第20話 ジキルとハイド!?
先が見えないほど木々に囲まれている。可愛い蝶が飛んでいる。今座っているテーブルからは、大きな城が見えていた。
「それでは、久しぶりにお茶会を始めようじゃありませんか!ウヒヒ」
マッドハッターが、片手に持った茶碗を掲げながら言う。
僕は、この「お茶会」が一体なんなのか困惑していた。
元はといえば、この前掃除した時に見つけた謎の招待券がきっかけだった。見つけた時は、なにに招待されるのかわからなかった。とりあえず家に持ち帰って部屋に置いておいて、なにかと見たい時は招待券を眺めたりした。
「絵本部さん」
だけど、今日は眺めるだけでは終わらなかった。招待券を眺めていたら、しっかり今日の日にちが書いてあった。場所は、“不思議な国のアリス”。
「絵本部さーん」
今日は部活の休日だっていうのに、放課後部室に行って大急ぎで支度して一人で絵本の中に入った。
そして今は、招待されてはいたが、意味のわからないテンションのお茶会が始まり、困惑していた。
「絵本部さん……」
だってメンバーは、時計ウサギ、マッドハッターに、桃太郎、傘地蔵兄弟……などなど、色んな絵本の登場人物が目の前に座っているのだ!
「絵本部さん!」
時計ウサギに注意され、意識がお茶会へと舞い戻る。時計ウサギは、左の腕時計を指差しながら怒っている。
「絵本部さん、今の話聞いていましたか?」
「申し訳ないですが、聞いていませんでした」
「全く、ちゃんとしてくださいよ!」
時計ウサギの憤怒の姿を見ながら僕は、絵本部員の一人や二人連れてくればよかったと思っていた。僕一人で来てしまったから、僕が絵本部代表なんて呼ばれているのだ。
マッドハッターが、さっきまでの話の説明を始めた。
「今回皆さんを呼んだのは、さっきも言いました。今私の手元にある”種の弓”と”絵本白書”の管理についてですな!」
マッドハッターが、手にもっている弓矢と分厚い本を掲げながら話し続ける。
「この弓と本は、絵本の世界が他の世界に影響をきたさないように作られた結界を、保ち続けるための道具ですの。結界が破れそうな時は、弓矢で結界を一旦射て、白書で結界を張り直すのです!ウヒ」
呆れた顔で、次は時計ウサギが話を継ぐ。
「これらの道具の担当を外部に特定されない様、めどをつけて度々管理者を変えていますが、今回の管理者になってくれる人は!い!ま!せ!ん・か!」
マッドハッターが笑顔で、皆の顔色を伺う。が、どれもこれも、聞きあきたといった顔や担当したくないといった顔ばかりだ。傘地蔵兄弟なんか石みたいな顔で固めている。(まあ、当たり前だ)
沈黙がたっぷり続いて、すっかり嫌気が差した頃に僕は、バッと手をあげた。
周りから歓声が挙がる。
「絵本部さん、随分自信満々な様ですが、管理の仕方はお分かりで?」
喜んで担当になってくれる人がいなくて困ってるくせに、と思いながら僕は渋い顔をしながら頷いた。
すると、時計ウサギの長々とした説明が始まってしまった。
「・・・磨き、試して・・・絵本部は絵本の世界の中でも現実と道を繋げる大役を担っているからこそウンヌンカンヌンピーチクパーチク」
皆が僕を睨んでる・・・。もう時計ウサギは一時間半は話していた。マッドハッターは、時計ウサギの横でグッスリ寝ていた。僕は、みんなの視線を払うこともできず話を聞いていた。
そろそろ “メド”をつけてほしいなあ・・・。そう思って天からの奇跡を拝み、待っていた時だった。
目の前を、黒い影が通り過ぎた。それと同時に、テーブルの上のものが一斉に舞い上がった。
僕を含めた、テーブルの皆はあまりに急なことで動けなかった。が、その黒い影が“種の弓と絵本白書”にめがけて突っ込んだことをまず理解したマッドハッターが、咄嗟に影に向かって、被っていた帽子から、なだれ出てくる瓦礫を噴射した。
瓦礫は影に直撃するも、影はすぐに瓦礫のなだれから抜け出た。ハッとした者は、この時点で影を囲い込み、剣を抜いたりして戦闘態勢に入っていた。僕はまだボーッとしていた。
影は、折れたテーブルの上に立ち、瓦礫の煙を手で押しのけた。
目が見えないほど長い前髪、首に巻いてある布切れ、ボロボロのジーパン、それが影の正体だった。
「随分派手にやらかしてくれたな」
と時計ウサギ。
それぞれの手に、種の弓と絵本白書を持った盗人は、囲まれてたじろいでる様子だ。
その隙を見逃さず、囲んでいたものは一斉に盗人を潰しにかかった。が、あと数ミリで肌に当たる、というタイミングで盗人が空に飛び上がった。
前線の後ろにいた僕は、しっかりこの目で捉えた。盗人を掴んで空を飛んでいる、ツノの生えた謎の生命体を。
「あいつらは確か、絵本の中の財宝を主に動く、盗人の“ジキル”と“ハイド”じゃあねえか!」
誰かがそう、叫んだ。すると、空から声がした。
「そうさ、俺たちがジキルとハイドさ!この二つのお宝は大事にさせてもらうぞ」
僕たちは、空も飛べるはず、もなくただ空を見上げて立ち尽くしていた。




