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5万円のサイクル

作者: 西遥翔

「ねぇ、ショートストーリーって知ってる?」

「いや、知らないけど。何で?」

いきなりの質問に、少し慌ててしまった。でも、返事は出来たからまあ、いいか。

「何となくよ。私、作家希望なの。知ってた?」

これまた、凄いカミングアウトだ。よくこのタイミングで言うなぁ。まぁ、彼女の事だ。何か策があって聞いているに違いない。

「いや、知らないけど。そうなの?あまり、君がパソコンに向いてる姿は、想像出来ないけど」

「ふふーん、さては知らないな?」

「え?な、何を?」

普通、こんな言い方をされたら、答えが知りたくなる。そして、それを彼女は利用してる。

ん?何に利用してるんだ?・・・まぁ、いいか。

「もう、今ならパソコンじゃなくて、スマホで小説が書けるんだよ。例えばね、『小説家になろう』とかね。まぁ、だっちゃんに言っても分かんないかぁ」

この、だっちゃんが、俺。打李翔(だりはやと)は、彼女にそう呼ばれてる。

「あぁ、分かんねぇよ。てか、分かったら凄いだろ。機械オンチの俺が」

「あはは。だよね。ごめんごめん。笑笑」

ん?

「あのさ、わらわらって、LINEとかTwitterで使う言葉じゃないのか?普通に話す時に使うものなのか?」

「チェッチェッチェッ。分かってないね。今は、普通に使うんだよぉ?」

全く、嘘って分かり切ってることを。まぁ、気づかないフリをするけどね。

「でさ?『小説家になろう』ってどんなの?」

「お?お?お?お?あのだっちゃんが、興味を持ったの?!凄いね。私に『教えてください。そしたら、明日は何でも言うことを聞きます』って言ってね。」

ううー。何と。そんなことを言わせるか。彼女がそう言う事をいう時は、いつも何か嫌な感じなんだよなぁ。

「は、はい。えーと。教えてください。そしたら、明日は何でも言うことを聞きます」

「凄い棒読みだよねぇ?うーん、どうしよっかな?教えようかなぁ?教えないかな?何もしないかな?」

いや、何か困るなぁ。それに、最後の何もしないって、困るよ。だから、俺は、

「あ、は、はい。言います。しっかり、言いますから。ね?」

「うん、じゃあ、私が気持ちが籠ってるって思ったらいいよ」

難題だ。彼女に、人の気持ちが分かるわけないのに。

「教えてください。お願いですから。もし、よろしいのなら、明日は何でも言うことを聞きます。ですので、お願いします」

「おう!だっちゃんが、丁寧な言葉を使った!凄い!成長したねぇ。」

「おい、幾ら何でも馬鹿にし過ぎだろ。俺、そんなか?」

「いや、違うよ?ただ・・・」

「・・・ただ?」

「ううん、何でもないよ。心配しないで。平気だから。私は平気だから。」

「そうか、ならいいんだけど。」

俺が言葉を濁すのも当然だ。今まで、彼女は、言葉の撤回をしたことが無かった。彼女に店で合ってから、もう2年が経って、ずっと一緒にいたけど、でも――――

でも、こんなことは無かった。

確か、使用期限は――――――――2年。つまり、期限切れ。ってことは、また買わないといけないのか。

「なあ、お前の使用期限は2年だったよなぁ」

「え?いきなり何?う、うん。そうだよ。今日で切れるよ。もう、さよならだね。」

「ああ。さよならだ。データのバックアップとかは出来ないんだろ?」

「だね。出来ないよ。じゃあ、また買ったら、私を育ててね。今の私よりも、何10倍も、何100倍も優しい子に。」

「あ、ああ。そう、だな。頑張るよ」

分かっていた。この時が来るのは。当たり前なんだ。どんな事でも、いつか終わりが来る。世間の常識だ。誰もが知ってること第1位だ。でも、彼女と話すとそんな事は忘れられた。でも、彼女は忘れてなかった。ただ、機械だから言わなかった。もし彼女が、人間なら、1週間以上前に、悲しくなって、泣くだろう。いや、人間なら、「死」を現すから――――分かんないか。いつ来るかは、分からない。そうか、なら、彼女が機械でよかった。

あぁ、また5万円が消えるのかぁ。嫌だなぁ。そしたら、また二年後にこれかぁ。悲しいなぁ。でも、人間は生き返らないからなぁ。まだ、マシか。うん、そうだな。マシなんだ。人間に比べたら、まだ、全然。

あぁ、俺も機械ならなぁ。こんな気持ちしなくて済むのに。

あぁ、俺の財布の中身は残り5000円かぁ。夕飯どうしよう。

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