第21話 尾行せよ!絵本部
ジキルとハイド襲撃後に、僕は時計ウサギをはじめ、お茶会参加者から大説教を食らった。管理の詰めが甘いとか、なんでまず動こうとしなかっただとか、僕は何も言えず説教を聞いていた。それも、ジキルとハイドが逃げ込んだ街がたまたま山原市というのと、責任が絵本部にあるとしてジキルとハイド捜索を絵本部がすることになってしまった。みんなに手伝ってもらおう、と考えている時にはもう次の日が来て、絵本部員に事情を説明し、皆で探すことを提案していた。
「じゃあこれからどうやって、ジキルとハイドってやつを探すかな。目が髪で隠れてるやつの目撃証言でも集めるか?」
と桐さん。
部員皆で首を捻る。駅に貼られてある指名手配の人間さえ捕まえたことないのに、UMAのような生命体を含めた身元のわからない盗人二人を同時に、どうやって捕まえられるのだろう!
凛子が手を挙げて、目を大きく開きながら話し始めた。
「町中の人に聞いてみようよー」
「ダメだよ。町中で聞いても手間がかかるし、特徴ぐらいしか情報が話せないんじゃ意味がない」
凛子が口を尖らせて、挙げていた手を下ろした。元々、僕たちも含めた現実の世界の人には絵本の世界を知られては本当はまずいのだ。そこも考慮しながら捜索とは、大変だ。
「いっそ、会議の参加者に手伝ってもらおう」
と、地面に目をやりながら話す桐さん。
「そうすると、また改めて人を呼び戻さなくちゃいけないから面倒ですよ」
渾身の放棄案を却下され、唸る桐さん。
間髪入れずに、次は鹿ノ子が話を切り出す。
「町中の人を誰振り構わず蹴り倒す!」
椅子から転げ落ちる僕、凛子、桐さん。
3人で一斉に鹿ノ子さんにツッコミを入れる。
「なんじゃそりゃー!!」
もう頭がパンクしそうだ。また椅子に腰をかけ、黙ってなんとなく窓の方を見上げる。綺麗なクヌギの木の葉と日光が、目にしみるように言える。
すると、ふゆふゆとした、黒い物体が窓の淵から顔を覗かせているのに気がついた。目のピントが、黒い物体を捉える時にはもうそれが、先日の例のUMAだったことを察していた。 そうして、窓に向かって身を乗り出した。
間一髪、尻尾のようなものをつかむことができた。例のUMAは、こっちを睨みながらジタバタしている。あまりにも力が強くて、手が離れそう!
「3人とも、僕が掴んでるものを代わりに引っ張って!」
何があったのか不思議そうに眺めていた三人は、やっとハッとして、僕の代わりに尻尾を掴む。が、UMAに力負けして、尻尾から三人の手がするすると抜けていく。
完全に尻尾から三人の手が離れる瞬間、僕は思いのあまり能力を発動させ、“魔女の香水”を呼び出し、UMAにかけた。
UMAは、ひたすら「嫌なやつらだ」と連呼しながら、雨雲の色に隠れていった。どうやら、喋れるらしい。
三人とも、何もできなかった、という顔をしている。僕は地面に腰をつけながらニカッと笑った。
「大丈夫。捜索の手立ては見つかった!」
その日僕らはジキルたちを追うべく、みんな変装をして、山原商店街へと向かった。最近、田舎の山原市も活気付いてきた様に、商店街などに少しづつ、オシャレな店も並び始めてきた。そこで僕らは、尾行していてもバレにくくて、(ちょっぴり)シャレた商店街にも合う、そんな変装をしてきたのである!
僕はサングラスとマスクとフードに、ブカブカの腰までちょっと落としたスウェットパンツで!桐さんは後ろ向きのキャップ帽を被り、クマちゃん柄のTシャツと短パン!凛子はツギハギピースシャツにミニスカート!鹿ノ子が道着!
いや、「凛子さん以外、場違いすぎだろ!」と集合した時から誰もが突っ込むタイミングを見計らっていた。
だが、先にツッコミの火蓋を切ったのは、僕だった。
ちょうど、“GU”とかいうオシャレな店の反射ガラスに僕たちの姿が映った時だ。
「やっぱり、変装が場違い過ぎるだろ!」
能力で“豚の鼻”を発動させて、先日UMAにかけた香水の匂いをたどって行き着いた場所が“GU”だった。
もちろん、“豚の鼻”はマスクで隠してある。
店内に入り、服を物色しながらジキルとハイドを探す絵本部員。
早速試着室前で、服を見ているジキルを見つけた。横にはハイドがいる。
「いいか、よく見てて。あれがジキルとハイドだよ!」
小声で、3人にジキルとハイドがいることを知らせる。3人は、身を乗り出してジキルとハイドを確認した後、グッジョブサインを出す。
そして、鹿ノ子が懐に忍ばせておいた、パチンコのゴムを引く。
「射的とかも自信あるんですよー!」
この前の、自信満々な鹿ノ子の様子が眼に浮かぶ。さあ、実力はいかに!
鹿ノ子が、伸びきったゴムから手を離す。
しかし、ジキルとハイドは当たる寸前ですぐ試着室に入った。弾は、当たることはなかった。
落ち込む鹿ノ子を、みんなで慰めた。
尾行して、次に来たのは古本屋だった。古本屋もかなり老舗のようで、そこがまたオシャレな店だった。ジキルとハイドはオシャレなものが好きなのか、と気づいた僕たちは、客に紛れて細工をすることにした。
凛子が能力で、ある古本の世界に吸い込まれる術をかけ、本を開いたら本の中に捕まる、という細工を仕掛けるのだ。
凛子以外、3人は路地裏で待機。
少しすると満足げな顔で、路地裏に凛子が帰ってくる。きっと成功したのだろう。
路地裏の壁から顔を覗かせて、シメシメ、とジキルとハイドの様を確認しようとした。すると、術をかけたはずの古本を抱えたジキルと、その横を飛ぶハイドの背中が見えた。
一瞬混乱したが、すぐに理解した。彼らは本をパラっとも読まずに買う人種なんだ。
よくわからないけど、見透かされたような気がして悔しかった。
三件目は、オシャレ〜なカフェだった。ジキルとハイドは、コーヒーと事前に持って来ていた本を嗜んでいた。
僕らは、おとなしく窓に張り付いてジキルとハイドを見張っていた。変装が鬱陶しくなったから、普通に学生服に着替えた。ちなみに、鹿ノ子さんを道ゆく人への見張り役として置いていた。
「随分オシャレなものが好きなんだな」
と、桐さんが言った。
僕と凛子さんも、気を抜いて喋る。
「まあ趣味はわかって来たけど・・・」
「それだけわかっても仕方ないよね」
すると、桐さんも勢いに乗って来た。
「オシャレとはいえあいつらも趣味わりーよな。俺、こんな店ばっか周ってたらぶっ倒れるね。大体、なんだ?ジキルが読んでる本の題名、“モモ”って?おフランス製桃太郎か?」
このセリフを桐さんが言い終えた時、僕らの目の前のジキルとハイドがピクッと体を揺らした。バレた、と顔を歪ませた瞬間、僕たちは思い切り服の首根っこを掴まされ、路地裏の道に放り込まれた。
「いてて」
起き上がろうとした時、目の前にはジキルとハイドがいた。
「おフランス製桃太郎だあ?地獄耳でハッキリ聞こえてんだよ。“モモ”はれっきとした、文学であり俺にとっての聖書だ。なのに、だのに、なんてことをお前らは言い出すんだ?」
ジキルの顔が、紅潮している。
「お前ら、そんなくだらないダジャレを俺に言いに、ここまで来たのか?」
と、僕がこれまでUMA扱いをしていたハイド。
僕も負けじと言い返す。
「あんたらが奪った神器を奪い返しに来た」
ハイドが鼻を鳴らしながら言う。
「じゃあ、鬱憤ばらしに追いかけっこで決着つけようぜ。」
?追いかけっこで決着!?
「俺が捕まるか、神器を落としたら返してやるよ。」
バッグから神器を取り出しながら、ハイドが言う。
僕の脳みそは、チャンスだ、やるっきゃない、という思いでいっぱいだった。
「やってやろうじゃないか」
この僕の返事を汽笛代わりに、ジキルとハイドとの壮大な追いかけっこが始まったのだった。




