古書店『貴方のベストパートナーが見つかります!!』
やはり、と言うか。
僕が流された市場とは、
まともな市場じゃなかった。
それでも、僕は期待していたのだ。
オークションに掛けられ、値段が吊り上がっていく僕の姿を。
なのに…
僕が預けられたのは、
小さな古書店だった。
この店には名前がない。
唯、古書店とのみ書かれた看板が立てかけられている。
その看板には『貴方のベストパートナーが見つかります!!』
と言う怪しげなポップ広告が張り付けられていた。
店内はと言うと、
分厚く古めかしい本が収納された本棚。
通路を狭くしている台の上に平積みされている本の数々。
それが小さな店内を埋め尽くしていた。
光を避ける為に店内はいつも薄暗く、人の侵入を拒んでいる。
そして僕は今、その店の一商品に過ぎなかった。
閉鎖的な世界。
それが、僕が下した古書店への評価だ。
なんせ、来客者が1日に2、3人という、
商売が成立しているのかとても怪しい、そんな店だった。
暇な時間が唯々ゆっくりと流れていく、そんな世界。
時間という概念から切り離された様な錯覚を受けるこの空間は、
もしかすると何かの能力下に居るのかもしれなかった。
その能力を使用している、
最有力容疑者である古書店店主のミゲルさんは、
椅子に腰を掛け雑誌を顔の上に置き、寝息を立てていた。
店の入り口には来客を告げるベルが設置されており、
それが鳴らない限り、彼は眠り続けたままだ。
僕がこの古書店に届けられてから暫く経つが、
彼の仕事態度はいつもこんな感じだった。
そうやって、今日も一日が過ぎていく。
そうだ、
僕がここに着いてからの話を少ししておきたい。
それがこの店のルールを知る上でと重要な事だと思うからだ。
そして、発見してしまった僕の弱点を知る上でも語るべき事だからだ。
◇
古書店に届けられた僕に待っていたのは、
勿論、ミゲルさんである。
彼は僕の詰められた荷を解くと、
乱暴に、開けておいた平積みスペースに書籍を配置していった。
そして、僕の番できた。
ミゲルさんが僕をつかみ取る。
僕は少し緊張していたが彼に挨拶した。
「ども!」
ミゲルさんの動きが止まる。
動きは止まったが、表情は先ほどと変わらない。
ただ無表情なまま、
「しゃべる本か。
これは、骨董品だな… 破棄するか?」
そんな事を言い出す。
後から知った事だが、しゃべる本は僕以外にも実在する。
何故なら、それは新人類が過去に行った非道の痕跡だからだ。
「待ってください、僕はきっと高く売れます!!」
「そうかな…
君の様に書籍にされた旧人類が見つかる事は珍しい事じゃない。
それに、君達に書かれている事は大抵が意味をなさない事だ。
当時の我々は… とても君達の事を憎んでいたのだろう。
本当にすまない」
ミゲルさんが頭を下げていた。
書籍である僕に。いや、旧人類に対して。
「それに、
この店にはルールがある。
書かれている内容に意味がないと、この店には置けない」
書かれている内容に意味がないとダメ?
その意味する所が理解できない。
需要と供給の話か?
ミゲルは僕をパラパラと読み進めた。
そして、ため息をつく。
言っておくと僕の大半が白紙ページだった。
今だ収めるべき異能は、1つしか収録されていない。
ミゲルさんは僕の惨状を見てため息をついたのだ。
僕を見詰めるミゲルさん。
彼はとても優しい顔をした。
「もう、疲れたろ?旧人類。
俺は穏健派だ。
君の死を許そう」
勝手に話が進んでいる。
ミゲルさんの中では、僕は旧人類であり、
僕は自殺願望を持っているらしい。
「待って!!
僕には意味がある!!」
必死の声をあげていた。
そうしないと、本気で破棄される気がしたからだ。
その必死な声音にミゲルさんは、答えてくれた。
後から聞いた話、
この時の『意味がある』と言う断言が、
彼の心を捉えたのだっとか。
彼は僕をこの書店に置く事を決断してくれた。
そして告げられる、この店のルール。
・古書店に配置されている本には皆、意味がある。
・古書店を訪れる客には皆、意味がある。
・そして、意味は結び付く。
何を言っているのか分からないと思うが、
僕も何を言っているのか分からない。
そんな不思議なルールだった。
要するに異能の力という事だ。
一度見た異能を習得する、僕の力。
しかし、この店の異能を習得していない。
理由はおそらく、
この力の全貌を把握していないからだ。
僕はこの能力の大目的は理解している。
客と商品を結びつける事。それが、この力の目的だ。
でも、この力を習得できていない。
この力の全てを見ていないから…
この事実は、
僕の異能収集能力の脆弱性を如実に伝えていた。
僕の力、その全てを引き換えに得た力。
この力は、どうやら大きな不具合を持った欠陥能力らしい。
◇
チリン!
店内に鈴の音が鳴り響く。
意味を持ったお客様の来訪告げている。
さてさて、
本日はどの本との結び付きをご所望なのやら…
足音が僕の前で止まる。
そこには、悲痛な面持ちをした、
むさ苦しいおっさんの顔があった。
その潤んだ瞳が、僕を見詰めている…
いやだ、、、
絶対に、、、、
いやだ!!!!!!!!
僕の心が悲鳴を上げている。
声も上げている筈なのだが音量が上がらない。
これも異能の力なのか???
おっさんの手が僕に伸びた。
そして、購入は確定していた。
税込み1,080ダリス。
僕の値段。
一冊の書籍としては普通な金額だった。
でも、僕は人だった。
ミゲルさんが親指を立てて僕の門出を祝福している。
とても良い笑顔だった。
そして、紙袋に僕をしまった。
オッサンは僕の包まれた紙袋を受け取ると、
店を後にする。
まるで、その店に居る意味を失ったように…
オッサンが僕の入った紙袋を見て微笑む。
そして帰路へと着いたのだった。
僕が選ばれた意味を解決する場所へ。
僕事、欠陥付の異能書が活躍する物語の渦中へと…
円 → ダリス
紙幣の名前をダリスにしただけです。
物価などは日本と同じと考えてください。