第17話 始まりの終わり、終わりの始まり
「部長、気を確かに!」
モヤが入ってすぐに、パタリと倒れた部長に必死にかけよる絵本部員。病院に運ぶにも、祓うにも、到底無理な状況だった。
みんながパニックに陥りはじめた時、部長の体がムクッと起き上がった。僕達は、部長が無事だったのかと安心しようとしていたが、目の前にいるのは黒い眼球の部長だった。鬼に取り憑かれてる…!?
「クク…人間の中で生活するのも悪くはないかな…さて、こいつの記憶を探って帰れる方法を…」鬼がそう言いかけた時、鬼の目から雫がボロボロとこぼれてきた。僕達は突然泣き始めた鬼に唖然としていた。
「…泣いてる?なんでオレが人間のために泣かなくちゃならないんだ!でも、こいつの気持ちがわかる…」泣き崩れる鬼。
僕は、剣に気づき、それを掴むと「部長!ごめんなさい!」と半ば、叫びながら部長の胸に剣を突き刺した。鬼の本体と比べると、いとも簡単に刺さった。
刺した剣は刺さりきると消え、部長の体から血は出なかった。黒い目から毒素のような黒モヤは消え、またパタリと倒れた。口からは、ひょろろ~と人魂が出てきた。
部長もすぐ目を覚ました。
僕達は安堵のあまり、部長を抱きしめていた。
その後、鬼のものと思われる人魂に話を聞いた。
鬼は何故鬼自身が今荒れているのかを話してくれた。
「エホンの中で渦に入ったオレと青鬼は、どうやってオレ達の住んでた場所に帰るか、まず帰るのかで口論になった。その最中、様子を見ようと考えていた青鬼に対し、オレはオレだけでも帰る!と言ってしまった。青鬼は怒ってどこか遠くに行った。オレは自分勝手だけど、青鬼と一緒に帰りたいし、謝りたい。どうしても見つけたいんだ」
それを聞いた僕ら絵本部員は、彼の気持ちを受け止めようと決めた。
しかし、桐さんは腕前の「でも俺は嫌だ」攻撃を鬼に見せつけた。
鬼は、逆に桐さんを気に入ってしまい、桐さんに憑依し、絵本部に住み着くと決意してしまった。
僕達は苦笑いしながら、鬼の青鬼探しに協力することにした。
話によると、桐さんは鬼自身になることが可能になったらしく、好きな時に鬼の力を借りれるようになったとさ。
しかし、気になるのは部長の過去だ。鬼は記憶と言っていたけど、鬼も泣きたくなるような記憶が部長にはあるのか、と思うと僕はどうもソワソワした。また、その日の夜、部長は僕達が帰ってもなお路地裏で夜空を眺めていて、なにかの予兆なのではと不安になった。
数日後、部長以外の絵本部員は部長に掃除を命じられて部室に集まった。春休みだというのに、なにをそんなに焦っているのかと考えながら部室に入ると、テーブルに置き手紙とお菓子が置いてあった。
また挑戦状か、と半分冗談ながらに呟きながら3人で手紙を読むと、挑戦状よりも驚くことが書いてあった。
なんと、部長は町から出て行くから長い間会えないという内容だった。しっかり部長の字で「探さないでくれ」と書いてあった。
お菓子については部長はこう書いていた。
「自分の能力である『絵本の中に入る』能力を継がせるために『ヘンゼルとグレーテル』の魔女に魔法の菓子を作らせた。凛子が食べて、俺の能力を継いでくれ」
僕達にとっては、部長がどこか行ってしまうことがショックだった。しかし部長のある一文ですぐ立ち直れた。
「俺の後を継ぐ次の部長は、空だ。来年になれば部員も増えるだろう。またいつか会える時を待ってるよ」
僕達は、いつか部長が帰ってくることを信じて、部室の掃除を始めた。
掃除中、ある資料の中から、絵本の中で行う大事な会議への招待券を見つけた。それも開催日は現実世界では春あたりだ。僕は、これからに胸を躍らせた。