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機ぐるみの女の子が連れさらわれてしまった  作者: ジャン・幸田
今日も一日頑張りましょう!
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美咲の仲間がやってきた

 美咲が入っているガイノイド・エリカの表面を美由紀が手でワックス掛けをしていた。さっき手垢まみれにしたからだ。しかし美由紀からすれば、かえって機械娘をしっかりと触れる機会を貰って嬉しかった。そのことに気づいた薫であったが、いまさら止めることは出来なかった。


 「美咲先輩、メタリックなボディ素敵ですね。どのガイノイドよりも綺麗ですよ」といったが、どうも美由紀はただ機械にすぎないガイノイドよりも、その中に生身の女の子が閉じ込められている機械娘のほうに萌えているようだ。美咲はさっき姉の薫がいったように美由紀は機械娘に本当に百合百合なのかと心配になってきた。


 しかし姉の薫には内緒だが美由紀にはれっきとしたボーイフレンドがいた。もっとも恋人未満だけど。その時「おい、江藤」という声が聞こえた。その声に薫と美由紀の姉妹が振り返ったが、すぐ美由紀だけがその男の元にかけよっていった。彼は美咲と同じ大学に通う松山で美由紀のボーイフレンドだ。


 「ほお、津田がこの中に入っているのか? 言われなければ生身の女が入っているとはわからないな」といった。松山はガイノイド売り場のある電器店の搬入のアルバイトをしており、サイバーテックのブースに新型ガイノイドを搬入してきた。この日、ブースには美咲が入っているワインレッドのエリカ、稼動しないブラックとブルーのエリカ、そして生身の人間と変わらない外観を持つジャンヌとサユリがいたが、松山が押しているカートには廉価版のプリスが載せられていた。そして松山の横にはもう一体稼動可能なガイノイドがよりそっていた。


 「サイバーテックの新製品ローズマリーだけど、この中にも津田と同じように女性が入っているのよ」といって紹介し始めた。「こちらの方は野間さんに頼んで、昨日遅くガイノイドスーツを装着してもらった赤松聖美さんだ。彼女は今年の春にこの電器店に就職したそうだけど、新人のうちは何でもしなさいという上司の指令で、江藤のパパの会社の受注生産タイプの姿になったのだというのだ。まあ津田と仲良くやってくれということだ」といった。


 新たなガイノイドスーツを装着させられた女性がやってきて、薫は嫌な事を思い出していた。パパがいう”親に協力しろ”という言葉に従って、散々私をガイノイドスーツのなかに閉じ込められたことを。それで何度嫌な思いをしたことか。それなのに美由紀が憧れるなんてどうかしているとしか思えなかった。しかも、事前に私に連絡もなしにガイノイドを増やすというのはどうしてなのかと怒りに満ちていた。


 その時、美咲はガイノイドスーツの中で彼女の名を聞いて思い出していた。赤松さんといえば先週別の売り場にいたとき、接客をミスって売り場責任者にムチャクチャ怒られていた人だ。まさか、その罰としてガイノイドの”内臓”にされたというわけ? と背が高くスタイルも顔もいいのにどこか抜けたところのある彼女の”人間だった時の姿”を思い浮かべていた。


 「そちらの津田さんと同じようにガイノイドスーツを着ていますので、お客様の前では”ローズマリー”と呼んでください」と、人工音声でしゃべっていた。それにしてもガイノイドスーツの出来映えは素晴らしく、中に生身の女性が入っていることを想像できないほどだった。


 後で美咲が見たローズマリーの製品説明書によれば、彼女は汎用女性型作業ガイノイドで、工場や店舗の清掃活動のほか、人目につく場所で行なわれる労働全般が出来るというもので、纏まった数を発注すれば格安で納入できるというものだった。そのため、エリカが女性らしいフェイスマスクやボディラインなのに対し、ローズマリーは大量生産された人形と言った面持ちで、ノッペラとした顔面には二つの丸いレンズとセンサー光があり、ボディも胸があることを除けば平坦なイメージを受けるものであった。中に綺麗なお姉さんが入っていることを想像しなさいということのほうが無理なデザインだった。


 美咲もローズマリーの姿を見ながら、私もエリカの姿だから他の人から見れば、ガイノイドとしか見えないだろう。もっとも、この”人型であるが人ではない別の姿”に憧れてガイノイドスーツを着るアルバイトをしているのだから、願望は叶えられたと思っていた。


 そう思っていると薫が「さあさあ、開店ま三十分をきったよ。私語はあとですることにして、準備を急ぎなさい。今日も一日張り切っていきましょう! 」と一同に発破をかけていた。

 

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