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絵本の中へ  作者: ジパング大柴
第7章 女王探索冒険記
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第19話 女王探索冒険記

 「この道で会ってるはず・・・」

 カラスになってしまった僕(空)と、同行している鹿ノ子さんは、途方もなく続く砂原の道を進み続けていた。

 「本当にあってるんですかあ・・・?」

 鹿ノ子さんはヘロヘロだ。

 「もう、がむしゃらに進むしかない!」と僕。

 水はあるものの、何せ気力を消費する。戻るにも戻れなくなった僕たちは、まるで映画「スタンドバイミー」の如く歩く(いや、僕はカラスになってしまったから飛ぶ)しかなかった。今の僕たちと、スタンドバイミーの間にある差なんて、あのワクワク感とメンバーの人数が足りないことくらいだ。

 一方、鹿ノ子さんはまだこの状況が理解し切れていないようだった。僕の、わかりにくい説明がやはり悪いのか・・・。

 進みながら、道草でも食える場所がないかキョロキョロしていたら、大きめのゴツゴツした岩の陰から3人の男が道の真ん中に出てきた。チビ、ガリガリ、デブッチョの3人組で、全員ナイフを持っていた。

 「おい!大人しくしてな。ここからは身のためにも、金を払え!」

 チビの男が叫ぶ。

 「さもないと、その体を荒れ果てた街の野郎どもに売りつけてやるぜ。」

 「安心しろよな、高値は保証するぜ」

 ガリガリとでぶっちょが、ニヤニヤと顔を近づけて立て続けに話す。ガリガリは、ナイフを舐め回して威嚇している。まるで映画の悪党だ。枠なことしやがるぜ!

 しかし、ぼーっとしている僕らには、1mmも通じない脅しだった。悟ったデブッチョは、鹿ノ子さんの腰に手を回した。

 「やめてよ!」

 その瞬間、鹿ノ子さんはまず、僕たちの命綱だった水をデブッチョの顔面めがけて放った。視界を遮られたデブッチョに足をかけ即倒させ、デブッチョを踏み台にガリガリに照準を定めて蹴りを食らわす。吹っ飛ぶガリガリに巻き込まれる形で、チビも倒してしまった。

 悪党を倒した彼女の後ろ姿は、なかなかにバイオレントだった。

 「貴重な水がああああ!!」と絶望する僕と、えへへと舌を出して茶化す鹿ノ子さんと、倒れている悪党3人組。状況もなかなかにバイオレントだった。彼女の実力を見せ付けられる場面だった。

 「触られるとおもわず癖で、動いちゃうんですよ」

 「そういうレベルじゃなくない!?」

 世界の男子諸君、女子にいきなり触っちゃダメだ。

 そのあと僕らは、どうしたら城に行けるか悪党に問うた。

 「俺たちが使ってる馬車が、そこで停めてある。馬車でまっすぐ行けばなんとかなるから、とりあえず命だけは許してくれ」とデブッチョ。

 馬車の操縦はチビに任せ、僕らはデブッチョとガリガリを縛って馬車に乗り、道を進んだ。

 僕は、砂原の風を羽で感じながら飛び続けた。

 そうしてとうとう城に到着。凄まじい雪が吹き荒れていた。僕たちは唾を飲んで城の扉を開いた。


 城の周りは水たまりの溝に囲まれ、溝の架け橋と岩造りが目立っていた。中は舞踏会ができそうな洒落た造りだ。

 そして、奥には女王らしき者と桐さんらしき人がうずくまっていた。屋内でも雪が吹き荒れている。私は羽ばたく空さんの横で固まった。

 「さ、寒い」とつぶやく空さん。

 「弟を、返してもらいたい!」

 私はとっさに女王に向かって言った。

 「貴様が、鹿ノ子か!いいだろう。ただし、私と戦って、勝ったらだ!」

 桐さんらしき人を指差しながら話す女王。もしかして、あれが弟なのだろうか?私も早速話に乗る。

 「わかった、受けて立つわ!」

 「我に勝つヒントは、『ゆきとかすには』だ」

 言っている意味がよくわからない。まあ、ヒント無しでも勝てるだろう。

 女王めがけて思い切り殴りかかるが、女王は手に氷をまとわせ拳を弾く。続けて蹴りを入れるが、また弾かれる。今度は女王が攻撃を仕掛けてきたので、なんとか避ける。

 馬車で移動中、空さんに「絵本の中では飛躍的に強くなる。中に入っていきなり攻撃を仕掛けるといい」と言われていた。確かに体が動く、動く!飽きていた格闘技も、どこかまた燃え始めていた。

 今度はとにかく氷の重装を潰しに、女王の腕を思い切り殴りまくる。しかし音も響かず、割れもせず、女王が地面から突然出現した氷の柱で吹き飛ばされる。

 未だ、雪は吹き荒れる。攻撃したり、攻撃されたりを何回も繰り返すと限界に近づいてきた。息が荒くなり、避けきれなくなってきた。

 「ヒントを解けば、簡単なことだぞ」と女王が落ち着いた口調で言う。

 私は頭を働かせ、弱点を暴こうとした。

 ゆきとかす、つまり雪を溶かすのか!そのまんまだなと思いながら、私は、バッグからマッチを取り出し、女王に突っ込んだ。しかし、火は消え、女王に弾き飛ばされる。

 「バカか?燃えるわけなかろうが。」

 態勢を立て直す、久々にピンチだ。それよりも、謎がわからなくてもやもやする!

 私は、フラフラしながら、しばらく女王を観察した。冠、ドレス、ゆきとかす、まるで深淵のような目、耳はない、そういえばこっちが動いた時にしか動かないな・・・

 焦る気持ちが行動になって、飛び跳ねながら考える。動いてるのに女王は動かないのはなぜだ?

 その瞬間、私はひらめいた。

 「空さん、奥の弟?の足の拘束を解いてください!そして二人で雪の上を、バラバラに走ってください!」

 カラスは、それきたと言わんばかりに奥に移動する。それでも女王は動かない。

 カラスと、足だけ自由になった弟が、雪の上を走り回る。胴体の拘束は、鉄の枷で難しそうだ。

 私も反対方向を走り回る。女王が混乱の素ぶりをする。顔をキョロキョロさせている。

 私の推理だと、女王は雪と一体化して、雪だけを頼りに動いている。視界も音も使えないので、いくら同じ場所で動こうとも音を立てても気づかないし、複数の人が雪の上を移動したら惑わすことができる!

 隙を見て、女王の顔部分に攻撃する。そして、思い切り蹴りを食らわせた時、女王が倒れ、雪がやんで、みるみる解けていった。推理が当たった!私たちが勝ったのだ!

 カラスと弟?が駆け寄ってくる。よく見ると弟は、桐さんだった。

 「よくやったじゃないか。」

 「え、へへへへへ」

 疲れすぎてはっきりしない、声だけ聞こえる感じだ。

 だが、次に見たものが私の意識をなおさら遠のかせた。

 倒れた女王の方を向くと、そこには割れた女王の仮面から凛子さんの顔がのぞいていた。

 私は、これまで殴っていたのが凛子さんだと気づき、罪悪感を感じて気絶してしまったのだった。 

 こうして私の入部試験は幕を閉じた。


 鹿ノ子さんが気絶した後、僕たちは彼女を抱えて現実の世界に戻ってきた。

 意識を取り戻した鹿ノ子さんには、絵本部の事情を隅から隅まで話した。

 入部試験では、ナビが僕、弟役が桐さん、女王は凛子さん、ほかは物語の人だと言うネタバラシも。そして彼女も心の内を話してくれた。

 「試験を通して、格闘技がちょっと面白く感じました。考えながら、強敵と闘うって楽しいんだなって」と鹿ノ子さん。

 「やっぱり、格闘技はあんたにとって大切なんだな。捨てちゃいけないよ。闘ってた時イキイキしてたし」と桐さん。少々照れ気味だ。

 僕はとてもいい試験ができたなと感じていた。

 もちろん、結果は合格。彼女も晴れて入部することとなった。

 ・・・しかし、鹿ノ子さんと桐さんの間のわだかまりが解けることはなかった。


 「雪の女王」の絵本の中から、古い写真が出てきた。そこに写っていたのは髪で目が隠れている男性と、その人の肩に乗るコウモリ。彼らの正体はいかに・・・。



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