第7話 ご対面
翌朝のこと。
トントン、と誰かが肩を叩いている。目が覚めると、そこには部長…桃太郎の格好をした部長がいた。頭にはちょんまげ、手には旗を抱えている。
「犬さん、犬さん…起きてくれ」
「部長じゃないですか…長く待ったんですよ」
「その声は空か?よかった…犬役だったのか!一体何役になっているのかと不安だったよ」
「…もし鬼役だったら?」
「即斬るな」
「えぇ…」
なんとか合流できた、と2人で安心していると、部長は右で寝ている2匹に気づいた。
「ん…その2匹は?」
「あぁ、キジとサルの2匹はなんとか僕がかき集めてきました!ほら、起きてみんな!」
むくり、とキジとサルは眠そうな顔をして起き上がった。
「私は、キジよ…お助けするわ…」
「俺サル…お助けするよ…」
「よろしく…俺は赤し…桃太郎だ!」
眠そうな2匹を見てるとすごく不安になったが、長い時間をかけて集めたのだ。2匹を信じるしかない。
「で、どうするか…鬼ヶ島」
「近くの誰もいなさそうな岸に、船がありましたよ。それも、準備も整ってるみたいだし!」
部長はそれを聞くと顔をパッとさせて、「すぐに行こう!」と張り切りだした。僕は2匹を叩き起こして港へと出発した。
岸に着いた。岸には、いまにも落ちそうな木の桟橋と船が用意されていた。
「そういえば鬼ヶ島ってここからどのくらいですか?」
「んー絵本の中の大体1日くらいかな。飯とかは絵本の中でも食べられるけど、お腹は特に空かないから大丈夫だ」
船に近づくと、部長が何か気づいた素振りをした。
「…もしかするとこの世界には桃太郎が“2人”いるかもしれない」
え…?よく見ると、桟橋には一隻分の看板が立っていた。それも、どちらも桃太郎用と書かれていた。
「普通なら無駄なく、1隻だけなはずだ。前に桃太郎の絵本に入った時も1隻だけだった…急ごう!“緑髪”も桃太郎役になっている!もしかしたら絵本の内容が変わるかもしれない!」
「よし鬼ヶ島に着いたぞ!」
船に乗って、どのくらい経ったのかはわからないが1人+3匹で交代に漕いでとにかく進むと運良く鬼ヶ島に着いた。学校の敷地内分くらいの面積で、島のど真ん中にはどデカイ洞穴がある。
じゃあ早速出発するか!と部長は張り切っている。部長に合わせて僕と他2匹も洞穴へと入っていく。
「暗いし、薄気味悪…」とサルがブルブル震えながら言う。洞穴の中はとても暗く、入り口の光を頼りに進んでいった。空気もどこかドンヨリした雰囲気だ。僕は船での部長との会話を思い出す。
「絵本の内容が変わるって、そんなすごいことなんですか?」
「あぁ、かなりやばい。全国の“桃太郎”関連の本の内容が全部変わる。変わった後にその本がどのようなストーリーになっているかわからない。ましてや今回は愉快犯らしき者が絵本内に入っているからなおさらだ。これから絵本を読む人の夢を壊してしまう…それに俺たちが絵本の住民になってしまうかもしれない。つまり現実に帰れなくなる」
早く犯人を捕まえないと…。そんな事を考えながら暗闇の洞穴を進むと洞穴の最奥部に着く。
「ここが一番奥か…」と部長は刀を構える。
「?一体どうし…」質問をしようとすると、奥から「「「ゔぁあああああぁあぁぁぁああ」」」という叫び声が洞穴に響く。僕達は驚いて腰をついた。
「なんだ…!?」
奥を見るといたのは、大量の鬼達だった。巨体と威圧感を放つ目でこちらをギラギラとみつめている。その様子からは余裕が無さそうだ。最初から僕達を待ち構えていたかの様に見える。
「どうなってるんだこれは…」と部長が声を上げると、今度は天井付近から声がする。
「ここまでご苦労様!」
そんな呑気な台詞を吐いたのはまさに緑髪で、何を企んでるかわからない目をした、中学生だった。
「お前が…緑髪…」