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起(おこり)

注意!

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

また、多少過激な描写がありますので苦手な人は読まないで下さい。

私も書きながら、胸糞が悪くなりました。


「こらこら、そんなに慌てたら怪我をしてしまうよ」


 私は子供達を諭す。


「はーい」


 聖堂の中をパタパタと走っていた彼らは足を止めてくれた。


「そうですよ。転んで怪我をしたら神父様が悲しみますよ」


 そう妻の桜子さくらこが言う。


「はーい」


 再度、子供達が返事をする。


「さて、そろそろ讃美歌の練習をしましょうか」


「分かりました、神父様」


 本当にいい子たちだ。

 多少の元気が良すぎる所もある子供達だけど、それは幼いからであって健康である良い証拠でもあった。


「では、今日は『いつくし深き』を歌いましょう」


 桜子の伴奏に合わせ、歌詞の書かれた本を見ながら精一杯歌っている子供達。

 この瞬間が一番私の心を和ませてくれる。


「皆さん、良かったですよ。私も心が洗われるようです」


 ニコニコと笑いかけてくる彼等は、天使そのものだった。


「神父様」


 子供達の中でも一番年上のすずちゃんが、手を上げていた。


「どうしました?」


 彼女は不安そうな顔で、


健太けんたくんがいません」


 子供達の顔を見ると確かに勘太くんが居なかった。

 彼はこの教会の預かっている子供達の中で一番物静かな子だった。


「本当だね、何処に行ったのだろう?」


 その問いに体をぶらぶらと動かしていたさとるが、


「神父様、さっき健太見たよ」


「それは何処で?」


 私の代わりに桜子が尋ねると、


「部屋だよ、なんだか具合悪そうだったからそのままにしてきた」


「じゃあ、見に行かないと」


 桜子がピアノに備え付けた椅子から立ち上がろうとしたのを手で制し、


「いえ、貴女は続きをお願いします。私が行きますので」


 そう伝え、彼等の寝室のある別の棟に向かった。


「うう、寒いですね」


 聖堂と宿舎を繋ぐ通路は少し寒く、秋が過ぎ冬が来る事を知らせているかの様だった


「そろそろ暖房の準備をしないといけませんね」


 そう呟きながら、宿舎の扉を開く。


「健太君、大丈夫ですか?」


 彼と悟の部屋の扉をノックして、開けた。


「健太君?」


 ゴホゴホと咳き込む声は聞こえるが、壁に阻まれ姿は見えない。


「どうしたのですか? 風邪でも引きましたか?」


 そう言いながらベットの方に近づこうとしたが、足が止まる。

 黒い男が彼にのしかかり、首を絞めていた。


「何をしているんですか!?」


 私は慌ててその男を突き飛ばす。


「大丈夫ですか!?」


 掴んだ彼の手は既に冷え、、事切れていた。

 私の頭の中は今まで感じたことの無い感情で一杯になる。


「っ!」


 突き飛ばした男の方を見ると、そこにはもう姿が無かった。


「何処に!?」


 そう呟いた時、


「キャー!!!」


 その声は鈴の様だった、私は急いで聖堂に戻る。


(どうか無事でいて!)


 そう願いながら聖堂に着くとそこには膝を抱えうずくまる彼女の姿があった。


「大丈夫ですか!?」


 私の言葉に彼女は答えず、


「ごめんなさい、申しませんから」


 繰り返し呟いていた。


「大丈夫ですから、安心してください」


 少しでも安心させようと伸ばした私の手が、彼女に触れた。


「ヒッ!」


 そう短い悲鳴の跡。


「ゴファ!」


 彼女の口から血が溢れ出す。


「駄目だ!」


 彼女の口を塞ぎ、その勢いを止めようとするが止まらずに、目や鼻からも溢れ流れた。

 一分程経ち、ようやく彼女の血は止まった。


 彼女と私の足元は血の海と化していた。


「何故!?」


 ふと、彼女の腕を見ると小さな跡があった。

 注射器で刺されたような、小さな跡。


「あの男に何かされたんですね……!」


 私の心はあの感情に左右されそうになっている。

 それはいけないと理性で止める。


「いけない!」


「助けて!」


 今度は麻子あさこの声だ、浴室の方からのようだ。

 私は走り、ドアを荒々しく開ける。


 バン!


 短い悲鳴の跡、シャワーネットが赤く染まる。


「麻子!」


 彼女の腹に大きな穴が開いて、腸が飛び出していた。


「ウッ」


 私は吐き気を抑えることが出来なかった。

 胃の中が空になる。


「なんで?」


 そう呟きながら顔上げると目の前の鏡が私の顔を映していた。

 その顔は不気味に歪み、まるで笑っているかの様だった。


「なんで?」


 そう呟くしか出来なかった。


「誰か!」


 あの声は桜子!

 足が鉄の様に重い、けどそんな事にいちいち構っている訳にはいかなかった。

 声は聖堂の方だ。


「桜子!」


 彼女はまだ生きていた。


「良かった。早くここから逃げて下さい」


「なんで!?」


 彼女は錯乱しているみたいだった。


「大丈夫です、さあ早く外へ!」


 しかし、その声は彼女には届いていない様だった。


「どうしてこんな事を!?」


「さぁ、早く!」


 私の手が彼女の肩に触れる。

 その寸前。


「もうやめて、あなた!」


 驚いた私の手は、彼女の首に触れ横に流れた。


「アァ!」


 彼女の首が私の撫でたそのままに、切れていく。

 まるで刃物で切っていくかのように。


「あ……、ああ!!」


 またあの感情が押し寄せてくる。

 あの思い出してはいけない感情。


「ああ!!」


 それは愉悦!

 私はこの状況を楽しんでいる!


「ハハハ!」


 そうだ、楽しい!

 楽しくて仕方がない!!

 その時、ガタリと音がした。


「おや、どこかな?」


 その音は聖堂の地下室に続く蓋を閉める音だった。


「見つけたよ」


 蓋を上げ、階段を陽気に降りる。

 壁にはびっしりと、傷跡が残っている、子供達の抵抗の跡だ。


「ウヒヒヒヒヒ!」


 そんな跡を見ているだけで、もう!


「何処に行ったのかなぁ?」


 わざと大きな声で言ってみる。

 この先には私の実験室しかない、行き止まりなのだから。


「ここかなぁ!」


 扉を開けると、こちらに背を向けた少年が立っていた。


「悟君、みいつけた! いつもは嫌がるのに自分から入るだなんていい子だね」


 私は左手に持った注射器を見た、その中には液体が入っている。


「そんないい子には、ご褒美のお注射をしないといけませんねぇ!」


 彼の首筋に注射器を刺し、仲の液体を流し込む。


「ウヘヘヘヘヘ!」


 この瞬間がたまらない!

 いらなくなった注射器を放り出した。


「さてそろそろ効いてくるかな?」


 彼に打った液体の効果がそろそろ現れる。

 はずだった。


「あれぇ? おかしいですねぇ?」


 彼は未だにこちらに背を向け立っているだけだった。


「ほら、こちらを向きなさい!」


 そう言って彼の肩に手を伸ばす。


 ガリッ。


 手を噛まれた。


「まったく君はそうやって抵抗するのですか? ほら、放しなさい」


 頭を反対の手に持ったナイフで刺すが、離さない。


「止めなさい!」


 ナイフを放り出し、頭を殴るが離さない。


「何故、離さないのですか!」

 

 突き倒す。


「全く」


 左手に違和感を感じる。


「え?」


 肌が削げ、皮膚どころか骨が見えていた。


「フヒヒ!」


 なんだ、これは夢か。


「神父様」


 足元に黒い顔の子供たちが絡みついている。


「あなた」


 桜子が私の頬にかぶりつく。


「そうか!」


 私はとうの昔に死んでいるんだった。

 これは私の罰だ。


「そうか!」


 罪には罰が必要だ!


「いい! すごくいいよ!」


 罪には罰を!

 罪には罰を!!

 罪には罰を!!!


 

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