美咲セクハラ被害を受ける
ガイノイドの目的には様々なものがあるが、その中でもセクサロイドとして使われるものがある。この用途は男性の性欲処理のためのもので、俗に”自我プログラムを持った動くラブドール”といわれている。
ただしサイバーロイドとしては、このような商品を製造販売すると世間から女性蔑視との批判を受ける恐れがあるので直接製造はしていない。ただし”素材”としてその手の業者に納入する場合があるので、サイバーロイドの製品でセクサロイドはないとはいえない状況だった。
他の業者も同じような状況であるが、どのメーカーも何故かオプションで人工女性器をガイノイドに取り付けることが可能な設計になっているので、実際にそのように改造された物が少なくなかった。その理由について薫は父の江藤英樹が、もしガイノイドやアンドロイドの商売がうまくいかなかったときには、”動くラブドール”を販売し、その収益で借金を返そうとしたのではないかと思っていたのではないかと想像していた。
幸いアンドロイドとガイノイドの大ヒットで世界有数の企業家になったものの、父は未だに企んでいるのだと考えていた。実際、製品のエリカの下腹部に空洞が少しありフリーの配線があるので専門業者に任せればセクサロイドになるという話だった。
昼休みが終わり美咲と美由紀が戻ってきたが、薫はブースの片隅でサンドイッチを食べ出来る限り離れないようにしていた。そうしないとライバルメーカーの偵察も来るし変な客がくるのはまだしも展示しているガイノイドやその部品を盗む者がいる場合もあるからだ。
そうした中、一人の太った男が入ってきた。いかにもイヤらしい品のない話をするのではないかと薫げ警戒していたが、案の定そうなってしまった。男は美由紀に近づいて「お嬢さん、このガイノイドってエッチな事が出来るようにするオプションがあるのだよね? ここで出来るのかい? 」と言い寄ってきた。いくら店員見習いとはいえ未成年とわかる服を着ているのに、なんという質問をするのだと美由紀は内心嫌がっていた。実は美由紀はエリカの構造を自分で把握しておりオプションで付けれることも、そのやり方も知っていたが、未成年者がそのような事をしゃべるわけにはいかなかった。
薫は購入するかもしれないので追い出せないので、取り合えず接客を代わることにした。「お客様、弊社のガイノイドはいわゆるラブドールに改造するオプションは行なっておりません。でも他の業者サンの中には、請け負っているところもあるそうでして、其方にご相談してください。また弊社はそのような業者サンを斡旋していませんが、もしかすると販売員が個人的に相談するかもしれません」といった。
このような説明をするのは、実際サイバーテックの販売員の仲にはノルマを達成するために、セクサロイド改造をひそかに引き受ける者が少なくなかったからだ。もっとも、高価なガイノイドを購入する目的にそのような機能を持ったものを手にしたいというものがあり、簡単に断われないと言うのが実情だった。実際、高齢の男一人世帯が家事と夜の生活に応じてもらえる妻のようなガイノイドを購入する場合も多かった。
薫も一応相手の出方を見て紹介することも出来たが、この男は単なる冷やかしのようだった。そのためブース内をうろうろしていたが、二体の稼動可能なガイノイドのうちエリカに近づいてきた。そう美咲が内臓になっているほうだ。
男はエリカの外骨格をマジマジ見ていた。風俗雑誌に外骨格タイプのガイノイドの下腹部を改造し、ラバー素材で全身を覆った生きたようなラブドールを作れるという話があった。それを思い出したためか男は何故かエリカの股間を触り始めた。
この部分は本物のガイノイドでは空洞になっているが、そこは美咲の生身が詰まっていた。そのため薫は機ぐるみとばれるのではないかと血が引いていた。それよりも驚いたのは美咲だった。機械によって下腹部が覆われてしまってはいるが、男に直接触られるのは初めてだった。まだヴァージンだったからだ。
美咲は声を出してしまいそうになったが、エリカの制御コンピューターにリミットがかかりエリカの人工音声を出すことは無かった。しかも体が硬直してしまった。薫は美咲がショックを受けていることがわかったので、男の手を取って「申し訳ございませんが、むやみに弊社のガイノイドを触らないでください。もし購入希望でしたら何かをすることをお見せいたしますが、故障の原因になりかねない事は慎んでください」と叱責してしまった。
男は「なにいい気になっているのさ」と捨て台詞を残して去っていたが、ほかのメーカーのブースでもその後同じようなことをしていたようだった。一方の美咲は直接触られたわけではないものの、男に大事なところを触られてショックを受けていた。もちろん男は機械を触ったつもりでも、まだ未成年の美咲の身体を外骨格の上とはいえ触っていたのだ。ショックを受けた美咲を見て薫は「少し裏で休んでおいで」というほか無かった。