前ー3 ウミガメのスープ
* * *
時計が指しているのは12時前。
俺はあくびをかみ殺しながら、板書をノートに書きなぐっていた。窓からは日の光がさし込み、昼寝に最適な室温を保っている。おまけに時間割を作った奴は一体何を考えたのか、一限目から眠たい授業のオンパレードだ。おかげでクラスの過半数は寝てしまっている。
「えーそれでイギリス産業革命によってまず綿工業の技術革新が始まり……」
と念仏のように唱えながら、先生もまた眠たそうな目で教室を見渡した。
その時先生と目があった……と思ったが、先生の視線はそのまま通り過ぎていった。俺はまたしても消えているのだろうか? 俺はシャーペンをカチカチ鳴らした。いつもなら気にしない、むしろいかに先生の目を盗んで居眠りするかを考えているぐらいなのに。
俺の姿はどうして見えたり見えなくなったりするんだろう? 朝からこんなことばっかり考えているせいで、まだ一日の半分しか終わっていないというのにものすごく疲れた。
そうだ、俺は疲れているんだ。だから広告のアクリル板に映っていなかったのも俺の見間違いで……いや、でもそれじゃあここにくるまでに何人もの人とぶつかりそうになったり生活委員に気づかれなかったりしたのは一体何だったんだ? それらも全部勘違いだなんてことがあるだろうか?
……だめだ、さっきから堂々巡りだ。考えれば考えるほど今自分の姿が見えているのかが気になって、周りの視線の一つ一つを痛いほどに捉えてしまう。教室にいるだけで居心地が悪い。
考えながら、彼はガクンと一つ船を漕いだ。
何でなのかは分からない……が、天罰とかそういうものではないと思っている。俺は何も悪いことはしていないし、そんな一言で片付けられてたまるか……。
続
これにて前編終了です。
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May 27,2016 すずき やすはる