6.『レジェソー』始めるんだってね。
俺は、悶々とした日々を過ごしていた。クラスメートの中から、なかなかクラスメートAの容疑者を減らすことができていないからだ。
「この前の漢字テスト、梅内と高木が満点だった」と現国の土屋がテストを返しながら授業中に発表した。「クラスメートA」は、『「眷属」って漢字が書けなかった』と言っていた。
「クラスメートA」のテストの答案には空白が存在したことを示している。
つまり、「クラスメートA」は、漢字テストで満点を取ったわけではないということだ。だから、梅内と高木は容疑者から除外される。
容疑者残り37人。
そして、幸運にも雷を伴う雨が降った。基本的に、体育館で部活をするバスケットボール部やバトミントン部、バレー部などの運動部、そして文化部などには関係ないが、野球部やサッカー部、ソフトボール部など、屋外の部活動は雷が鳴れば部活は休みだ。
女子ソフトボール部の3人、坪山、村鳥、森近は、その日、駅前でクレープを食べたあと、カラオケに行ったということがSNSに写真付きで掲載されていた。
だが、「クラスメートA」は、その日も俺の自主練の終わりにタイミング良くコメントをしてきた。坪山、村鳥、森近の3人は、その時間、カラオケにいた。学校にいなかったというアリバイがある。だから容疑者から除外することができる。
同じような理由で容疑者から、野沢も外すことができる。野沢は陸上競技部だ。学年で一番の美少女と名高い。ポニーテールで100メートルを疾走する姿を見れば、男子の大体は目を奪われるだろう。スラッと長い足、整った顔……。いや、そんなことはどうでも良いのだ。
彼女も容疑者から外れた。正直残念だ。高嶺の花である彼女が、内緒で俺とSNSをしていたなんてことだったら、それって俺に気があるかも知れないってことではないか。いや、それは俺の妄想だ。とくかく、彼女も容疑者から外れた。
同じような手法を使って少しずつ、少しずつだが、容疑者を俺は減らしている。
そしてやっと、容疑者は残り12人だ。できれば、容疑者を一桁にまで減らしたい。だが、俺は、容疑者を減らすことができないでいる。俺のSNSの情報網だと、限界があるのだ。
だから、俺は、次の一手に踏み出した。
「なぁ、日比谷。お前がやっている『レジェンド・オブ・ソーズ』ってゲーム、俺もやってみたいんだが、どのキャラクターを選択したらいいんだ?」と俺は、このクラスのSNSの覇者の一人である日比谷に俺は昼休みに声をかけた。日比谷達は、スマフォ片手に、弁当を食べたりパンをかじりながら教室の真ん中に集まって、そのゲームをしている。男子も女子も構わずだ。
「ショータ君も始めるんだ。キャラクターというより、種族の選択かなぁ。どんなプレースタイルで遊びたいかによるとかな。剣で戦いたいって感じならヒューマンとかでも良いし。逆に、生産とかで武器やアイテムを作って他のキャラクターに販売したいっていうならドワーフがお勧めかな。あと、魔法で戦いたいならエルフがお勧めかなぁ」
日比谷は、SNSでこのクラスでのし上がっただけに、説明も上手だ。少し説明が長い気がするが……。とにかく、俺の目的は、『レジェンド・オブ・ソーズ』のログイン時間だ。このオンラインゲームでは、どのプレイヤーがどの時間にログインをしていたかを調べることができる機能がある。つまり、「クラスメートA」が俺のSNSにコメントした時間に、いまクラスで流行っている『レジェンド・オブ・ソーズ』で遊んでいるクラスメートは容疑者から外れるということだ。
「もし、キャラクターを作成したら、『EveryDayValley』に連絡を頂戴。実は、このクラスが主体でギルドを結成したんだ。中堅のギルドだけどね。でも、ゲームを始めたばかりの人のレベル上げの手伝いとか、分からないことがあったらギルドのチャットで質問してくれたら誰かが教えてくれたりするよ。もちろん、学校で聞いてくれてもいいけど」
『日比谷』という苗字だけに「EveryDayValley」か。なんの捻りもないな、日比谷。だが、クラスメートのログイン状況を知れるというならこのクラスのギルドに所属した方が無難だろう。一応、ギルドのメンバーとか、「フレンド登録」している人ではないと、ログイン時間を調べることはできないということらしいからな。
「とりあえず、キャラクターを作ってみたら連絡してみるよ。色々と頼むわ」と俺は日比谷と話す。
「あっ、ショータ君……も、『レジェソー』始めるんだ。私、まだLv10だから、もし良かったらシナリオをやって欲しいな。ほら、シナリオって、レベルが高い人とはパーティーを組めない仕組みだから……」と、古宮が言った。古宮は確か、吹奏楽部でホルンか? トランペット? の奏者だった。意外だな、彼女も『レジェンド・オブ・ソーズ』をやっていたのか。だが、すでに彼女は「クラスメートA」の容疑者から外れている。
「俺もレベル上げとかしたいなら手伝うぜ。シナリオを進めていっても、絶対にレベルの壁にぶち当たる。同レベルのモンスターを倒すより、高レベルのモンスターを倒したほうが絶対効率いいから。俺は、58レベルだし、そのレベルのモンスターを倒せば、遙香のレベルに2時間くらいで追いつけるぜ」と、若泉が言った。若林はサッカー部だ。もう、容疑者からは外れているが……。
「私も手伝っていいよ〜」
「俺も手伝うぜ。俺は、『材料』の取得確率をアップする能力があるから、『材料』を集めたいときは声をかけてくれ。まぁ、時間が合えばだけどな」
「お、おぅ」と俺は答える。意外と、『レジェンド・オブ・ソーズ』のシステムは複雑だった。もう少ししっかりと調べてから、ゲームをやると言えば良かった。
「でも、ショータもゲームとするんだな。ゲームとかより、読書が好きなのかと思っていたぜ」と森永が言った。こいつも、すでに容疑者から外れている。
「まぁ、本を読むのは好きだがな。夜に少しだけ遊ぶくらいだけど、とりあえずよろしく頼むわ」と俺は答えておいた。
そして、その日のバスケの自主練が終わった直後だ。俺の携帯がピコンとなった。もう確認しなくても分かる。「クラスメートA」からのコメントだろう。
『練習お疲れ〜。ショータ君、『レジェソー』始めるんだってね。私もやってみようかな』
どうやら「クラスメートA」は、昼休みの俺と日比谷達の会話を聞いていたらしい。クラスメートAは、昼休み教室にいた人物。また、「クラスメートA」の手がかりを得た。だが、誰だ? 日比谷達は教室の真ん中に陣取って昼休みにゲームの攻略を進めている。教室中に会話が聞こえただろう。だが、容疑者の誰が教室にいたかまで俺は記憶していない。日比谷達と会話をした後、俺は、図書室から借りてきた『マスカレード・クラス』の続きに夢中になってしまっていた。
本当は、その作者の最新作である『クラスメートXの献身』を読みたかったのだが、誰かに先に借りられてしまっていた。貸出開始になる1限目の休み時間に図書室に急いで図書室に行ったのだが、すでに誰かに借りられた後だった。人気作家の最新作だから仕方が無いし、良くあることだ。それに、まだ読んだ事がなかった『マスカレード・クラス』も当たりに入る小説だ。
それにしても、「クラスメートAは、『レジェンド・オブ・ソーズ』をしていない」という人物像が新たに浮かび上がった。
とりあえず、クラスの誰が『レジェンド・オブ・ソーズ』で遊んでいるかのリスト・アップだ。クラスで流行しているゲームだから、「クラスメートA」の容疑者を大幅に減らすことができるかも知れない。
あと少しだ。俺は、そう考えながら、『レジェンド・オブ・ソーズ』のアプリのダウンロードボタンを押した。とりあえず家に帰ってから、ゲームに新規登録して、日比谷達と合流だ。そうすれば、クラスの誰がこのゲームで遊んでいるか分かるはずだ。




