黒い甘み
「こしあん!」
「つぶあん!」
デカルトさんは、
二人の弟子の日常的な言い争いが始まったことを、
温かい目で見守ります。
「「デカルトさんはどっち?」」
二人の弟子が師匠に詰め寄ります。
「デカルトさん的にはあんこに特別な思いはないかな。」
「チッ、駄目だこいつ。」
辛辣な言葉を小声で吐き捨てたのはスピノザ君。
通称:弟子1号。
自然とは神様だったんだ~
的な事を発表したら、みんなから
コイツ何言ってんだ?頭大丈夫?
って冷めた目で見られてから、
すっかりグレました。
「デカルトさん、僕はやっぱりこしあん派です。あの重量、あの密度こそあんこですよ。」
「バカを言うんじゃあないよ。あんこと言ったらつぶあんでしょうが!さっぱりとした甘み、つぶつぶの食べている感、あれこそが思考のあんこでしょうが!」
「えー、僕はあずきの皮が残っているのが気に食わない。舌触りが悪いし、何より唇と歯茎の間に挟まった時の鬱陶しさといったらありゃしない。」
「そこに苦い飲み物で口の中を洗い流せば最高に美味しいでしょうが!口内調味も知らないんですかい?」
「液体ハミガキじゃないんですから、飲み物で口をゆすぐなんて考えられない。第一、口内調味ならこしあんでも一緒じゃないですか。いやむしろ皮がない分、上ですね。」
「こしあんは凶器でしょうが!外側がいい感じに冷めたからって思い切りかじりついたら、待っていたのは甘いあんこではなく、辛いやけどですよ。そのあとしばらくは何を食べても味がしない。こしあんに肩入れするやつの気が知れない。最近じゃ、あんこが何からできているか知らない若者もいるそうじゃないか。原材料の形が微塵も感じれない食べ物の何がいいんだか。」
「じゃあお茶飲めないじゃないですかー」
「あれは別、原材料名が付いてる。」
「そろそろ平行線?」
師匠の助け舟が入る。
この議論は優劣が決まるまで終わらない。
毎回デカルトさんが結果を出して沈めるのである。
「では、どちらですか?」
お互いの正義がぶつかり合うとき
第三者に委ねるのは間違いであるのだろうが
今日の場合、あんこに罪はない。
デカルトさんに任せても良いだろうと
スピノザ君もライプニッツ君も同意した。
「うん、師匠としては
パンはつぶあん、まんじゅうはこしあんでいいと思うよ。」
「くたばれ、神仏習合。」
臨機応変というか八方美人は許されない。