閑話2 桜と裏西遠寺
「失礼ですが、お嬢様は、裏向きの人間かと思うのですが」
物心つく前から、何度となく言われてきた。
その人たちは、『裏西遠寺』と言われている人たちだった。
その時は、まだ裏も表も分からなかった私だが、
次第に、その役割を理解するようになった。
つまり
表は、クライアントの窓口で、仕事の内容を分析、把握し、裏に仕事を回す役割。そして、裏が、仕事をする。
‥表って偉そうに言って、裏がなくっちゃ何にも出来ないじゃないの。
そんなことを幼心にも思ったんだけど、それを思ったのは、きっと裏の人だって一緒だったんだ。
表にいながら裏のように「特殊能力」を持った私は、待遇の改善を求める裏の人たちにとっては、象徴的な意味合いを持つ子供だったようだ。
何度か誘拐まがいの勧誘を受け、そのたび、桐江が私を守ってくれた。
‥私がお外が怖かったのは、その時のことがあったからね。
楓は、
「大丈夫、私は悪者を退治してあげるね」
布団から体を起こして、にっこり笑って言った。
そうだね、悪者が出たら、退治しなきゃね。
それからの私は、剣術に柔術、「護身術」になりそうなものはすべて身に着けようと稽古に明け暮れた。
私が、四朗に強さを求めるのも、そのせいよ。
自分の身は自分で守らなきゃ。
まあ、話を元に戻すけれども
私たち一族は、みんな相手の呼吸を読むのが上手いんだけど、私は修行の最中「相手の鏡になる」秘術を生み出したの。
秘儀、まるで自分対自分。
つまり、同化ね。
これが、中々好評で『稽古になる』と先生に強請られたりしたわ。
そして、思ったの。
確かに私は、裏よりの人間だって。
私なら、裏と表の仕事をちゃんと繋げるって。
「私は、裏西遠寺の術者にはなれませんが、裏に対して正しい情報の伝達を約束し、また待遇・環境の向上を図っていきたい」
裏西遠寺と西遠寺の関係が今の様に、良好な関係になったのは、私の努力の結果だと、それ位は認めて欲しい。
一つに、表と裏の情報練達の徹底。
一つに、術者の住環境の整備、修行の徹底。
これは、新しい術者勧誘の必須前提だ。
初期費用はかかったが、それは裏と表でこれから返していかなければならないだろう。
そうして、出来たのが裏西遠寺の独身寮だ。造るのには協力したけど、私は術者の事については全く分からないから、その後のことについては、裏に全部お任せすることにした。
つまりこれが、先のゲームクリエイト会社『TAKAMAGAHARA』だ。
とまあ、こんなに設立に尽力したんだけど、どうやら、まだ全面的に友好的とは言えないみたいだ。
裏が、四朗に接触を目論んでいるらしいということを、華鳥から報告を受けた。
今の、ぼーとしてる状態の四朗(※10歳前後当時)のままでは、対抗できないだろう。ぼ~としている間に取り込まれてしまっても、困る。
誰が何と言おうと、四朗は相生の跡取り。四朗様の跡取りなんだから!
下の者の教育っていうか、全体的な統制ってのは、裏の今後の課題ね。
今のままじゃ、荒くれオカルト集団って呼ばれる未来が安易に想像がつくわ。