前ー1 ウミガメのスープ
* * *
時計は朝の8時20分を指していた。高校一年の北山は廊下の人混みの中に背を丸めて歩く友人の姿を見つけた。
「よう、佐久間」
後ろから声をかけたが、彼は返事をしない。北山は彼の肩を叩いた。
「おーい佐久間!」
佐久間と呼ばれた彼は、今度はものすごい勢いで振り返って北山を驚かせた。
「北山か……びっくりした。誰かと思った」
「何言ってんだ、驚いたのはこっちだ」
北山は呆れたような顔をしたが、佐久間の様子がいつもと違っていることに気がついた。
「お前何かすげー疲れた顔してるけど」
「ん? ああ、これなあ」
ふと佐久間の目が泳いだ。
「最近寝不足でさ」
「お前またゲームばっかやってんのか」
「うーんまあそんなとこ」
彼は目をごしごしこすりながら続けた。
「おまけに寝ぼけてたからか知らないけど電車で変なもの見てよ」
「なんじゃそりゃ」
彼は北山と並んで歩きながらこっそりつぶやいた。
「北山には見えてるのか……」
「うん? 何か言ったか?」
「いや何にも」
(言ってもしゃあねーよなあ)
二人は教室に入ると、また話を続けた。
「ところで佐久間はこの前の問題分かったか? ほらあれ、“ウミガメのスープ”」
続
『スープ』強制回収。
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Apr.20,2016 すずき やすはる