表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

古書店『貴方のベストパートナーが見つかります!!』

 やはり、と言うか。

 僕が流された市場とは、

 まともな市場じゃなかった。

 それでも、僕は期待していたのだ。

 オークションに掛けられ、値段が吊り上がっていく僕の姿を。

 なのに…

 僕が預けられたのは、

 小さな古書店だった。


 この店には名前がない。

 唯、古書店とのみ書かれた看板が立てかけられている。

 その看板には『貴方のベストパートナーが見つかります!!』

 と言う怪しげなポップ広告が張り付けられていた。


 店内はと言うと、

 分厚く古めかしい本が収納された本棚。

 通路を狭くしている台の上に平積みされている本の数々。

 それが小さな店内を埋め尽くしていた。

 光を避ける為に店内はいつも薄暗く、人の侵入を拒んでいる。

 そして僕は今、その店の一商品に過ぎなかった。


 閉鎖的な世界。

 それが、僕が下した古書店への評価だ。

 なんせ、来客者が1日に2、3人という、

 商売が成立しているのかとても怪しい、そんな店だった。

 暇な時間が唯々ゆっくりと流れていく、そんな世界。

 時間という概念から切り離された様な錯覚を受けるこの空間は、

 もしかすると何かの能力下に居るのかもしれなかった。


 その能力を使用している、

 最有力容疑者である古書店店主のミゲルさんは、

 椅子に腰を掛け雑誌を顔の上に置き、寝息を立てていた。

 店の入り口には来客を告げるベルが設置されており、

 それが鳴らない限り、彼は眠り続けたままだ。

 僕がこの古書店に届けられてから暫く経つが、

 彼の仕事態度はいつもこんな感じだった。


 そうやって、今日も一日が過ぎていく。


 そうだ、

 僕がここに着いてからの話を少ししておきたい。

 それがこの店のルールを知る上でと重要な事だと思うからだ。

 そして、発見してしまった僕の弱点を知る上でも語るべき事だからだ。



 古書店に届けられた僕に待っていたのは、

 勿論、ミゲルさんである。

 彼は僕の詰められた荷を解くと、

 乱暴に、開けておいた平積みスペースに書籍を配置していった。

 そして、僕の番できた。

 ミゲルさんが僕をつかみ取る。

 僕は少し緊張していたが彼に挨拶した。

 

「ども!」


 ミゲルさんの動きが止まる。

 動きは止まったが、表情は先ほどと変わらない。

 ただ無表情なまま、


「しゃべる本か。

 これは、骨董品だな… 破棄するか?」


 そんな事を言い出す。

 後から知った事だが、しゃべる本は僕以外にも実在する。

 何故なら、それは新人類が過去に行った非道の痕跡だからだ。


「待ってください、僕はきっと高く売れます!!」

「そうかな…

 君の様に書籍にされた旧人類が見つかる事は珍しい事じゃない。

 それに、君達に書かれている事は大抵が意味をなさない事だ。

 当時の我々は… とても君達の事を憎んでいたのだろう。

 本当にすまない」


 ミゲルさんが頭を下げていた。

 書籍である僕に。いや、旧人類に対して。


「それに、

 この店にはルールがある。

 書かれている内容に意味がないと、この店には置けない」


 書かれている内容に意味がないとダメ?

 その意味する所が理解できない。

 需要と供給の話か?


 ミゲルは僕をパラパラと読み進めた。

 そして、ため息をつく。

 言っておくと僕の大半が白紙ページだった。

 今だ収めるべき異能は、1つしか収録されていない。

 ミゲルさんは僕の惨状を見てため息をついたのだ。


 僕を見詰めるミゲルさん。

 彼はとても優しい顔をした。


「もう、疲れたろ?旧人類。

 俺は穏健派だ。

 君の死を許そう」


 勝手に話が進んでいる。

 ミゲルさんの中では、僕は旧人類であり、

 僕は自殺願望を持っているらしい。


「待って!!

 僕には意味がある!!」


 必死の声をあげていた。

 そうしないと、本気で破棄される気がしたからだ。

 その必死な声音にミゲルさんは、答えてくれた。

 後から聞いた話、

 この時の『意味がある』と言う断言が、

 彼の心を捉えたのだっとか。

 彼は僕をこの書店に置く事を決断してくれた。


 そして告げられる、この店のルール。

 ・古書店に配置されている本には皆、意味がある。

 ・古書店を訪れる客には皆、意味がある。

 ・そして、意味は結び付く。


 何を言っているのか分からないと思うが、

 僕も何を言っているのか分からない。

 そんな不思議なルールだった。

 要するに異能の力という事だ。


 一度見た異能を習得する、僕の力。

 しかし、この店の異能を習得していない。

 理由はおそらく、

 この力の全貌を把握していないからだ。

 僕はこの能力の大目的は理解している。

 客と商品を結びつける事。それが、この力の目的だ。

 でも、この力を習得できていない。

 この力の全てを見ていないから…


 この事実は、

 僕の異能収集能力の脆弱性を如実に伝えていた。

 僕の力、その全てを引き換えに得た力。

 この力は、どうやら大きな不具合を持った欠陥能力らしい。



 チリン!

 店内に鈴の音が鳴り響く。

 意味を持ったお客様の来訪告げている。

 さてさて、

 本日はどの本との結び付きをご所望なのやら…


 足音が僕の前で止まる。

 そこには、悲痛な面持ちをした、

 むさ苦しいおっさんの顔があった。

 その潤んだ瞳が、僕を見詰めている…


 いやだ、、、

 絶対に、、、、

 いやだ!!!!!!!!

 僕の心が悲鳴を上げている。

 声も上げている筈なのだが音量が上がらない。

 これも異能の力なのか???


 おっさんの手が僕に伸びた。

 そして、購入は確定していた。

 税込み1,080ダリス。

 僕の値段。

 一冊の書籍としては普通な金額だった。

 でも、僕は人だった。


 ミゲルさんが親指を立てて僕の門出を祝福している。

 とても良い笑顔だった。

 そして、紙袋に僕をしまった。


 オッサンは僕の包まれた紙袋を受け取ると、

 店を後にする。

 まるで、その店に居る意味を失ったように…


 オッサンが僕の入った紙袋を見て微笑む。

 そして帰路へと着いたのだった。


 僕が選ばれた意味を解決する場所へ。

 僕事、欠陥付の異能書が活躍する物語の渦中へと…

円 → ダリス

紙幣の名前をダリスにしただけです。

物価などは日本と同じと考えてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ