表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相生様メモ   作者: 大野 大樹
人物紹介プラスα
7/20

相崎の社会科見学

「おはようございます」

「おはようございます」

 花屋さんの奥さんの朝の挨拶に、華やかな笑顔で挨拶を返す。

 どんな女性であれ、女性には優しく! 既婚者だろうが、年輩だろうが。

 だけど、‥中学生以下は例外だ。

 子供は、色気ってのが分かんないからね。

 ‥わかっても嫌だ。

 子供は、元気に遊べばいい。変にすれた子供はいけない。子供のうちに吸収できる、親からの愛情やらに気付けなかったり、後々「飯のタネに」なり得る好奇心をつぶしてしまうからね。

 ‥そう。しんちゃんみたいな、冷めたガキ。あれはいけない。

 人間に面白みがない。どんなに、人生経験があろうと、どんなに知識があろうと、どんなにあがこうと、あれは、駄目。

 せっかく女の子が与えてくれる愛情にも気づいてないじゃない。人間性に問題がありすぎるよね!



 そんなこと思いながら、花屋の奥さんと笑顔を交わしてると、ふっと奥さんの顔色が悪くなるのが分かった。

「大丈夫ですか! 」

 俺は慌てて駆け寄る。

 奥さんは、花のショーケースにもたれて今にも倒れそうだ。

「‥大丈夫よ。ちょっと立ち眩みしただけだから」

 手伝って、奥さんを椅子に座らせていると

「母さん! 無理しないで寝てて! 」

 店の奥から中学生になるかならないかの女の子、所謂子供が走ってきた

「私が店番するから、母さんは座ってて! 」

 で、俺に気付く。

「お客さんですか? 」

 といいながら、目が「お客さんですか? 」って目じゃない。

 不審者を見る目、止めた方がいい。

 まあ、愛想がいい子供も嫌だから(以下同文)

 俺が苦笑していると、

「ああ、この方は私を助けて下さったの」

 奥さんが、娘を窘めた。

「はあ、ありがとうございます。では」

 なおも、娘の緊張は解けていないようだった。硬い表情を崩さず、形だけ、という感じで俺に会釈した。

「‥俺も手伝うよ。水替えとか、さっき奥さんしてたみたいだから」

 苦笑したが、俺が上着を脱いで腕まくりをした。

「‥そんなこと、お客様にしてもらうわけにはいかないです」

 娘が睨んでいるが、俺は無視することにした。

「子供が遠慮しなくていいんだ。困ったときはお互い様でしょ」

「子供じゃないですけど! 」

 これも無視して、俺は奥さんに聞いて、花の水替えを始めた。


「いらっしゃいませ」

 人には愛想よく。

 何を売るにもそれは変わらない。

 そういう訓練は昔から受けている。

 それに、表情だって。

 人受けする顔だって自覚もある。

 使えるものは、最大限に使わないと。

「え! あら! 」

 俺が微笑みかければ、道行く人がお客さんに変わる。

 どんなもんだ。

「ええと‥。あの‥」

「バラなんかどうですか? お部屋に飾ったら明るくなりますよ」

 にっこり笑って勧める。

「あら、そうね」

 花を選んで、包んでお金を受け取るのは、娘。そういえば、さっき「加奈」と奥さんに呼ばれていた。

「私は、アリストロメリアを」

 ‥アリストロメリア? 

 札を付けて欲しい。よくわからない。

 奥さんが、「あれよ」と教えてくれる。

「花を持つときは、丁寧にね。バラは指で首の下を持って」

 小声でアドバイスしてくれる。

 案外力が入ってしまいそうになる。

「ありがとう」

 ふわっと、お客さんが笑顔になったのをみて、俺も笑顔なった。

 ‥売って、誰かの笑顔を見たのは、初めてだ。

 どちらかというと、俺たちの家業は、顧客が見えない。(しんちゃんは、客をたらしこむことが仕事だし)←この認識!


「花束、作ってもらえませんか」

「え! 」

 花束‥。ちら、っと加奈を見る。

 加奈は別の客を接客している。

 ‥俺しかいない。だけど、俺にそんなもんが作れるはずがない。

「ええと、どんな感じにしましょうか? 」

 話している間に、加奈が終われば‥。

「お見舞いに持っていきたいんです」

「ご予算はどうさせていただきましょう? 」

「三千円でできますか? 」

 お見舞い。ユリとか‥

 自分の常に持っていく花を思い起こす。

 カサブランカやオンシジュームにドラセナ‥。三千円は越すか?


「はい。お任せください」

 顔には出さないように、頭でぐるぐる考えていると、後ろから声がした。

 ‥奥さん。

「もう大丈夫よ。ありがとうね」

 にっこりと笑い、奥さんがお客さんの前に立つ。

「じゃあ、カーネーションで作らせていただきましょうね」

 奥さんの手つきを食い入るように見た。

 花を扱う丁寧な所作。無駄のない動き、飾らない穏やかな笑顔。

 華麗な花束。

 お客さんを送り出すと、

「もう少し座ったら、また働くわね」

 と、奥さんはまたパイプ椅子に座った。

「貧血なのよ。ありがとう、貴方がいなかったらお店を閉めてたわ」

 と付け加える。

「母さん、無理しないでよ」

 と心配そうな加奈。

 優しい子だ。


「カサブランカはいれなかったんですね」

 ショーケースの真ん中でさく美しい花を見ながら、俺はさっき思ったことを聞いた。

「ん~。私、お見舞いの花にカサブランカ入れるの好きじゃないのよね。‥匂いが強いから」

 奥さんが肩をすくめる。

「ああ。確かに」

「しかも、カサブランカ一本いれたら、それだけで予算の大半持ってかれるでしょ? 」

「そうですね」

 花束って奥深い。

「さ、ありがと。もう大丈夫だわ。‥貴方にバイト料出さないと」

「いいです。いろいろと勉強させてもらいました。‥僕の家も、商売をしていて、将来は継ごうと思ってて、今は修行中なんです」

「まあ、偉いわねえ。見たところ、高校生くらいでしょ? しっかりしてるわねえ」

「来年卒業です」

「へえ、そうなの。じゃあ今は忙しいんじゃないの? 」

「僕は、推薦入学がもう決まってますから」

「そうなの。頑張ってね」

「‥あの、貴方は相生さんですか? 」

「え! 」

 しまった、意外な言葉にアカラサマに嫌な顔をしてしまった。

「違いますよ。何故? 」

「‥友達が、「相生様かっこいい」って言ってたから。お兄さんかっこいいから、その「相生さん」なのかなって思って」

「俺は、相崎っていいます」

「相崎さん? 」

 そこで、加奈がにこっと笑った。

 今日初めての笑顔だった。

「私、その友達に「相生さんはしらないけど、きっと相崎さんの方がかっこいいよ」って教えとくね! 」

 なんだそりゃ。

 その、わけのわからない加奈の言葉に笑顔になった。

 そりゃあ、俺の方がしんちゃんよりかっこいいよ!

「加奈、それはよくわからないわ。それより、何かお礼がしたいなあ‥」

「あの、この花‥。一本いただいていいですか? 母に‥あげたいんです」

 初めて自分で働いた報酬は、‥なんか女友達にあげるのはちょっと違う気がした。

 なんか、この子は特別、って子も思い浮かばないしね。

「え? ええ。じゃあ、このバラを」

 珍しい、緑とピンクの混じったバラ。

「ありがとうございます」

 今日はたくさん聞いた。「ありがとうございます」を自分で言って、じんわりときた。

 いい言葉だ。

 ‥このことを忘れないようにしよう。

 そう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ