禿げ散らかした頭には、家族への愛が詰まっている 二
ここで一つ、新世界についての話をしておきたい。
旧人類が滅んで以降、
新人類は発展と呼べるものを遂げていない。
先にも述べた通り、旧人類の遺産を食いつぶしている状態である。
ではなぜ、そうなったのか…
それは、徹底した『異能力至上主義』を掲げた為である。
新人類を救った異能の力は、
彼らにとって救世の力に他ならなかった。
その力を行使できる者は憧れの対象となり、
全てにおいて優先され、優遇され、崇拝された。
そこに過信が生じた。
異能は全能だと語る者達が現れたのだ。
実際に、異能は万能だった。
全能とはいかないが、
他の技術に応用できる汎用性を兼ね備えていた。
その事実が、
新人類を取返しのつかない道へと追いやった。
異能力以外への大規模な排他的運動。
いや、暴動。
それにより、旧人類の技術は流失し、
遺産へとなり下がったのである。
世界は縮小する。
手に負えなくなった場所を放棄し、
旧人類が造った大都市へと生活圏を縮小させた。
愚かな新人類。
彼らは失ってから気づいた。
滅んだ技術の大切さに。
異能だけでは対処できない事がある事に。
進化の先に人類を待っていたのは停滞。
と言うよりは、緩やかな下り坂。
旧人類が大都市と呼んだ街は、
今も継続して残り、人々の暮らしを支えている。
ただ、大都市を支えているのは、
旧人類の技術ではなく、新人類の異能。
彼らは都市の一パーツに成り下がっていた。
その事に気づきながらも、知らないふりを続けていた。
◇
そして、ここに摩耗した部品が一つ。
禿げ散らかした頭を光らせ、
旧人類が残した遺産であるディスプレイを覗き込んでいる。
画面からは少女と思わしき甘い声。
そして、刺激的な画像が表示されていた。
オッサンが声を荒げる。
「フィーアちゃんは俺の嫁!!!!!」
そして、そそくさとディスプレイの近くに置かれた、
フィギュアに声をかけた。
「リーネちゃん、これは友好を深めているだけで、
浮気ではないのです!リーネちゃんが本妻なのです!!」
フィギュアの頭を撫でて言い聞かせるオッサン。
その光景に、虫唾が走った。
これは… 何をやっているんだ?
崩壊寸前の家族は?
僕の決意は???
何もかもが馬鹿馬鹿しくなってくる。
ここはオッサンの部屋。
事情は明日話しますと告げると、
彼は僕を放置してゲームを始めた。
どう見ても一人暮らしの部屋。
家族と暮らしている形跡など、どこにもない。
それどころか、
一目でオタクだと断定できる様なグッズが、
所狭しと並べてあった。
ドン!ドン!
「うるせーぞ!!」
薄い壁から苦情が寄せられる。
オッサンはビクリと体を震わせ、壁を見詰めた。
そして、少しトーンを落とした声で壁越しに謝罪する。
しかし、謝罪とは裏腹にその顔には怒りを滲ませていた。
え?
まさかと思うけど、
家庭崩壊って、そう言う事???
壁ドンで、ゲームが楽しめないから、
何とかしろって事なのか?
もし、そうだとしたら…
この時、僕に表情があれば引きつっていたと思う。
燃やすしかないでしょ!
都合よく炎の異能が使える事だし!
そうだ、今すぐ燃やすか?
僕はそんな事を考えずにはいられなかった。
それ位、現状が情けなかった。
興が醒めたのか、オッサンは眠る準備を始めた。
布団を敷き、かわいい柄のパジャマに着替え、歯を磨き、
トイレを済ませ、電気を消して横になる。
やはり、事情は明日にお預けのようだった。
直ぐにオッサンの寝息が聞こえ始める。
そして、寝返りを打ち布団がめくれた。
するとそこには…
何かを抱えるオッサンの姿があった。
それは写真たて。
その中には、こちらに微笑みかける少女の姿。
オッサンの目から涙がこぼれる。
「リ…ア… もうすぐ… だから…」
掠れる様な音の寝言だった。
ただし、その音にはしっかりとした苦渋が含まれていた。
その姿に、
僕は怒りの矛を収めていた。
もう少しでけ、付き合ってやる。もう少しでけ…
そう思いながら、僕も眠りにつく事にした。