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絵本の中へ  作者: ジパング大柴
第6章 泣いた赤鬼
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第15話 不穏な気配

 冬。山原市内で謎の商店荒らしが相次いでいた。経営者らは困り果て、住民は原因追求を求めた。市はこれを“野犬の仕業”とし、商店荒らしを潰そうと努めた。

 しかし、相手が鬼なら意味はなかった!


 最近は学内での宣伝だけでなく、学園祭の企画、学外活動(部長が裏で宣伝しているらしい)の影響でよく知られるようになった絵本部。

 部長がいつか、絵本部ってなんですか?と冷やかし程度で部室に来たらしい生徒に聞かれた時、「基本、なんでも屋だよ。絵本部なんて名前、ほとんど適当さ」と言ってしまったおかげで“なんでも屋”として有名になった。

 すっかり卒業シーズンに入った山原高校は、寂しさに包まれていた。大好きな先輩がいなくなる、自分達が数年間通った学校を離れる、学年関係なくどこか寂しげだった。  

 それは僕も例外ではなく、現に今涼しげな空が写る窓を見て昨日のことを思い出していた。  

 「部長は卒業後、どこに行くんですか?」と僕は湯呑みを口に持っていきながら、質問した。

 放課後、絵本部員達は部室に集まって談笑しながら絵本を読み漁るか、依頼を受けていた。

 「行くアテなんかないさ」と部長。

 えっ!と絵本を熱心に読み漁っていた凛子さんは、意外そうに顔を見上げて声を漏らした。

 「いや、嘘だよ」と部長は言葉を続けた。「

 「やることは決まってるさ。ただ、やることに見合う場所がないから、卒業後も当分は絵本部に通わせてもらうよ」

 「てっきり、大学にでもいくのかと思ってたぜ!」と桐さん。その言葉を聞くと部長は苦笑いしながら言った。

「いや、大学に行くなら絵本部なんか普通開かないよ」

 僕は昨日交わしたこの会話が、どうも気になっていた。部長と話していると、この人はいつまでも居座りそうな気しかしないけど“やりたい事”に見合う場所ができたら、すぐにでもそこに行くのだろうか?部長のやりたい事が気になっていた。

 ボーッとしていると、バシッと紙で机を叩かれる音がした。苦笑いしながら横目で右斜めに見上げると、先生が目の前に立っていた。

 「教科書の50ページの12行目から25行まで読みなさい」

 周りからドッと笑いが湧いた。 ハイッと立ち上がり、僕はカタコトに教科書を読み上げ、また笑いを取ってしまった。先生はイライラしているご様子。席の端でボーッとしていても気付かれず飛ばされてしまっていた昔と比べ、僕は心の中で笑みを浮かべていた。


 学校のチャイムが鳴り、みんなドーッと一斉に教室から出て行った。僕と凛子さんは同じクラスなので、毎日一緒に足を揃えて部室へと向かっていた。凛子さんも、全然学校に来ていなかったのに、絵本部に通い始めて学校に来る様になった。凛子さんはかつていじめていた女子になるべく咎められない様に努力しながら学校に通っていた。

 「今日、たまたま部室がある廊下を通ったら、木村くんがいたんだよね」

 「木村くん?」

 木村一誠。名前に似合わず、学内では有名ないじめっ子体質の不良。そういえば、前に助けたクラスメイトをいじめて奴だった様な…そこらへんは忘れてしまった。

 「木村くん、最近おとなしいよね!一時期からまあまあおとなしくなり始めたけど、最近は特に!」と、凛子さん。

 「確かに時々見かけた校舎裏にも最近は見かけないなあ」僕は、木村くんが最近特におとなしくなった事をかなり奇妙に感じていた。彼が口を開くところも最近は全く見ないし、時折ブツブツ独りで喋っているし…

 2人で話しながら部室がある旧校舎の廊下に入り、部室のドアノブを握って、その手をひねろうとした時だった。 

 「大変だーーッ!」丁度同じタイミングで、部員の桐さんがドアを開けてきた。僕はその勢いのあまり、避けきれなくてドアと正面衝突して挟まった。ドターン、と廊下に轟く音が余計に体に響いた。ドアに触れない程度に後ろにいた凛子さんは、挟まっている僕よりも桐さんの焦りを大事と見たのか、彼に問いかけた。

 「何かあったんですか?」「挑戦状が届いた!2人とも早く中に入れ!」

 凛子さんは小走りで、僕はフラフラと部室に入った。部室では、部長が椅子に座りヒラヒラした紙を読んでいた。「挑戦状っていうのはどこに…?」僕が尋ねると、部長は持っていた紙を差し出してきた。その表情は、どこか思い当たりはないかと必死に考えている様に感じ取れた。僕は部長の顔を横目で見つつ、挑戦状に目を通した。

 挑戦状には、破滅的に汚い、というより筆でグチャグチャに書かれた決闘という字と共に、驚くべき内容が書かれていた。

 「決闘

 おまえらのすむ むらを あらしに まいったものだ

 とめたければ しょうにんたちが あつまるむらのうらに

 つぎの まんげつのよるにこい 

こなければ おまえらがこまりはてるように あらしつづけてやろうぞ 鬼」

 僕は一発で最近の商店街荒らしを連想した。続けて、凛子さんにもそれを渡して読ませたが、やはりどこか察したらしい。

 「次の満月の日って…卒業式当日じゃないですか?」僕は言った。

 「卒業式の夜に、鬼を相手に現実で決闘だなんて…」と凛子さん。途中、部長が口を挟むように言った。

 「決まってるだろ。決闘を引き受ける」と部長はフン、と鼻から溜息を漏らした。

 「でも、引き受けるからには鬼をしっかり倒して、絵本に返さなくちゃいけないしな」

と久々の難問に唸る部長。

 その日はずっと僕達も一緒に唸りながらみんなで考えた。僕の「絵本の中の道具を呼び出す」能力も、とことんピンチにならないと意味がないし…

 しかし、帰り際まで悩んでも、なかなか良い案を出せなかった。もう帰りのチャイムが鳴る頃、僕は投げやりに言った。

 「豆をぽいっと投げて、そんで、あーれーおたすけー、っと事が済めばいいのに」

 その瞬間、ひたすら閉じていた部長の目がパチッと開いた。部長はこっちを向いて、指を指して言った。

 「豆と酒と笑い、これだ!」


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