第1話 どうせ、ただの空
書き溜めていた小説です。結構量があるので、一日に五話ずつアップしていこうと思います。
今日もクラスの端っこの席に座っている暗い僕がいた。
僕は多田野空。周り一体が畑しかない様な、高校に通う一年生。髪はショート、服は漢字Tシャツが好きだ(なぜ親にダサいと言われるのか最近悩んでいるがよくわからない)。
成績は可も不可もなく、特にといった特技や趣味も無い、強いていえば読書ぐらいだ。性格はめんどくさがり屋と自覚している。
そしてなんといっても僕は・・・「影が薄すぎる」
小学校、中学校合わせての9年間、授業中に手を指されたのはたった"6回"。部活も一通り体験してみたものの、スポーツ系は顔にボールが飛んでくるし、演劇部や音楽系なども裏方しか頼まれなかった。幼稚園生や小学生の頃は、デパートの迷子センターの中に誰にも気づかれずに入り込んで、遊んでいたくらいだ。友達はもちろん居ない。
そしてある日気付いたのだ。
これまで僕はこの体質に、色々な事を邪魔された経験もあるが、救われたことも少なからずある。いじめの現場に居合わせても、バレなかったり、宿題をやってこなかったことがバレなかったり・・・便利なこともある。
”多田野空の人生”ってのは「どこかにいる主人公のために、脇役として捧げるものだ」と。しかし、16歳早々で自分は脇役だと人生を諦めきれず…
最近出来たばかりの「絵本部」の部室前に、いつの間にか立っていた。
「この部活、どんな事するんだろ・・・。」
中学の頃から病気の様に、部活巡りが趣味になっていた。伝統ある部活から、まだ誰も知らないごく最近できた部活の情報を手に入れては、体験させてもらったり、見学させてもらったりしていた。
今でもそれは続いていて、クラスメイトの部活の話などに耳を立てて情報収集している。もはや趣味とは言えないレベルだ。(よく考えれば普通、趣味とも言わないが)
「まずはドアを叩いてみよう・・・」
緊張して手だけ岩になった様に思えたが、勇気を振り絞ってドアを コンコン と叩いてみた。
「・・・。」
返事がない…不在なのかな?いや、最近できた部活だからもしかして、色んな事で忙しいのかな?だとしたら、申し訳ないな・・・帰ろうかな・・・。
僕が必死に応答がない理由を考えている所に、ある男が後ろから声をかけてきた
「よっ!!」
「どっわぁあぁああぁああ!?」
ある男の挨拶の声が、廊下内を電気の様に走った。声をかけられたと同時に、僕も緊張していたからか、同じくらいの声を張り上げてしまった。耳の中が、色んな音でめちゃくちゃになる。
「ごめんごめん!大丈夫かい?」
男に、声をかけられてやっと混乱が解けた。目の前にはボサボサで、緩そうな顔をした男がいた。身長的には・・・年上?先輩か・・・もしかして部員、じゃないよね?
ぼーっとしながら、まだそんな事を考えている中、その人の口から意外な言葉が出てきた。
「君、さっき部室前にいたけど、この部活に興味あるの?俺、その部活の部長なんだけど・・・。」
。
「今からちょっと試験的なのやるから待ってね。」
「あっ、はい。」
あの後、僕は部長の質問に「はい」と答えた。すると部長は休んでいきなよと部室に入れてくれた。そして、今から入部試験的な何かをするらしいのだ。
「しかし、綺麗ですね部室。値がはりそうなイスや机、まだ塗りたてみたいな壁・・・。」
「ハハハ、去年まではここ事務室だったんだよね。それでまあ、部室貰う時に事務室のお古の家具貰ったりしちゃって!」
すごい!お古の家具まで貰ったとは…事務の人もよく許してくれたものだ。
「そうだ!自己紹介しないとだね。」
と、部長は机に積み重ねてあった紙をいじりながら言う。
「俺は、あかしま かい(赤島開) だ。高校3年生、絵本部の部長!カイさんとか呼んでくれ。趣味は菓子をたらふく食べることと、パズルとか!」
かい…あかしまかい!まるで寒いダジャレみたいだ…考えついた自分に絶望しか感じない。
それにしても、菓子をたらふく食べることが趣味とは意外だ。結構痩せてるほうだ。細マッチョ?細?そんなくだらない事を考えていると
「じゃあ、試験始めるね。」
完全にムードを無視して試験が始まっていた。
「名前は?」
「あっ、多田野空です。」
「趣味は?」
「強いていえば読書くらい・・・。」
「なんで部活に入ろうと?」
「・・・。」
少し沈黙してしまった。ただ趣味みたいに部活巡りにきたなんて、あんまり言えない。気まず過ぎる!でも、ここでなら自分は変われるかなと思って来た訳だし…よし。
ちょっともごもごしてたが、僕は少し笑いながら言った。
「ここでなら、僕、変われるかなって・・・これまで自分、影が薄くて脇役しかできないのかなって思ってきたから、色々活動して変わっていけたらって!」
うっ、俯いてたから印象悪いかもしれないな。
「落部だな」
笑顔でコクコクと、うなずきながら信じられ無いことを言う部長。
「えっ・・・!」
落部決定には早すぎる!まだ十数秒しか経ってないぞ!?それに結構良いことを言った後に、続いてまた部長は信じられないことを言ってきた。
「俺、生半可なやつ嫌いなんだよね」
「僕のどこが生半可なんですか、まだ会って間もないくせして!」
「変われるかなって思っちゃうとこ」
もはや気持ちいいくらいの即答だった。バサッと真っ二つに切られたような。
部長は髪を掻きながらつまらなそうに話した。
「君が一体なにを感じてきたのか、して、されてきたのかよくわからないけど、そんな勝手に事は“変わってくれる季語”じゃないぜ?あくまで変えていくもんなんだから、なおさら自分となると、ね?そんな生半可な覚悟でこの部活に入らないで欲しい。というわけで!」
部長は机に積み重ねてあった紙に挟んであった新聞紙を丸めて軽く振りながら棒読みで、「帰れ帰れ」と言い始めた。
なんだ急に。僕は絶句してしまった。
「言われなくとも帰りますよ!」バッグを持って、思い切りドアを開いて帰ろうとした。とてつもない怒りがこみ上げてくるが、怒りなんてすぐに消えて、図星と情けなさから自分を責めた。
「自分って"なにもしようとしてないだけ"なんじゃないのか…」
後ろで野次を投げる部長の声が聞こえる。涙が出そうになったけど我慢して、走って帰ろうとした時だった。
誰かが、僕を思い切り引っ張ってきた。
「え?」
誰かと思ったら、部長だった。
「なにしてるんですか!離してくださいよ!」
そのまま部室に入らせられる。なにかされるのか自分?だけどこの後本当に僕は、人がなかなか経験したことのないようなことを体験してしまう。
部長は机に置いてあった”赤ずきん”の絵本を手に取って1P目を開いて、僕の目の前にフンと置いた。
「なんですかこれ!?馬鹿にでもし」僕は絵本を見ながら言おうとしたが、なんと絵本が段々でかくなっていく。なんだこれ!?
部長の方に視線を送ると、部長は手を合わせていた。まるで何かを呼び出すように・・・。
部長は笑顔で僕を見ながら言った。
「特別に、入部のチャンスをあげるよ。」
次の瞬間、いつの間にか部室は広大な森へと大変身した。
絵本の中へ、どうぞよろしくお願いします。