表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

思い出話

本に囲まれて

作者: 眠熊猫

私が幼稚園くらいか、小学生のころ。

祖父母の知り合いだというその人の家を訪ねるのは、本当に楽しみなことでした。

当時、廃品回収業をしていたその家の倉庫にはいつも古新聞とともに古い雑誌や本が束になって積み上がっていたからです。

挨拶もそこそこに倉庫に入れてもらい、紙の山をよじ登って倉庫の高い窓から日が当たる所に行きます。

そうして、自分の周りにある漫画雑誌や漫画の単行本や、古本の束の中から面白そうな物を見つけ、ポケットに入れてきた小さなハサミで紐を切って取り出せば後は読み放題。

反対側のポケットには新しい纏めた紐が入っていて、読み終わったら元のように紐でくくれば良いよ、という約束事になっていました。

気に入った本があったら持って帰っても良いよとも。

実際にはしませんでしたが。

切った方の古い紐はポケットに入れて、母屋のゴミ箱にポイと捨てて。

倉庫で眠ったことも、何度あったでしょう。


血縁があるわけでもないのに、本当に可愛いがってくれた優しいご夫婦と、その娘さんたち。

「おばさん、おじさん、お姉さん」と、私はとても懐いていました。


その家が業務を辞めて。倉庫が取り壊されて。

私も大きくなって、足が遠のいて。

でも、祖父母が亡くなってからも交流は続き。

私が結婚相手を連れて挨拶に行った時、その相手に、

おばさんは

「この子はいつも一人だったから、どうか優しくしてあげてください。」

と言ってくれました。泣きながら。

娘さんたちも頷きながら涙を溜めて、私にそっと

「良かったね。これから、ちゃんと本当のあなたの家族を作るんだよ。」

それを聞いた私も泣いてしまいました。

私のことを、私の家族より見てくれていた人たち。



うん。父さん。母さん。お姉ちゃん。

私、おじいちゃんが死んでからずっと家族の中で一人だったよ。知らなかったでしょう。

誰も見てくれなかったもの。

でも、大丈夫。

おじさんとおばさんと、お姉さんたちがいてくれるここで、私は本に育てられたから。




追記

私は物心ついた時には本を読んでました。

絵本ではなく、児童文学とか時代小説とか。落語の速記本、旅行記。およそ家にあって私が持てる重さの本ならば何でも手当たり次第。

来年は小学生という時期に新聞を毎朝読んでました。

昔はルビがふってある本が多く、それで自然に漢字を読めるようになってたみたいです。

意味が判っていたかは別として。

そうやって私は現実逃避してたんですね。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ