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絵本の中へ  作者: ジパング大柴
第3章 2人の桃太郎
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第6話 緑髪からの挑戦状

 ますます張り切る部長の開と空。だが二人の裏には彼らをねたむ存在がいた…。


 「はーい、今日はもう帰っていいわよー」

 先生の声がする。帰りのHRが終わると同時に皆立ち上がり、ワイワイ言いながら教室から出て行った。

 「空〜クーラー切るぞ〜」

 最後の一人が出て行く。教室はシーンとなったかと思えばセミの鳴き声が鳴り響く。

 クーラーまで切られた蒸し暑い教室の中で、僕、多田野空は鞄の用意をしていた。

 「クーラーまで切ることないだろう…」そんな愚痴をこぼしながら、HR前に面倒くさくてしていなかった用意をパパッと終わらせて、廊下にでる。

 最近は部長が仕事依頼を募集し、絵本部もはりきってきた。といってもまだ部員は僕と部長だけだ。この前、休日や放課後を利用して街の至る所に仕事依頼募集のポスターを貼りに行った。部長の手描きポスターをコピーした手軽なポスターだが部長の絵が下手すぎて不安になった。完全にかまぼこにしか見えない絵を「これは絵本だ」と言い張るのだ。

 1人でこれからどうなっていくのだろうかと考えているともう部室前に到着した。

 今日も部長がニヤニヤしながら待っているのかなと考えながらドアノブを持つと、反対方向から大きく扉が開き扉と壁に挟まれた。

 「いいな!3日以内に見つけてくれよ!大事なものなんだ!」

 どこか見たことがある顔の大人だが、この学校の教師にはハゲの人は居ないはずだ。

 教師?らしきハゲの人は僕のことに気づいていないのか扉裏を確認せず部室を出て行った。

 「…っ、は」

 なんとか扉裏から出ると、そこには部室に戻ろうとしていた部長がいた。

 「お、空か。大丈夫か?」

 「こ、こんにちわ…どうかしたんですか?」

 そう聞くと部長は少し眉を動かしながら訳を説明してくれた。

 「…実はさっきの人、校長先生でね、実はこれまでカツラをかぶってたんだ」

 「えーーーーーーーーっ!!!!」

 「そこで驚くなよ…で、なんでカツラなのに今日はカツラじゃないかというと、どうやら盗まれたらしい。もしかしたら実はカツラをかぶっていると知っている誰かが盗んだのかと思い、まず生徒から調べたいらしい。でもさすがに自分から生徒に聞くのは恥ずかしい。そこで、端から見ると何でも屋みたいな絵本部の俺たちに、カツラを3日以内に探して欲しいと頼んできた。他言無用でな。」

 「よく引き受けましたね…」

 「なんだか可哀想になっちゃってな」

 部室に入り、荷物を置くと部長はなにやら用意をし始めた。

 …清掃員みたいな姿だ

 「なんですかその格好」

 「盗まれたとは限らないし、さすがに俺達で荷物検査とか探りを入れるのは怪しすぎる。まずはカツラが隠れていそうな所を探すのだ」

 「はあ…」

 「なに言ってんだ、空も着るんだぞ」

 「はぁ!?」

 入部試験時もそうだが、何故いつも変装しなくちゃいけないのだろうか…と考えながら僕達は準備を整えて部室を出発し、カツラ探しを始めた。


 下校準備のチャイムが鳴る、もう部活中の生徒も帰る時間だ。

 結局、数時間探したが見つからなかった。体育館裏でイチャつくカップル、いちいち威圧してくる花壇に集まるチャラ男達、妙に厳しいと話題の鬼教師にお前らは何者だと探られたりと、あまり遭遇したくない人達に遭遇してしまった。だけど、体育館や理科、研究室や教室の隅から隅まで掃除しながら探っていったら色々なものが出てきた。これならカツラの二つや三つ出てくるんじゃないかと希望が持てた。

 部長と共に部室に帰ると閉めたはずのドアが大きく開いていた。

 「しっかり閉まらなかったか?」

 部長がそう言うが、そんなはずない。開け閉めはしっかりしたはずだ。ドキドキしながら部室に入るとそこには信じられない光景を目の当たりにした。

 絵本が机の上で緑色に発光しながら開いていた。横には紙が置いてあり、焦った僕らはバッッと取り、読み上げた。

 「こんにちわ〜急だけど、校長先生のカツラを盗んだのは僕です!お互い仲良くしたいところですが、ちょっと今回は嫌ですね!カツラを取り返したいならこの 桃太郎 の絵本に飛び込んで、鬼ヶ島にでも来てください。

      緑髪より」  

 「…どうするんですか!?」

 「もう…行くしかないだろ!!」

 部長と同時に僕も桃太郎の絵本に飛び込んだ。


 目を開けると、地面が見える。どうやら道端に倒れている様だ。

 むくりと起き上がると、道が奥まで進んでいるのが見えた。周りは木で囲まれている。

 「…絵本に入れた?」

 小鳥の声が聞こえる。僕はホッとしたが、妙な予感が頭をよぎる。

 「…部長?」

 周りは木と看板、音は小鳥が鳴く声しかしない。

 「部長!!」

  叫んでみたものの返事がない。僕は悟った。部長とはぐれてしまったことを。

  はあ〜〜と絶望し、手を顔に合わせる。ん?なんかやけにプニプニするぞ…手を見てみると、肉球が見える。それも爪も鋭いし手がフサフサする…

 近くの水たまりで顔を確認すると僕は声をあげて驚いた。

 「犬になっている」

 気が動転してうまく呼吸もできない。一旦落ち着こうと深呼吸をする。僕は部長のアドバイスを思い出す。

 「絵本に入ってもし仲間とはぐれる、それも人間じゃなくなったら絵本の登場人物を考えろ。きっとなぜ自分がその姿か納得できるだろ。訳が分かった後はその絵本の内容を思い出して、仲間とまた会う様行動するか、絵本の内容通りに事が進む行動をしろ。」

 確か、この絵本の中は桃太郎の世界だったな…登場人物は桃太郎、お祖母さんお祖父さん、犬、サル、キジ、鬼…。

 「犬!!」

 そう、僕は犬役になったのだ。今頃桃太郎はお祖父さんお祖母さんに育てられているだろう。どうやら僕は人間の言葉から動物の言葉まで話せるらしい。絵本の内容通りに事が進む様な行動をするか…。

 これからどうしようかと模索していると、右にある看板が目に入る。そこには《←村 鬼ヶ島→》と書かれている。ジッと見つめながらもしかしたら桃太郎が通る道では…?と考えていると、一つ案を思いついた。他のお供になる猿、キジを集めて、この道で桃太郎を待っていれば!?

 そうだ!これならかなりスムーズに事が進むと思い、早速僕は仲間を求め、道を外れて途方もない森へ入っていった…。



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