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相生様メモ   作者: 大野 大樹
舞台裏
17/20

2.桜と桜の兄妹 ~紫苑の失踪(8)

 結局これ以上ここで話合ったところで、事態は変わらない。

 そもそも、相手が悪い。

 自分たちは、相手のことをあまりにも知らない。

 相手‥東館脇も私たち‥西遠寺のことを知らないだろうが‥だ。

「そろそろ帰るわね。四朗の世話も‥いらないと言えば‥いらないんだけど、一応しなきゃだし‥。連れてきたら、ここに泊まれたんだけど、相生のおじい様が四朗をここに連れて来るのを嫌がるのよ。‥西遠寺に取られたら困ると思うんでしょうねぇ」

 ふう、と桜がわざとため息をついた。

「ふふ。相生のお義父様は心配性でいらっしゃいますね」

 そんな桜の「幸せそうな」様子に、桐江も微笑み返した。

 ‥ため息なんてつかれても、お子様自慢にしか聞こえませんよ。

 って奴だ。

「まあ、四朗は‥やっぱり臣霊だから、今の地点でもう優秀だしね」

 ‥あ、言っちゃたよ、この人。さらっと、親バカ全開だよ‥。



 東館脇 雅之は、その頃、彼なりに悩んでいた。

 ‥どうやら、我が家の家業はどうも秘密が多いらしい。

 と、気付いてはいた。表向きは、喫茶店なんかを経営していて、兄さんたちは「不動産で生きていけてる、この喫茶店は税金対策」なんて言ってたけど、‥不動産って、ホントにあるんですかね。何処にあるとも、どの位の価値とかも聞いたことないんですが。

 何か別な仕事をしているらしいってことは‥わかるんだけど、実は‥何の仕事かは、詳しくは知らない。

 この前、やっと「‥喫茶店こそが家業の隠れ蓑」って認めさせることはできた。

 ほら、やっぱり家業は別にあったじゃないか。

 そう思ったら、なんかそれ以上は「まあ、‥興味本位で聞くこともないか」って思えた。

 そんな弟に、忠継たちは、(雅之が家業に関わる気がないなら)何も知らさない方がいいかと判断したらしく、詳細は知らせず、ただ「お客様のプライバシーを預かる仕事をしている」とだけ言った。

 探偵の様なもの。と。

 客商売だから、相手がいて、仕事柄個人情報を扱っているので職場には来てはいけない。それに、要らぬ恨みを買っていることもあるかもしれないので、他人には警戒をしろ。特に何かを聞いてくるものに、情報を与える様な事はしてはいけない。

 そう。

 他人には注意をしなければいけない、あれほど言われてきたのに‥。

 ‥なんだか紫苑が他人な気がしなかった。

 ひどく頼りない弟か何かの様に思えた。

 だけど、‥そんなの理由にはならない。

 自分は、兄さんたちの邪魔をするようなことをしてしまった。

 家業には、ちっとも関心はないが、だからといって家族の仕事の邪魔をしていいとは思っていない。家業が「自分には向いてないし、自分には関係がない話」に思えるだけで、嫌っているわけでもない。少しは、後ろめたさもある。

 ‥末っ子だからと言って、我が儘ばかり通して来たからな。

 だのに、今回のこれだ。

 しかも、何も考えていなかった。



 だのにだ。


 

 先日の長男の言葉、

「ずっとここに居てもらいなさい! 」

「意気投合しちゃったから! 」

 だ。


 ‥???


 兄に何があったっていうんだろう。

「木の葉を隠すなら森の中へだよ。雅之。‥詳しくは語ってあげられないけど、紫苑君の家は、うちと同業者だ。ただ、‥請ける相談の種類はだいぶ違うけど、ちょっと表立って依頼しにくい様な、お偉いさん相手ってのは、共通している。‥そうなんだ、うちは探偵は探偵でも、ちょっと特別な依頼者から依頼を受けているんだ。だから‥守秘義務が何よりも大切なんだ。信頼問題だからね。‥一般のお客様だって、守秘義務は一番大事なのは変わらないけど、‥俺たちが気をつけていても、敵もなかなかやる‥しねえ」

 ‥雅之はちょっと目を見開いて兄の話を聞いた。

 木の葉をどうするって? 森って‥どこ?

 特別な依頼者ってなんだ? 政治家とかってこと??

 あと‥兄はさっき、さらっととんでもないことを言わなかったか?

「紫苑君のお家を知っているんですか? 同業者って‥」

「‥いいよ。いい。さっきの言葉は忘れていい。

‥彼は、ここに来た時、苗字を名乗らなかった。‥彼は、ただの『紫苑君』としてここに来た。

礼儀正しい彼のことだ。言い間違えた、とかではない。

彼は、ここにいる間、ただの紫苑君。

それが、今の彼の全てだ」

 いつも通り、丁寧で、威厳があり、‥自信がある兄の口調から、弟はいつも通り『詮索禁止』を正確に読み取る。

「‥住むところはどうしたらいい? 休み明けには、僕は‥自分のアパートに帰ろうと思うんだけど」

「マンションで男二人で住むのはないだろ~! ん、もうあのアパート引き払って、こっちから通えば? もう、あらかた単位取ってるから、毎日学校に行かなきゃならないわけでもないでしょ? こっちで、‥紫苑君と一緒に家業を手伝う勉強をしたら? 」

「兄さん‥」

 家業を手伝う? しかも‥

 ‥紫苑君と一緒に??



 紫苑君は、西遠寺ともう繋がらない。

 繋げない。

 だけど、何もさせずにただ、監視してるだけって選択肢は、ない。

 せっかく迷い込んだ、金の鶏。

 囲い込んで、隠して

 飼いならしてみせる。

 利用しつくしてみせる。



「どうしたの‥兄さん‥。具合でも悪い? 」

 具合って言うか‥性格が、悪い。多分。

 忠継の知らずに常より黒くなった微笑みに、雅之がちょっと引いていることに、機嫌のいい忠継は気付いていない。

 そんな食堂に、足音も軽く向かってくる気配を感じ、二人はとっさに警戒した。

 一応、旧家の坊ちゃんだ。自己防衛の為に、武術は幼少期から嗜んでいる。

 自宅に、道場もある。そこらは、西遠寺と同様だ。

「実親か‥」

 気配の正体は、次男・実親だった。

「兄さんも、紫苑君と手合わせしてもらったら? まるで自分と戦ってるのかって、錯覚した! すっごい貴重な体験したよ。でも、最後には、負けちゃって~」

 朝から、自宅道場で紫苑と手合わせをしていたのだ。

 紫苑君は、先にシャワーを使っているらしい。

「え! そうなのか!? 」

 ‥自分と戦っているかの様に錯覚? どんなだ?! 気になる‥!!

 (西遠寺! 思ってた以上に使える! 東館脇の為に今までご子息の教育ありがと~! 西遠寺後継者育成メソッド、半端じゃない!! )

 紫苑、囲い込み計画を改めて強く心に誓う忠継だった。


これで、紫苑君編終了です。

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