これって私の力なの?
江藤社長はジャイアント・カメラ東京中央店の傍までやってきたが、そこは警官隊による包囲網と野次馬に阻まれ近づけなかった。ビルの内部からは突入した警官隊と窃盗アンドロイドとの間で激しい銃撃戦の爆音が聞こえていた。
呆然としていた彼の肩を叩く者がいた。振り返ると娘の美由紀だった。美由紀は今日も職場体験の予定だったので地下鉄で最寄り駅まできたところで事件が発生し、足止めを食らっていた。また美由紀の傍には野村もいた。
「パパ、どういうことなのこれって? お姉ちゃんも美咲先輩も無事なの? 」と中にいるはずの二人を心配していた。また野村によれば薫は十二階のブースにいるときに襲撃に遭遇したようで、とにかく三人で脱出するという言葉を最後に連絡が取れないということだった。三人は中に入れず地団駄を踏むしかなかった。
一方アンドロイドに挟み撃ちのあった三人は身動きが取れなくなっていた。取りあえず三人は壁を背にして立つしかなかった。薫は自分がアンドロイドを食い止めている間に二人を従業員用ゲートから外に逃がそうとしていた。もっともゲートの外には警官隊が配備されており一緒に逃げなければ、機ぐるみを着た二人が誤って銃撃される危険性もあった。
そうしているうち、アンドロイドの後ろからピンクの巫女の格好をした女が現れた。大和ナデシコだ。それにしてもピンクが好きとはいえ変な格好ではある。
「サイバーテックの若い姉ちゃんでしょ? あんたの隣にいるガイノイドを引き渡せばなんら危害はくわえんでしょ。おとなしく渡しなさいしょ」といった。薫は何でコイツの語尾に”しょ”が付くのか判らんと、この際ドウでもいい事を考えていた。
「あのねえ、あんた。これはガイノイドじゃないのよ! 生身の女が入った機ぐるみなの! 盗んだってあんたが着るわけじゃないだろう! だから諦めてそこを通しなさい! あんたらうちの在庫を全部持っていたんでしょ。これ以上盗む必要など無いだろうが、いい加減にしなさい」と怒気を込めて叫んだ。
「そうねえ、そっちのローズマリーは中の人がいるのはわかっているしょ。別に欲しくないから見逃してあげるしょ。でもエリカの方は人が入っているかどうかわからないけど、その装備は軍事用と一緒だから欲しいのでいただくわしょ! 」といった。
やはりタダのエリカじゃないことはばれているようだ。このままでは美咲が捕まってしまう。と考えた薫は従業員用ゲートの前にいるアンドロイドを蹴散らそうと思って鉄パイプを振り下ろしたが、相手はビクともせず薫の手から奪い取るとボールのように丸め込んでしまった。
「まあ、勇気のある店員さんだね。勇気に免じて見逃してあげるしょ。それとローズマリーもね。でもエリカは別だしょ。あなたは中に人間が入っているというけど、ドウセでまかせでしょ。まあ私のアジトで調べれば判るけど、しばらくあなたからエリカを借りるから、そのつもりでいいしょ! 」といった。
美咲の心は恐怖で満ち満ちていた。相手は人さらいならぬ機械さらいだ。自分が人間だということを信じていないようだった。もしピンク・ジラフにさらわれたら、どんな仕打ちをうけるか判らなかったからだ。とにかくこの場から逃げ出したかった。
ピンク・ジラフのアンドロイドはまさにエリカ、いや美咲を捕まえようとしていた。薫はもしエリカが通常販売しているエリカと性能が同じなら、もう捕まえられてしまうと思っていた。標準装備のエリカだと家事と介護ぐらいしか機能が無く、家に侵入する泥棒を撃退するのは出来ないはずだからだ。それに準じた機ぐるみのエリカも同様なはずだった。
飛び掛ってきたアンドロイドに恐怖を覚えた美咲は思わず手で突き飛ばそうとして左手を出した。薫はあれじゃ美咲の腕が折れてしまうと思い目をつぶっていた。しかし目を開けると先ほどのアンドロイドは突き飛ばされ壁にめり込んでいた。
美咲は呆然と右手を見て「私って、いまアンドロイドを突き飛ばしたわけなの? これって私の力なの? 」とつぶやいていた。ここに美咲のエリカの能力の片鱗が見えていた。




