7.どうして私がその『クラスメートA』になっちゃうの?
学校に登校してから、朝のHRが始まるまでの時間、俺は『マスカレード・クラス』の最後の「解説」を読み進めていた。『マスカレード・クラス』を読み終わった。引き込まれて一気に読みたかったが、最近は、夜一時間はスマフォでゲームをしているから、読むのに時間がかかった。
「おはよう。昨日は楽しかったね!」と古宮が話しかけてきた。
「昨日」というのは、昨日の夜の22時から23時の一時間、古宮とスマフォのオンラインゲーム、『レジェンド・オブ・ソーズ』で遊んだからだ。
日比谷を中心として、このクラスでこのゲームをやっているメンバーは、大体、お風呂や宿題を終わらせた夜22時ぐらいから寝る前まで遊んでいるらしい。
このゲームの初心者同士、古宮と俺はチームを組んで遊ぶ割合が高い。レベルの高い奴等と一緒に遊んでも、俺や古宮が攻撃をする前にさっさとモンスターを倒してしまって、面白みが減ってしまうからだ。なんだかんだ、俺がレベル12、小宮がレベル15になった。
「おはよう。昨日はギリギリのクリアだったな」と俺は本から顔を上げて古宮に言う。古宮の顔が、山頂から顔を出した太陽のように明るくなった。
「本当に昨日はショータ君に助けられたよ。危うく死んで、街からやり直しになるところだったんだ〜」と古宮は昨日のクエストのことを嬉しそうに話している。
「古宮は草食系だけど、『HARUKA』は肉食系だよなぁ」と俺は冗談を言った。ゲームで古宮は、『HARUKA』というキャラクター名で遊んでいる。古宮は吹奏楽部で温和しい奴だと思っていたが、ゲームの中ではかなりアグレッシブで、モンスターの群れの中に突っ込んでいく。お陰で、俺は古宮が死なないようにサポート役に徹せねばならないのだが、それはそれで楽しい。
「あっ。ショータ君も、『古宮』じゃなくて、『はるか』って呼んで欲しいかな。そっちの方が呼ばれ慣れているし」
どうして『HARUKA』というキャラクター名にしたかというと、彼女のフルネームが『古宮春香』だからだそうだ。
「考えておくよ」と俺は答える。ゲームでは別に良いのだが、リアルで名前を呼び捨てというのは馴れ馴れしい気がする。
「えぇ〜。でも、そうしたらちゃんと私の名前を覚えるでしょ? そうだ、みんな聞いてよ。ショータ君、私の名前、ゲームするまで知らなかったんだよ〜」と、頬を膨らましながら古宮が話している。古宮はもう怒ってはいないようだ。
みんなから笑われてしまった。だが、自業自得かも知れない。先日、ゲーム内のチャットで、どうして『HARUKA』という名前なのか? と興味本位で聞いてしまったのだ。
『え? 名前だけど?』
『本名か?』
『え? そうだけど……? もしかして、私のフルネーム知らない? 同じクラスメートなのに? (  ̄っ ̄)ムゥ 』
というような、チャットをゲーム内でしてしまったのだ。
別に、俺のように『山田』という苗字がクラスに二人いるというわけではないのだから、「古宮」という苗字を憶えておけば十分だろうと思っていたら、古宮に怒られてしまった。
このゲームをしていても「クラスメートA」の正体を突き止められそうにもないのだが、このゲームも退屈ってわけではない。クラスで話をするメンバーも出き来たし、このクラスでの『レジェンド・オブ・ソーズ』のSNSにも参加することができ、SNSの「友達登録」も人数が増えた。
『今日は、3Pを100本入れるまで帰えらねぇ!!!』と俺はSNSにコメントする。
『ショータ君、頑張ってね!』と古宮。
『今日は22時からギルドでボス討伐だよ〜。もし良かったらショータ君も参加してみて〜』と日比谷。
『100本? いや、シュート2万本だ!』と藤堂からのコメントだ。
藤堂、シュート2万本って、スラムダンクの読み過ぎじゃないか? 一日で2万本は無理だ、と俺は心の中で藤堂のSNSのコメントに突っ込む。
最近は、俺のSNSのコメントにも『レジェンド・オブ・ソーズ』のクラスメート達がコメントをしてくれるようになった。少しだけ俺のSNSが賑やかになった。
つい数か月前まで、1ケ月に一度コメントが来るかこないかの過疎化した俺のSNSが嘘みたいだ。
そして、俺は宣言通り、3Pを100本入れ、ボールを片付け、床のモップをかけ直し、体育館の消灯をして、体育館の鍵を閉めているとき、俺のスマフォが鳴った。
『練習お疲れ様〜。『レジェソー』、本当に、私もやってみようかな』
「クラスメートA」からのコメントだった。相変わらず俺が練習を終わったタイミングでSNSにコメントしてくる。「クラスメートA」は、この学校の何処かに潜んでいるのは間違いない。校舎の明かりも職員室あたりしか相変わらずついていないし、この広い学校を、教室一つ一つ探し回っても無駄だ。
俺は少し思案する。「クラスメートA」を、『レジェソー』に引き込めば、俺は「クラスメートA」の尻尾を掴めるのではないか?
俺は、『やったらいいんじゃないか? 結構楽しいぞ』と文面を打った。だが、まだ送信ボタンを押していない。『レジェンド・オブ・ソーズ』のゲーム内で正体を突き止めるより、現実の世界で、やはり『「クラスメートA」はお前だ!』と名指しで言いたい。
それに、「クラスメートA」は、俺を挑発してきた。私を探し出してみろと。その挑戦を俺は一度受けた。
どうするか。「クラスメートA」に、『やったらいいんじゃないか? 結構楽しいぞ』とコメントするか?
俺は迷いながら職員室までの暗くなった廊下を歩く。まぁ、容疑者を絞る策も尽きたし、「クラスメートA」を『レジェンド・オブ・ソーズ』に誘い込んで正体を暴くという方法は最良の方法かも知れない。
って、また本を返すのを忘れる所だった。俺は鞄から『マスカレード・クラス』を取り出し、図書室の返却ポストへと入れようとする。
そういえば、昼休みに『レジェソー』のことをみんなで話ながら弁当を食べ、図書室に行くのを忘れていた。そろそろ最新作、『クラスメートXの献身』が返却される頃だろう。
また、別の奴に借りられたらまた待たなければならない。
おや? 図書室の照明もつけられている。とっくに図書室の閉館時間は過ぎているのに。俺は図書室の扉を開けてみる。鍵はかかっていない。図書室の灯りが廊下に漏れる。変だ。さっき、体育館の扉を閉める時には、職員室の灯りしかついていなかった……。いや、待て。図書室は職員室の隣だ。
それに、職員室はあんなに広かったか? 確か、職員室は教室3つ分の大きさだったはずだ。だが、体育館から見たとき……校舎の2階の3分の1は灯りがついていた。職員室だけならもっと灯りがついている教室は少ないはずだ。
もしかして、図書室はずっと俺が体育館で練習を終えた後も、灯りがついていた?
屋外で俺の自主練が終わるまで、体育館の近くで張り込みしているはずがない。それは実際に懐中電灯を持って体育館の裏や校庭を走り回って実際に調べた。
「クラスメートA」は、暗い教室で張り込みをしていると思っていたが、毎日、張り込みをしているって現実的ではない。
職員室に生徒が毎日、屯っているはずがないと思っていた。職員室は生徒にとって居心地が良い場所じゃないからな。
だが、図書室となると話は別だ? 誰か生徒がいるのか?
俺は、気付けば図書室の扉を開けていた。スリッパを脱いで図書室へと入る。
「すみません。もう閉館時間なんですが」と、図書室のカウンターに座っている生徒が言った。
カウンターに座って何かの作業をしていたのは、三鶴だった。間違いなく俺のクラスメートだ。少し驚いたような、そして困ったような顔をしている。
俺の直感が言っている。「三鶴が、『クラスメートA』だ」。
だが、いきなり「お前がクラスメートAだ」なんて言うのもおかしい。まだ、決定的な証拠が足りない。
揺さぶりをかけてみるか?
「あっ、同じクラスの三鶴さんだよね。実は、『クラスメートXの献身』って本を借りたくてさ。誰かが借りていたみたいなのだけど、返却されてないかなぁって」と俺は言った。
同じクラスではあるが、三鶴と話をしたのは今日が初めてだ。人のことを言えないのだが、三鶴は休み時間とかいつも本ばかり読んでいる地味な女だ。よく見れば可愛いのだが、いつも前髪をおろしている。深窓の令嬢タイプだ。閉館後の図書室にいるということは、図書委員なのだろう。
「あっ、それなら今日返却されていたよ」
「そうか。もう閉館しているしな。じゃあ、明日、朝一番で借りにくるわ。ありがとう」と俺は言って、図書室から出ようとする。
三鶴に、「お前がクラスメートAだ!」と事実を突きつけるには、まだ証拠不十分だ。
「あっ、待って。ショータ君。いま、貸出手続きするから。でも、今回だけね」
「助かる。あっ、ついでにこれも返却できる? 返却ポストに入れて置いていいけど」と俺は、『マスカレード・クラス』を三鶴に見せる。
「じゃあ、その返却手続きもするからちょっと待っていて」と三鶴は、返却期限日を捺すゴム印やら何かを引出から取り出してカウンターの上に置いた。
三鶴は、手際よく俺の借りていた『マスカレード・クラス』の最後のページを開き、返却印を押捺そうとしている。
「三鶴は、いつもこんな時間まで残っているのか?」
それとなく三鶴の様子を観察する。だが、カウンターを見ている三鶴の表情は読み取れない。
「図書の仕事って毎日あるからね。書架の整理とか結構時間がかかるんだぁ~」
「図書室から、体育館って良く見えるんだな」
「そうだね。まぁ、校庭とかも良く見えるけど」となんでもなさそうに三鶴は答える。
「クラスメートA」が、俺の自主練が終わった直後にSNSにコメント出来たトリック。
それは、体育館からの「音」ではなかった。「クラスメートA」が体育館の裏や、校庭にいないわけだ。
「クラスメートA」は、体育館から漏れる「光」を見ていた。
体育館の二階は観客席だし、採光の関係で窓が大きい。体育館から光は漏れるし、逆に、体育館の電気を消したことも、図書室から一目瞭然だ。
俺が練習を終え、体育館の電気を消したのを見て、三鶴はSNSを俺に送っていたのだろう。
「クラスメートA」のトリックも暴いた。
俺は、さり気なく、何気ないように三鶴に言う。
「なぁ、三鶴。お前が『クラスメートA』なんだろう?」
三鶴は、カウンターからふっと顔を上げる。そして俺を真っ直ぐに見る。だが、その三鶴の表情はまるで仮面舞踏会の仮面を付けているかのようだ。感情が読み取れない。
そして、「『クラスメートA』って?」と首を傾げている。
「しらばっくれても無駄だ。証拠はそろっているぞ」と、これまでの俺の推理を、三鶴にぶちまけた。
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「う~ん。えっと、SNSで、『ショータ君』って呼んだから、ショータ君の知り合いで、漢字テストで『眷属』っていうテストの内容を知っていたからCクラスの人であることは確実。そして、図書室からだと体育館の灯りが消えるのが見えて、それでショータ君の練習が終わった直後に、SNSを送っていた? ということだよね?」と三鶴が確認の意味を込めていった。
「そうだ」と俺は自信満々に答える。早く自白しろ、三鶴。そして、犯行の動機を喋るんだ。
「でも、ショータ君の話では、まだ容疑者がクラスに12人もいるんでしょ? 私もアリバイがないし、容疑者の一人だってことは分かったけど、別に、体育館の灯りが消えるのって、図書室からじゃなくても分かると思うけど? 学校の外からでも分かるよね? どうして私がその『クラスメートA』になっちゃうの? 容疑者の1人であることは認めるけどね」と三鶴は怒っているようだ。
まぁ、いきなり容疑者とか犯人扱いされたら誰だって怒るか……。
「それはだなぁ……」
俺の推理は、完全に三鶴に論破されてしまった。
「って、ヘボ探偵さん。図書貸出の印鑑は捺したから、本の裏表紙の表に自分の名前書いてね」と、三鶴は、『クラスメートXの献身』をカウンターの上に置いた。
借りた人が裏表紙の表に名前を書いて図書委員に貸出や返却印を捺してもらうのがこの学校のルールだ。それにしても、『ヘボ探偵』と言われるとは。相当、三鶴は怒っているようだ。
「あ、あぁ。時間取らせてすまなかったな……」と俺はカウンターの上のボールペンを取った。




