1.遅くまで練習疲れ様!
ソーシャル・ネット・ワークは、俺のクラスを変えてしまった。いつの間にか、俺のクラスの勢力図を変えてしまっていた。
いつも休み時間に本ばかり読んでいた地味な女子。特に仲の良い友達もいるわけでもなく、いつも一人だった。俺と同じで、クラスに友達がいなかった奴だったはずだ。
だけどクラス内のSNSで一躍彼女は人気者となっていた。クラスメート専用のSNSグループ。その中に、彼女が授業でとったノートを掲載したのだ。
蛍光ペンや、猫や犬などのキャラクターシールを使い、とても見やすく、そして要点がまとめられていた。分かりやすいノートだった。テストに出そうな所が一目瞭然だった。
彼女は、ノートの一部だけをスマートフォンのカメラで撮ってSNSに流したのだ。
それがクラス内で評判になった。国語のノートを、数学のノートを、他の課目のノートを写させてほしいという生徒が現れ、休み時間、彼女は他のクラスメートに囲まれるようになった。昼休みは、どうすれば上手にノートが取れるかを教えたりしている。
あいつは上手くやった、と俺は思う。ノートというものは、学校に来て授業を普通に受けていれば毎日更新される。毎日、ネタがあるということだ。
SNSで毎日の一部を写メで流し、クラスメートから『いいね!』をたくさんもらっている。俺も、試験前などは彼女のノートのコピーで勉強している。
成績の良い、地味な奴。それが、いまではクラスの人気者の一人だ。クラス全体のテストの平均点が上がったのは、彼女のおかげだと先生も一目置くようになった。彼女は生徒会長でも狙っているのだろうか。
クラスのあの男子。あいつも上手くやった。SNSの成功者だ。
クラスでオタク扱いされていた奴だった。今、クラスで流行しているスマホゲーム。その情報をSNSで流す。アイツがズルいのは、レア・アイテムや激レアカードを取得した時の画像だけをSNSに載せて、ゲームでの具体的な入手方法とかをSNSでは公開しないことだ。
当然、他のクラスメート達だってレア・アイテムや激レアカードは欲しい。今までクラスでほとんど無視されていたあいつは、いつの間にかそのスマホゲームで話題の中心にいる。男子にも女子にも人気のあるスマホゲームだ。あいつのことを毛嫌いしていた女子も、休み時間にあいつの席に行って、効率よくレア・アイテムを取れる方法を聞いているくらいだ。
いままで、親の金を使ってゲームで課金して得たレア・アイテムを自慢するだけの奴とは違う。あいつは上手くやった。SNSの成功者だ。
だが、華々しい成功をした奴がいれば、SNSでパッとしない奴だっている。
SNSで成功者する奴がいれば、失敗する奴がいるのはこの世の摂理だろう。
内容のないことをSNSで流しまくって、今では全員から未読スルーされている奴だっている。
SNSの落伍者。それが俺だ。親の方針とかでスマートフォンを持っていない奴だっているが、そういう奴の方がまだマシかも知れない。
『今日は部活の後、フリースロー300本入れるまで帰らねぇ!!』
俺はそんなことをSNSに書いてみる。まぁ、どんな練習メニューをしたかを記録するために使っている。日記代わりにSNSを使っているだけだ。女子が、『今日は人気のあのクレープ屋に行ってきた』なんてSNSを垂れ流しているのと同じだ。
別に、それに対してコメントとか反応が欲しいわけじゃない。本当だよ? 別にコメントとか反応が欲しいわけではない。大事なことだから二度言っておく。
まぁ、クラスメートの誰も、俺のバスケの練習メニューになんて興味はないだろうし、宮野のように身長が高く、1年生からスタメンというわけではない。3年生になってスタメンになれるかなぁ程度の実力だ。
フリースローを300本入れるのは結構大変である。フリースローであれば、8割は入れることができる。だが、2割は外してしまう。それに、球を一球一球拾ってボールかごの中に戻すのにも時間がかかる。
俺以外にも自主練をしていた奴はいたが、先に帰った。みんなで帰りに駅前で牛丼食って帰るらしい。別に誘って欲しかったわけじゃないぞ。俺はフリースロー300本を入れるという偉大な目標があるのだ。まぁ、誘われたら、練習を切り上げて一緒に牛丼食べても良かったけどな……。俺も行きたいと言えば良かったが、俺的にはハンバーガーの方が食べたかったから「俺も行く!」なんて言わなかったけどな。
ボールを倉庫にかた付け、簡単に床をモップ架けるなどの片付けをした後、俺は体育館の鍵を閉める。最後に残った奴が、体育館の鍵を職員室に返しに行くのが決まりだ。
体育館の外はもう暗くなっていた。生徒がいなくなった学校は一人ではやっぱ寂しい。校舎にも職員室のあたりしか照明がついていない。野球部やサッカー部もこんなに暗かったら練習できない。楽器の音とかも聞こえないし、文化部の奴らも帰ったみたいだ。
体育館の扉を閉め、鍵を差し込んだとき、俺の携帯が鳴った。
『遅くまで練習疲れ様!』
ん? 俺が練習前に書いたSNSへの返信だった。おぉ、俺のSNSに誰かがコメントしたりするなんて、実に1ケ月ぶりだ。SNSには毎日投稿しているけどな……。
って、『クラスメートA』って誰だ? 匿名での返信か。
いや、タイミングが良すぎないか? まるで俺が今から帰ることを知っているかのようだ。体育館には誰も残っていなかった。少なくとも30分は俺が体育館で一人だった。
俺は振り返り、人影を探す。
暗くなった校庭。
人影は無い。
偶然か? それとも悪戯か? 「クラスメートA」とか匿名なのも怪しすぎる。




