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絵本の中へ  作者: ジパング大柴
第4話 貧弱な金太郎
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第10話 貧弱な金太郎

 学園祭当日。

 クラスごとの企画、部活ごとの企画と、屋台や教室を使った店がめじろおしだった。

 学校には人で溢れかえっていた。地域で唯一の高校なだけに町の色んな人が来ていた。

 もちろん僕や部長、桐さんも企画を立て店を開いていた。そしてもちろん有馬委員もだ。

 「なんだこの列…」

 下敷き板を抱えた有馬委員は、予想もしていなかった”大行列”に並んでいた。

 もちろん、生徒会委員は調査の名の下なら列を越して店に入る事は出来るのだがどうもプライドが許さない様だ。

 「にしても、この企画書…絵本を使った、バーチャルリアリティ体験?」

 有馬委員は首を傾げながら絵本部の企画書を読んでいる。

 一方僕達は部室で接客や案内をしていた。

 「次も5人くらいですか?」

 僕達絵本部は、先日に有馬委員が部室から去った後、機械部からいらない部品を貰って色々工夫を重ねて話題の“バーチャルリアリティ”に真似た、ただのガラクタを作り上げた。絵本部の企画は、客にそのガラクタをかぶってもらいゲームだと思わせながら部長の能力で本物の絵本の世界に招いて絵本の世界を体験させるという物だ。もちろん、バレない様に

 企画書はゲームで通してある。

 「そうだな。おっ、有馬委員も入ってるぞ」

 「OKです。部長、いれますよ」

 ドアを開き、有馬委員含む5人の客が部室へ入る。

 「案内役の桐です。まず、椅子に腰掛けてもらい、装置をかぶってください」と桐さんは装置をかぶりながら説明する。

 客は目の前の椅子に腰掛け、バーチャルリアリティの装置をかぶる。僕や部長も装置をかぶり始める。

 「これからゲームを始めます。内容は、金太郎の世界で野生の相撲ショー!一体金太郎はどんな相手と戦うのか、乞うご期待です!」

 客は話を聞きながらもざわついてる様子。思っていたバーチャルリアリティの装置と違う、随分軽い、スタッフ全員装置をかぶる必要があるのか、と聞こえてくる。そんなザワつきに答える様に桐さんが話す。

 「なお、絵本部は機械部による新ソフトなどでなるべく新しい機能を取り入れています。スタッフやお客様全員も投影されます」

 バーチャルリアリティを知り尽くしている人ならまたザワつきそうだが、桐さんのナイスフォローで今回はザワつきが止んだ。

 「では、絵本の中へ!」

 その瞬間、部室が眩しい光で包まれた。


 「ゲームが始まりました!」

 笑顔で話す桐さん。

 客は気づいていないが、本当の絵本の中へ入った。僕達はでかくて丁度相撲にぴったりな切り株の前に立っていた。

 客は唖然としている。

 「流石バーチャルリアリティ…こんなにリアルなのか!」

 「ゲーム内で装置を一旦脱いでください!」

 「え?脱ぐ?」

 困惑する客。

 「大丈夫です!新ソフトのバーチャルリアリティは本当にゲーム内で脱いで、行動できる感覚になります」

 客は不思議な感覚を感じる顔をしながら装置を脱ぐ。


 「早速、相撲を始めます!」

 どこかからかデデンと音がなり、金太郎が切り株に上がる。

 桐さんが声を上げる

 「金太郎の登場です!」

 いや、なんというか、その金太郎っていうのは“僕”なのだが。

 ダブダブのズボンを履いた上、裸の開き直った僕は、貧弱な体を堂々と客にみせつけた。客は、またもや唖然としていた。今度はこいつが金太郎?みたいな顔をしていたが、次第に無理やり理解した顔になっていった。

 「初戦の相手は、タヌキだー!」

 自分とは反対の方面の茂みから、やる気満々そうなタヌキが出てきた。何人の客を相手にしても緊張はほどけない。なんだか、タヌキにも勝てる気がしない。

 部長は、肝心の僕の相手となる動物を探している。相撲は一匹一回勝負、計4匹くらいで現実に帰る予定になっている。

 さっき、部長は「確かに空は金太郎にしては貧弱だが、ここは絵本の世界。いざとなったら力が湧き出てくる」と言って茂みに入っていった。本当か嘘かはわからないが信じるしかなかった。

 「それでは、はっけよーい」と桐さんが扇を下ろす。僕とタヌキも腰を落として地面に拳をつける。

 「のこった!」

 ガッ、と僕とタヌキが押し合う。

 タヌキは一生懸命に僕を押し負かそうと踏ん張っているが、僕は全力で押した瞬間力を抜き、スッと体を少し斜めに傾けた。

 タヌキは力のあまり、絵本さながらにすってんころりんと切り株から落ちてしまった。

 すると、客や茂みの中にいるらしき動物から歓声が上がる。ちょっと卑怯かと罪悪感が湧いたが、勝ったことは純粋に嬉しかった。

 「金太郎初戦勝利!見事な力の抜けにタヌキも参った!」

 桐さんがはやし立てる。僕は心の中で舞い上がっていたが絵本の中だ、と自分に言い聞かせた。

 「次の相手は狐だ!」

 茂みから狐が出てくる。タヌキよりも小さく、可愛い。これも楽に勝てそうだなと思った。

 「早速二回戦目、はっけよーい、のこった!」

 僕と狐が押し合う。なんと、狐が浮いているかのごとく押してくるような感覚がした。楽勝と思い、目を見開くと目の前には落書きされた丸太が見えた。

 「!?」 しまった!丸太とすり替えられた!

 僕は後ろに振り向き、ガッと狐を押す。

 どこからか持ってきた丸太とすり替わり、狐は後ろに回っていたのだ。

 狐は油断していたのか、動揺しながら僕と渡り合う。可愛いくせしてタヌキより力が強い!

 だが、十数秒押すと、狐はギャフンと切り株から落ちた。客や茂みの中にいる動物から歓声が上がる。

 「金太郎、二戦目も勝利!」

 桐さんがはやし立てる。今回もなんとかギリギリ勝ち上がれそうだ、と僕はホッとしていた。

 そういえば、さっきまでいた有馬委員が居ないような気がするが気のせいかな?

 一方その頃、茂みの先の森の中。

 有馬委員はチェックシートで絵本部の企画の完成度を調べて居た。

 「バーチャルリアリティ…まるで現実だ。感覚までする…悔しいが、完成度が高いな」だけど…と色々と分析しながら森を進む。

 歩いていると、ドフッとなにかにあたる感覚がした。

 「ん?」有馬委員は不思議そうに上を見上げるとあまりの恐怖で顔が固まった。

 息を荒くした、山から降りたばかりの巨大な熊がいたからだ。


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