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禿げ散らかした頭には、家族への愛が詰まっている 二

 ここで一つ、新世界についての話をしておきたい。


 旧人類が滅んで以降、

 新人類は発展と呼べるものを遂げていない。

 先にも述べた通り、旧人類の遺産を食いつぶしている状態である。

 ではなぜ、そうなったのか…


 それは、徹底した『異能力至上主義』を掲げた為である。

 新人類を救った異能の力は、

 彼らにとって救世の力に他ならなかった。

 その力を行使できる者は憧れの対象となり、

 全てにおいて優先され、優遇され、崇拝された。


 そこに過信が生じた。


 異能は全能だと語る者達が現れたのだ。

 実際に、異能は万能だった。

 全能とはいかないが、

 他の技術に応用できる汎用性を兼ね備えていた。

 その事実が、

 新人類を取返しのつかない道へと追いやった。


 異能力以外への大規模な排他的運動。

 いや、暴動。

 それにより、旧人類の技術は流失し、

 遺産へとなり下がったのである。


 世界は縮小する。

 手に負えなくなった場所を放棄し、

 旧人類が造った大都市へと生活圏を縮小させた。


 愚かな新人類。

 彼らは失ってから気づいた。

 滅んだ技術の大切さに。

 異能だけでは対処できない事がある事に。


 進化の先に人類を待っていたのは停滞。

 と言うよりは、緩やかな下り坂。


 旧人類が大都市と呼んだ街は、

 今も継続して残り、人々の暮らしを支えている。

 ただ、大都市を支えているのは、

 旧人類の技術ではなく、新人類の異能。

 彼らは都市の一パーツに成り下がっていた。

 その事に気づきながらも、知らないふりを続けていた。



 そして、ここに摩耗した部品が一つ。

 禿げ散らかした頭を光らせ、

 旧人類が残した遺産であるディスプレイを覗き込んでいる。


 画面からは少女と思わしき甘い声。

 そして、刺激的な画像が表示されていた。


 オッサンが声を荒げる。


「フィーアちゃんは俺の嫁!!!!!」


 そして、そそくさとディスプレイの近くに置かれた、

 フィギュアに声をかけた。


「リーネちゃん、これは友好を深めているだけで、

 浮気ではないのです!リーネちゃんが本妻なのです!!」


 フィギュアの頭を撫でて言い聞かせるオッサン。

 その光景に、虫唾が走った。


 これは… 何をやっているんだ?


 崩壊寸前の家族は?

 僕の決意は???

 何もかもが馬鹿馬鹿しくなってくる。


 ここはオッサンの部屋。

 事情は明日話しますと告げると、

 彼は僕を放置してゲームを始めた。


 どう見ても一人暮らしの部屋。

 家族と暮らしている形跡など、どこにもない。

 それどころか、

 一目でオタクだと断定できる様なグッズが、

 所狭しと並べてあった。


 ドン!ドン!

「うるせーぞ!!」


 薄い壁から苦情が寄せられる。

 オッサンはビクリと体を震わせ、壁を見詰めた。

 そして、少しトーンを落とした声で壁越しに謝罪する。

 しかし、謝罪とは裏腹にその顔には怒りを滲ませていた。


 え?

 まさかと思うけど、

 家庭崩壊って、そう言う事???

 壁ドンで、ゲームが楽しめないから、

 何とかしろって事なのか?


 もし、そうだとしたら…

 この時、僕に表情があれば引きつっていたと思う。


 燃やすしかないでしょ!

 都合よく炎の異能が使える事だし!

 そうだ、今すぐ燃やすか?

 僕はそんな事を考えずにはいられなかった。

 それ位、現状が情けなかった。


 興が醒めたのか、オッサンは眠る準備を始めた。

 布団を敷き、かわいい柄のパジャマに着替え、歯を磨き、

 トイレを済ませ、電気を消して横になる。

 やはり、事情は明日にお預けのようだった。

 

 直ぐにオッサンの寝息が聞こえ始める。

 そして、寝返りを打ち布団がめくれた。

 するとそこには… 


 何かを抱えるオッサンの姿があった。

 それは写真たて。

 その中には、こちらに微笑みかける少女の姿。

 オッサンの目から涙がこぼれる。


「リ…ア… もうすぐ… だから…」


 掠れる様な音の寝言だった。

 ただし、その音にはしっかりとした苦渋が含まれていた。


 その姿に、

 僕は怒りの矛を収めていた。

 もう少しでけ、付き合ってやる。もう少しでけ…

 そう思いながら、僕も眠りにつく事にした。

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