薫、これからそっちに行くぞ
午前7時ごろ、薫のスマホが枕元で鳴り出した。薫は寝ぼけながら画面を見ると父からだった。めんどくさいとおもったが、父が娘に電話をかけることは珍しいので出てみた。てっきり朝帰りだとおもわれているかとおもった。
「パパ、おはよう。今ねジャイアント・カメラの地下ブースで寝ていました。朝から何の用事? 」と目ぼけた声で答えた。
「薫、聞くがそっちでエリカの機ぐるみがあるのか? 今どうしているのか教えてくれないか」というので、「今ねえ、美由紀の先輩の女の子が着用しているよ。それがどうしたの? 」と言ったところで昨日の事を思い出した。そう美咲の顔の周りに見覚えの無い装置があったことを。
あの装置については本社機ぐるみ事業部のエンジニアが見に来ることになっていたが、なんで社長の父がでてきたのかわからなかった。
その時までに札幌と福井から戻ってきた機ぐるみを確認したところ、自衛隊向けの試作パワードスーツではなかったので、まさかであるが最後に薫のところに電話をかけてきたのだ。
薫の言葉を聞いて今着用しているという事に江藤社長は驚いてしまった。あの問題の装置が使われる可能性があることを、しかも今着用中だという。でも、今は営業時間前、なぜ今着ているのかがおかしいと思ったので、薫にどうなっているのだと聞いた。
「ええ、パパ。装着担当の野間さんが昨日家族の不幸で愛媛に帰省したのよ。それと販促のためジャイアント・カメラの社員さんも機械娘になってもらっているわ。それで私たち三人が地下のラボで眠っていたわけ」とまだ眠そうな声で答えた。
薫も他の社員との会話なら緊張感をもってするところだが、朝目ぼけていたうえ父との会話だったので緊迫感ゼロだった。無理も無い、事態の深刻さは薫どころか他の大多数の社員は知らなかった。そうなっているのも防衛機密が漏れる寸前であることを出来る限り外部に漏れないようにするため、少人数で探していたためだ。
江藤社長は「それじゃ、悪いが、今エリカを着ている女の子に脱いでもらいたい」といったが、「それは無理よ。野間さんの不在が三日間になるので、ちょっとやちょっとで脱げないようにレベル4の装着をしてもらっているわ。そうなると自身では脱げないし私も装着装置を扱えないので無理だよ。野間さんが帰ってくるのは明日の午後なのでそれまで出来ないよ」と薫にいわれてしまった。
レベル4の装着とは、機ぐるみの結合部を完全に連結してしまうことで、基本的に同じ装着装置を使わないと機ぐるみを脱ぐことが出来ない事を意味していた。しかもジャイアント・カメラにある装着装置は旧式で取り扱えるのは全社でもわずかだった。取り合えず江藤社長は野間の代わりの技士を派遣してやるといったが、薫は話を続けた。
「それにね、今ここのブースは稼動可能な機ぐるみのガイノイドは二体しかないの。あのエリカの子がいないと独りしかいなくなるのよ。もう一人は”ローズマリー”なのでお客様へのアピールに乏しいわ。代わりのガイノイドをおねがいできませんか? 」と要望を出した。
取り合えず自衛隊に納めるはずのパワードスーツが娘の元にあることで安心した江藤社長であるが、はやく次の手を打たなければならなかった。
「薫、お前の言うことは判った。野間の代わりの技士と一緒に午前10時までにそっちに行く。その時別のシャールームからおお前のところのエリカの代わりを連れて行くぞ。悪いが今日はブースを開けるのが遅れても構わないから、お前らは地下で待っていてくれ」と言った。
江藤社長は代わりの技士とガイノイドを用意するように指示し、向かう準備をしていた。順調に進めば朝の出勤ラッシュで多少遅れるかもしれないが九時までにはジャイアント・カメラ東京中央店にいけるはずだった。しかし、この時にはもう間に合わないタイミングだった。




