尽な…」僕は思わず心の内を声に出してしまった。

 「ふん…せっかくあの2人と楽しくしていたのにあの一件以来から話しかけ様としたら避けられるんだ…どれもこれも…お前らのせいだ…」

 段々緑髪がイライラしてきた。きっと僕の言葉が気に食わなかったのだろう。

 「いじめていた奴を止めることは当たり前だ」と部長はごく当たり前の様に言った。

 「…そのせいで僕は傷ついた」

 「今の会話からするとお前は高校2、3年生で、後輩2人を操っていた様だが…もはや操っていながらうじうじと愚痴を投げかけてくる時点で後悔しか感じないぞ」

 「なにへの後悔だ?」

 「他人の私恨に付き合ってることへの、だな」

  完全に機嫌が悪そうな顔をしていた緑髪は、ここで怒りが爆発した。

 「お前らみたいなやつは鬼達にぶっとばされればいい!!合戦だ鬼達!!あいつが悪い桃太郎だ!!」


 この言葉に反応した鬼達は僕達めがけて襲いかかってきた。

 「俺は鬼達を斬る!サルはしがみついて目隠し足止め、キジは空から応戦、空はキジに乗っかって攻撃を仕掛けろ!」

 僕はキジに乗るなんて無理だと思った。キジまで距離があるし、鬼達も迫る。しかし、このピンチに及んで体がするすると動く!(多分犬になった事も関係している)空に飛び立とうとするキジに乗っかって僕はキジと共に空中に上がった。

 上から見下ろすと部長とサルのコンビはうまくお互いの利点を生かして剣で鬼達を倒して行っている。だが、このペースでは鬼達に数で押し負けてしまう。僕とキジはどうするか悩んだ末にむちゃくちゃな案を思いついた。

 「キジさん!このまま突撃する勢いで鬼に向かって!」

 「いいの!?やってみるけど…」そう言うとキジはかなりのスピードを出して鬼に向かって下降した。

 ガッッッッ。犬の小柄だが割と重い体を生かして、キジの勢いを利用して僕が鬼の頭へと突撃した。

 鬼はいとも簡単に、気絶してしまった。僕はぶつかった反動で、鬼の頭から頭へバランスゲームの様にして跳ねてキジの方へ向かった。僕はキジにまた乗っかって、このやり方を手際良くこなしていった。

とにかく僕達は役を分け、部長とサルは剣で鬼を斬り、僕とキジは気絶を狙って突撃し続けた。こなす内にいつのまにか僕達は鬼を全滅させていた。

 「よし…やっと倒した…!」

 「!?大量にいたはずの鬼達が…」

完全に僕達を倒したと思い込み、満面の笑みで腕を組んでいた緑髪はさっきまで調子に乗っていたとは思えないほど絶望を感じている顔をしていた。

 「なんでだ…クソ…こうなったら…」

 緑髪は僕達の前に降りくると、ポケットからきび団子を取り出し全部の団子を口に投げ入れた。するとみるみる内に、緑髪の身体は鬼へと化していった…

 「きび団子には身体を強化する効果があるらしい…」

 「…で、その身体になったのは鬼に魂を売ったからか」

 「そうさ…お前らを潰すためにどれだけ苦労したかと思う?まず、絵本に入ってばあさんとじいさんの家で準備をして…」

 こんな話をしだすかと思うと、緑髪は一切やめる気がないほど話すのにダラダラと夢中になり始めた。僕達は終わるのを待ったが、もう鬼達を全滅させた時間の2倍くらい軽く話しそうだ。そこで僕達はある事を実行した。

 不意打ちだ。

 サルは目辺りに抱きつき、キジは頭をつつきまくり、犬である僕は足にしがみつく。そこを部長がバサバサ容赦なく切るのである。「ふ、ふ、不意打ちは卑怯だ!!!!」

緑髪は不意打ちに驚き、完全に混乱していた。部長が真顔で何回も切っていく内に、段々緑髪の体内は光り始めた。「まずい!みんな離れろ!!」

 そう部長が叫んだ瞬間、洞窟に思い切り閃光が走った。

 なんとかギリギリで目を隠したおかげで目がチカチカしない。前には普通の姿になった緑髪がいた。「ダメージが効いて、爆発して普通に戻ったんだろ。きっと爆発でダメージは外に吹き飛んだはずだ。」「どうしますか?」と僕がそう聞くと、当たり前の様に部長は言った。

 「?もちろん部室に連れて行くさ」


 「…ここは?」ソファから起き上がる緑髪。僕と部長は口を揃えて言った。

 「部室だよ」

 緑髪はいまいちピンとしてない様な表情。部長は改めてこう言った。

 「鬼の変身が解けて気絶していたから部室で寝させてやっただけ。別に仕返しとかもしていない。だけどこのまま帰ってもらうのはこっちとしてもすっきりしない」

 「つまり…?」

 「訳をちゃんと話せ、って事だ」部長はきっぱりと言った。

 緑髪はうつむいて数分間沈黙した後、顔を上げて話し始めた。

 「まずは自己紹介するよ。高校二年生のうらばねきり(浦羽桐)だ。よろしく。」

 「よろしく」と僕と部長。

 「…無視されたくなかった。友達はいるけど広くて薄い、そんな気がしていた。学校から帰ってもバイオリンや勉強、色々な事をやらされる。もちろんそれを通して繋がった友達はいるけど学校とたいして変わらなかった。広くて薄い。そう思いこんでるだけかもしれないけど、考えれば考えるほど広くて薄かった」

 「じゃあ、なんで仕返しにしにきた?自分も、他人も傷付けようなんて…」

 「広くて薄い関係なんて、他人に言いたくなかった。で、後輩を従えさせた。だけど結果的に無視される様になってしまった…」

 今にも泣きそうな顔。少し哀れみを感じたが、よく考えてみると絵本部に入りたての時の自分に近かった。

 彼は、他人と関わることで自分を証明したかったのかもしれない。そういう僕だって、部活を通して性格を変えて自分を証明したかった。そう思うと、咄嗟にある言葉が出た。

 「じゃあ、絵本部に入ったらどうですか?」

 「…は?」桐さんは、べそをかきながら驚いていた。

 「…そうだな。今ちょうどメンバーが少ないんだ。別に嫌なら入ることはないけど、なにか手伝うくらいしてもらいたいな。校長にカツラ返さなくちゃいけない様な事したんだし」 と部長もニコニコしながら言う。

 「広くて薄い、なんていつも考えて動くよりも、一度だけでも誰かを助けたり手伝うために夢中になって動いたらきっと気持ちも晴れますよ!」

 僕がそう言うと、もう桐さんは大笑いしながら泣いていた。嬉しそうだった。


 翌日からは桐さんに絵本部の手伝いをしてもらった。毎日僕が運んでいた絵本を半分持ってもらい、助かった。

 そして桐さんが絵本部に入るまで時間もかからなかった。

 事件の数日後、街に半裸でツノ状のものが生えた赤い子供が出た、という噂を聞いた。この噂はもう忘れようと思う。



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