第19話 女王探索冒険記
「この道で会ってるはず・・・」
カラスになってしまった僕(空)と、同行している鹿ノ子さんは、途方もなく続く砂原の道を進み続けていた。
「本当にあってるんですかあ・・・?」
鹿ノ子さんはヘロヘロだ。
「もう、がむしゃらに進むしかない!」と僕。
水はあるものの、何せ気力を消費する。戻るにも戻れなくなった僕たちは、まるで映画「スタンドバイミー」の如く歩く(いや、僕はカラスになってしまったから飛ぶ)しかなかった。今の僕たちと、スタンドバイミーの間にある差なんて、あのワクワク感とメンバーの人数が足りないことくらいだ。
一方、鹿ノ子さんはまだこの状況が理解し切れていないようだった。僕の、わかりにくい説明がやはり悪いのか・・・。
進みながら、道草でも食える場所がないかキョロキョロしていたら、大きめのゴツゴツした岩の陰から3人の男が道の真ん中に出てきた。チビ、ガリガリ、デブッチョの3人組で、全員ナイフを持っていた。
「おい!大人しくしてな。ここからは身のためにも、金を払え!」
チビの男が叫ぶ。
「さもないと、その体を荒れ果てた街の野郎どもに売りつけてやるぜ。」
「安心しろよな、高値は保証するぜ」
ガリガリとでぶっちょが、ニヤニヤと顔を近づけて立て続けに話す。ガリガリは、ナイフを舐め回して威嚇している。まるで映画の悪党だ。枠なことしやがるぜ!
しかし、ぼーっとしている僕らには、1mmも通じない脅しだった。悟ったデブッチョは、鹿ノ子さんの腰に手を回した。
「やめてよ!」
その瞬間、鹿ノ子さんはまず、僕たちの命綱だった水をデブッチョの顔面めがけて放った。視界を遮られたデブッチョに足をかけ即倒させ、デブッチョを踏み台にガリガリに照準を定めて蹴りを食らわす。吹っ飛ぶガリガリに巻き込まれる形で、チビも倒してしまった。
悪党を倒した彼女の後ろ姿は、なかなかにバイオレントだった。
「貴重な水がああああ!!」と絶望する僕と、えへへと舌を出して茶化す鹿ノ子さんと、倒れている悪党3人組。状況もなかなかにバイオレントだった。彼女の実力を見せ付けられる場面だった。
「触られるとおもわず癖で、動いちゃうんですよ」
「そういうレベルじゃなくない!?」
世界の男子諸君、女子にいきなり触っちゃダメだ。
そのあと僕らは、どうしたら城に行けるか悪党に問うた。
「俺たちが使ってる馬車が、そこで停めてある。馬車でまっすぐ行けばなんとかなるから、とりあえず命だけは許してくれ」とデブッチョ。
馬車の操縦はチビに任せ、僕らはデブッチョとガリガリを縛って馬車に乗り、道を進んだ。
僕は、砂原の風を羽で感じながら飛び続けた。
そうしてとうとう城に到着。凄まじい雪が吹き荒れていた。僕たちは唾を飲んで城の扉を開いた。
城の周りは水たまりの溝に囲まれ、溝の架け橋と岩造りが目立っていた。中は舞踏会ができそうな洒落た造りだ。
そして、奥には女王らしき者と桐さんらしき人がうずくまっていた。屋内でも雪が吹き荒れている。私は羽ばたく空さんの横で固まった。
「さ、寒い」とつぶやく空さん。
「弟を、返してもらいたい!」
私はとっさに女王に向かって言った。
「貴様が、鹿ノ子か!いいだろう。ただし、私と戦って、勝ったらだ!」
桐さんらしき人を指差しながら話す女王。もしかして、あれが弟なのだろうか?私も早速話に乗る。
「わかった、受けて立つわ!」
「我に勝つヒントは、『ゆきとかすには』だ」
言っている意味がよくわからない。まあ、ヒント無しでも勝てるだろう。
女王めがけて思い切り殴りかかるが、女王は手に氷をまとわせ拳を弾く。続けて蹴りを入れるが、また弾かれる。今度は女王が攻撃を仕掛けてきたので、なんとか避ける。
馬車で移動中、空さんに「絵本の中では飛躍的に強くなる。中に入っていきなり攻撃を仕掛けるといい」と言われていた。確かに体が動く、動く!飽きていた格闘技も、どこかまた燃え始めていた。
今度はとにかく氷の重装を潰しに、女王の腕を思い切り殴りまくる。しかし音も響かず、割れもせず、女王が地面から突然出現した氷の柱で吹き飛ばされる。
未だ、雪は吹き荒れる。攻撃したり、攻撃されたりを何回も繰り返すと限界に近づいてきた。息が荒くなり、避けきれなくなってきた。
「ヒントを解けば、簡単なことだぞ」と女王が落ち着いた口調で言う。
私は頭を働かせ、弱点を暴こうとした。
ゆきとかす、つまり雪を溶かすのか!そのまんまだなと思いながら、私は、バッグからマッチを取り出し、女王に突っ込んだ。しかし、火は消え、女王に弾き飛ばされる。
「バカか?燃えるわけなかろうが。」
態勢を立て直す、久々にピンチだ。それよりも、謎がわからなくてもやもやする!
私は、フラフラしながら、しばらく女王を観察した。冠、ドレス、ゆきとかす、まるで深淵のような目、耳はない、そういえばこっちが動いた時にしか動かないな・・・
焦る気持ちが行動になって、飛び跳ねながら考える。動いてるのに女王は動かないのはなぜだ?
その瞬間、私はひらめいた。
「空さん、奥の弟?の足の拘束を解いてください!そして二人で雪の上を、バラバラに走ってください!」
カラスは、それきたと言わんばかりに奥に移動する。それでも女王は動かない。
カラスと、足だけ自由になった弟が、雪の上を走り回る。胴体の拘束は、鉄の枷で難しそうだ。
私も反対方向を走り回る。女王が混乱の素ぶりをする。顔をキョロキョロさせている。
私の推理だと、女王は雪と一体化して、雪だけを頼りに動いている。視界も音も使えないので、いくら同じ場所で動こうとも音を立てても気づかないし、複数の人が雪の上を移動したら惑わすことができる!
隙を見て、女王の顔部分に攻撃する。そして、思い切り蹴りを食らわせた時、女王が倒れ、雪がやんで、みるみる解けていった。推理が当たった!私たちが勝ったのだ!
カラスと弟?が駆け寄ってくる。よく見ると弟は、桐さんだった。
「よくやったじゃないか。」
「え、へへへへへ」
疲れすぎてはっきりしない、声だけ聞こえる感じだ。
だが、次に見たものが私の意識をなおさら遠のかせた。
倒れた女王の方を向くと、そこには割れた女王の仮面から凛子さんの顔がのぞいていた。
私は、これまで殴っていたのが凛子さんだと気づき、罪悪感を感じて気絶してしまったのだった。
こうして私の入部試験は幕を閉じた。
鹿ノ子さんが気絶した後、僕たちは彼女を抱えて現実の世界に戻ってきた。
意識を取り戻した鹿ノ子さんには、絵本部の事情を隅から隅まで話した。
入部試験では、ナビが僕、弟役が桐さん、女王は凛子さん、ほかは物語の人だと言うネタバラシも。そして彼女も心の内を話してくれた。
「試験を通して、格闘技がちょっと面白く感じました。考えながら、強敵と闘うって楽しいんだなって」と鹿ノ子さん。
「やっぱり、格闘技はあんたにとって大切なんだな。捨てちゃいけないよ。闘ってた時イキイキしてたし」と桐さん。少々照れ気味だ。
僕はとてもいい試験ができたなと感じていた。
もちろん、結果は合格。彼女も晴れて入部することとなった。
・・・しかし、鹿ノ子さんと桐さんの間のわだかまりが解けることはなかった。
「雪の女王」の絵本の中から、古い写真が出てきた。そこに写っていたのは髪で目が隠れている男性と、その人の肩に乗るコウモリ。彼らの正体はいかに・・・。