第11話 金太郎の力
「のこった!」
第3回戦、僕は猿と戦っていた。
猿は純粋な力勝負で挑んできた。ありとあらゆる力の入れ方で押してきて、初戦や二回戦目と比べると苦戦していた。
また、力を瞬間的に抜いて凌ぐか?
相手になにか対策を練られていそうな気がして、押し合いながら悩んでいると、奥の森からドォンと音がした。
「!?」
客と茂みの動物から、動揺の声が聞こえる。
桐さんも調子が狂ったと顔に書いてあるような表情をする。
僕と猿は構わず押し合っていた。
すると、ドドドドドドと恐ろしい速さで黒いなにかが切り株に向かい走ってきて、その手で猿をなぎ払ってしまった。僕の目の前には、有馬委員をつかんだ気の荒そうな巨大な熊がいた。 「有馬さん…!」
有馬委員は気絶しているらしい。泡を吹いてボロボロだが、気は確か…なことを願った。
「おまえ…金太郎か。山から食料探しに降りたついでだ。俺と相撲をしろ。おまえが勝てば今つかんでるヤツを返す。俺が勝てば冬眠中には全員俺の腹の中だ。」
ビクゥッと体が激しく反応するが、状況が状況である。僕はキッと熊と目を合わし
「もちろんだ!」と強気なのか弱気なのかわからない返事を返した。
熊はニヤッと笑い切り株で腰を落として拳をつく。
桐さんは一瞬動揺を見せるが、ニッと笑いながら怯える客や茂みの動物に声をかける。
「なんと!最終戦は巨漢の熊と勝負!冬眠中の食料を求めているだけに気がたっているらしい!」
僕も慌てて腰を落として地面に拳をつく。
「金太郎頑張れ!それでは最終戦、はっけよーい」
「のこった!」
僕と熊の手がぶつかり合う。体で押し合うには不利と判断した僕は咄嗟に手で一瞬を凌ぐことにした。
「ふぐぎぐぐ……!!!!」
熊に押される。一瞬でも気を抜いたら20mくらい吹っ飛ばされそうだ。どうしたらいい?どうしたらいい?
悩み果てていると、客や茂みから応援がきこえてくる。そんな応援の声に励まされるかの様に急に力が入る。
「?!」
熊が少しずつ押される。熊もそれに負けじと力を入れるが押されるままである。
「ァアァァァアァァァアァァァーッ!!!!」
雄叫びをあげながら全力を出した熊。瞬間、僕は力という力を抜きドアが開く様にスッと体を斜めにした。
熊は、それこそ力のあまり20m吹っ飛んだ。
客や茂みから歓声が上がる。僕は熊に勝ったのだ!
茂みから部長が出てくる。
「皆さん!ゲームは終了です!装置をかぶったまま、ここから出てください!」
客は装置をかぶり、黒い渦に体をまかす様に入る。
僕はバッと着替え、有馬委員を抱えて桐さんと黒い渦に入った。
学園祭が終了した。
客は大繁盛、1人500円で5000円を目指していたはずがなんと25000円も稼いでしまった。
絵本から出た後、気絶した有馬委員は一旦保健室へと運んだ。学園祭終了後、片付けの時間だったが片付けなんてする必要も少なく、代わりに絵本部は保健室へとお見舞いしにいった。
有馬委員は、僕らが来る数十分前に起きたらしく、浮かない顔をしていた。
気絶させたおわびに、部長が蒲焼き風の駄菓子(有馬委員の好物らしい)をプレゼントした。有馬委員は蒲焼き風の駄菓子をバシッとわし掴み、ムシャムシャ食いながら言った。
「なにが起こったか、わびられるような記憶はない。まあ…今回は廃部の件、許してやろう。いかにも5000円は突破してそうだ」
絵本部全員がこの言葉に安心しかけたのが甘かった。
「だが、これからマークしないとは言っていない。僕を保健室へ運ぶ様な事をしていたのならなおさらだ。今回は許すが、今後許すかは絵本部の行動次第。せいぜい頑張るんだな」
僕らはもう少しで、近くの花瓶を手に取り、有馬の頭をかち割るところだった。皆がそんな気持ちになったのは初めてだったから、絵本部3人の心が通じ合ったといっていいと思う。