第12話 凛子との出会い
休日。心地よい夢を見ていた僕の耳に電撃のような電話の通知音が走る。慌てて電話を取ると部長の声がする。「空、今日は野外活動だ。9時に学校近くのみんなの森公園に集合な」
「遅いぞ、空!」キキーッと猛スピードの状態で自転車を急ブレーキ。自転車と共に自分の身体も軋む感覚がした。「なんのギャグ漫画ですか!!10分内に支度済みで公園に着いてろなんて無茶過ぎやしませんか!」と僕。
「なんならパジャマで来ても良かったんじゃないのか?」ゲラゲラと笑いながら桐さんは言う。
今なら僕達が住む山原市を火の海にできるのではと思うくらいムカついた。
「それはさておき、今回の野外活動は“公園近くの空き家清掃作戦”だ」と部長。
「なんですかそれ?」野外活動って言われてもピンと来なかった僕は、部室に置くガラクタの家具拾いでもするのかと勘違いしていた。清掃作戦、なんてやけにかっこいい名前が出てきて驚いた。
「先日、生徒会から公園近くのゴミ屋敷の空き家を掃除してくれと頼まれた。一回断ったんだが、町おこしの名の下に学外活動の許可も下ろそうと言われて」
部長は平然と話していたが、僕と桐さんは微妙な心境になった。いいのか生徒会…そんな大事を交渉に出して、いいのか生徒会…。
「清掃道具は揃えた。今から清掃する空き家の前に用意してある。早速行こう」
僕達は、公園に置いた自転車を後に空き家へと向かった。
数分歩くと僕達は清掃をする予定の空き家前に着いた。位置的には、僕らが通う山原高校(通称 “山高”)からはそう遠くはなかった。
「じゃあ今から着替えて、掃除しよう」
僕達3人は、部長が用意した清掃服に着替え掃除道具を持って清掃に取り掛かった。
我を忘れて掃除していた。もう夕方か。一応、昼は近くのファミレスで凌いだ。
ゴミ屋敷の空き家の中なんてゴミの山を想像していたが、その空き家は大量の重なる書物、新聞が中心に埋め尽くされていた。ゴミもだいぶ出てきたが、書物や新聞の方が圧倒的に多かった。気が遠くなるほどのものだったが、重なる書物の中で昔好きだった漫画や本が出てきそうだという期待をモチベーションに、猛掃除した。
「ふ~っ、そろそろ帰るか」部長は背伸びしながら唸る。段々書物や新聞が無くなって、全体的にスッキリした気がした。
「ん?なんかよく見るときちんとした部屋みたいですね」
「!もう少し掃除するか」
なにか気付いたように部長がまた掃除を再開し始める。僕と桐さんも合わせて書物や新聞やゴミを掃除していく。少しすると僕達はこの空き家は「大量の書物や新聞で隠れただけのちゃんと誰かが住んでた家」と気づく。
突然、僕の後ろにあった、まだ整理してない本の山がズサっと崩れた。「「「!?」」」
あまりにいきなりだったので、僕達3人は一斉にそっちに向いた。なにかのシルエットが見える。
「いてて…!誰ですかあなた達!」頭を抑えていた女の子は、僕達に気付き、焦り、冷や汗を垂らした。
「山高の絵本部だ。この空き家が通学の問題になっていたから、清掃しにきた。変なことはしてないし、しない。もう十二分に綺麗になったから、俺たちは帰るよ」
部長があまりに驚いたのか、いつも以上に冷静に答える。
「え!そうなんですか。この度はすみませんでした…」ぺこりとお辞儀をする女の子。
いやいや、それでもつっこむべきではと個人的に思った。その子は、ツギハギのワンピースに、花の髪留めをしていた。
「いやいや、謝らなくていいよ。そういえば大量の書物は本棚に大体並べておいたよ。失礼ながら、人が住んでるとは思ってなかったから僕達も今から帰るよ」
玄関に向かい、靴を履いて帰りの準備をする絵本部3人。女の子は何故か興味津々な顔をして玄関で言った。
「さっき、絵本部って言いましたよね?私も山高の生徒で…学園祭の絵本部の企画、見に行きました!感動しました」
3人で一斉に振り向く。まさか感動する人がいるとは!
「そうなのか!君も山高なんだね!」僕も興味津々な顔で言葉を返す。
「えっと…でも…私…ほとんど学校に行ってないんです。クラスメイトが私の事あまり好きじゃないらしくて。学校にも行きづらくて…」と顔を伏せる女の子。
互いに少し沈黙したが、僕はなんとか言葉を返した。
「じゃあ、絵本部の部室に来てよ!誰もいないし、窓からの裏道からなら人通りの少ない道から帰れるよ!」
女の子は伏せた顔を上げて、パァッと花開くごとく嬉しそうな表情をした。
「いいんですか!」
頷く僕達3人。僕は最後に質問した。
「僕は高校一年生の多田野空!君は?」
「私は高校一年生の、藍原凛子!」