オタク系女子佐々木さんは、オカン系男子田中君が好き
「‥ここ、ほつれてるぞ」
武生が四朗の袖をつかむ。
「ん? 」
掴まれた袖を四朗が見ると
「ボタン」
と、相変わらず不愛想な顔で言うと、裁縫セットを出して、ボタンを付け始める。
「‥あ、ありがとう‥」
「ああ‥」
なんて、中途半端な妄想を膨らましてる、「オタク未満」な女子たちに、さっきから佐々木さんはイラっとしていた。
‥四朗君は、ボタンほつれさせたまま学校になんか来ねえ!
しかも、「この武生さん」、どこから裁縫セット出してきた。持ってるのか?! 持ってないだろ!
武生さんは、そもそも「オカン」属性じゃない。どっちかというと、俺様系だ!
そこんところから間違ってる!
そうだな、このシュチュエーション、(そもそも大前提「ボタンをほつれさせてくる四朗君」から可笑しいんだけど)なら
「しんちゃん、普通、ボタン位チェックしてこない? 」
って、相崎さんに見つかって、嫌味モードで攻撃されて、四朗君がぴくって静かに怒りモードになって、武生さんが呆れた顔で見て、
「ああ、ちょこっと直すね」
って、直すのは‥
田中君でしょ。どう考えても。
突然降りだした雨に、濡れている四朗君。
「ったく、ほら」
って、タオルを差し出して、ガシガシそっけない様子で拭き始める、ツンデレな相崎さんも存在しない。
やっぱりここで、
「あ、はい。タオル」
ってお世話しちゃうのは、オカン系な田中君。
「ブラックコーヒーが好きなのは、武生君。四朗君は、緑茶だよね」
っていうの、気配りも、そう。
(~ほんわか相崎さんとツンデレ四朗君編~)
「ほら、しんちゃんは緑茶でしょ」
ほんわかと微笑む相崎さん
「はあ?! ‥ありがとう‥」
いつもの調子で一瞬嫌な顔をするも、周りに人がいないのを確認すると、ちょっと赤面しながら緑茶を受け取る四朗君。
なんて、相崎さんが四朗君の好み知ってるわけが、ない。四朗君も相崎さんから緑茶なんか受け取らない。
(~ぼんやり四朗君と、ツンデレ武生さん編~)
武生さんも、
「ん」
って、黙って緑茶を差し出すとかしない。(反対ならあったが、佐々木さんは知る由もない)
萌えは、人間観察だろ!
ホントに、アンタ等四朗君のファン??
そもそも、四朗君に「いつもしっかりしてるけど、ちょっと抜けてるところがギャップ萌え」を求めるのがおかしい。
そんな抜けたところ、日常にちらっと見せる程、あの三人は、抜けてない。
三人って、四朗君、相崎さん、武生さんだ。
あの三人って、君らが思う以上に、「人間っぽくない」ぞ?
「隙」も無いぞ?
四朗君なんて、そもそも校内で見かけない。
武生さんと四朗君が一緒にいるところも、そんなに見ない。(昔はよく目撃されてたけど、この頃は見ない)
相崎さんとも然りだ。
相崎さんがそもそも、男と一緒にいることなんて、ない。
安定のチャラ男っぷりなんだ。
ギャップ‥ていうのかは、別として、「違った面」は、学校生活を送ってる中じゃ見られないでしょう。
イベントでしょう。修学旅行じゃ、ない? 普通。
宿泊系イベントに参加したことない、四朗君が初めて参加する宿泊系イベント。
どんな普段見られない顔が見れるかな?
そこでしょ?
私たちオタク系女子な「文芸部」はそもそも、そういうのを楽しむクラブなんだ。それが、「四朗君親衛隊」の会報担当に担ぎ上げられてしまい、現在に至る。
それに触発されて、(主に腐寄りな)妄想女子が新たに加わったってわけ。
でも、なんかちょっと違うんだよなあ。
しかも、そもそも
私は、四朗君を話しのネタにするが、別に四朗君ラブじゃないぞ?
‥なんか、現実味がない。
あんな綺麗な人の横に立つとか、無理。
妄想でも、無理。
相崎さんとかの横にいるのがいいのであって、そこら辺のモブは似合わない。
でも、田中君が横にいるのは、イイんだよね。癒されるんだよね。
何故って、そこに、ラブが存在しないから。
田中君は、オカンだから。
田中君が四朗君に向ける優しい、オカンの眼差し。そして、四朗君が時折田中君たち(残念ながら、たちだ)に見せる無防備な笑顔。
いつもの、綺麗で完璧な笑顔じゃない、温かい柔らかい笑顔。
息子! 息子だね!
私は、田中君が好きだ。
現実を考えて、とかじゃない。
彼の優しさや、温かさが好きだ。
そして、あの組み合わせが好きなんだ。
そして、私は見てしまった。
ちょっと四朗君を息子っぽく扱い、四朗君にちょっと苦々しい顔され、でも、とびっきりの笑顔で微笑まれている人物を。
西遠寺 博史
四朗君の弟だ。
四朗君のテニスの師匠。料理上手で明るく、優しく、四朗君に激甘。
オカンだ。
絶対、彼もオカン系だ。
‥そうか、四朗君、オカン系に弱いんだ。
四朗君。気を付けて~!