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酔っ払い?正義の味方?4 酔っ払い?正義の味方?

異名は、あらすじが地味極まりなかったので咄嗟に付け足しました。

あらすじは、見栄え良くしたいと思ってしまいますよね。

書き始めてみると、これはこれで良かったかも、と思います。

 あるギルドハウスで、男達が笑い合っていた。

 部屋の中は荒らされていた。大事にされていただろう書物は地面に叩き落され、小物などが砕かれている。

 テーブルについている男は四人。

 巨大な剣を持つ騎士が二人に、治癒を担当する聖職者が一人に、リーダー格の高位魔術師が一人である。

 力と魔法で弱者をすりつぶすのが、彼らの流儀であった。

「本当、馬鹿ってのはまだいるんだな」

 高位魔術師は、自分の行なったことを思い返すと、笑うしかなかった。

「リーダーは本当にえぐいよな」

 騎士の一人が言う。

「穴場だって紹介して家を建てさせて、出来上がったらそれを奪っちまうんだから」

「家を建てる気だ、なんて素直に相談する馬鹿が悪いんだよ。まあ、しばらくはくつろがしてもらおうじゃないの」

「けど、本拠地にしては不便だよな、ここ」

「どうせだから、定期の手入れをさぼって壊しちまうか」

「奴らが涙ぐましく手入れするかもよ?」

 その惨めさを思って、高位魔術師は笑った。

 男達の笑い声が、合唱のようにギルドハウスの中に響いた。

 その時、玄関の扉が開いた。

 入って来たのは、黒いマントに身を包んだ女だ。フードで顔立ちは見えないが、その金色の瞳が猫のような瞳孔を持っているのが見える。

「森の穴場と言えば、やっぱここか」

 女は、納得したように独りごちた。

 涼やかな声だった。その声に、高位魔術師は興味を惹かれた。

「なんだいお嬢さん。なんか用かな?」

 女は、周囲を見渡すと、困ったような表情になった。

「まいったな」

「はあ?」

 聖職者が、マイペースな相手に苛立ったような声を上げる。

 それを、高位魔術師は手で制した。

「何がまいったって言うんだ。前にいた連中の知り合いか?」

「いや、前の連中なんてのは私は知らない。ただね」

 女の声は笑っていない。しかし、その顔には笑みが浮かんでいた。

「ここをぶんどろうと思ってるんだけど、散らかってて趣味じゃなくってさ」

 女の唐突な言葉に、場の空気が凍る。

 この女は一体何を言っているのだろう。聞き間違え出なければ、それは紛れもない宣戦布告ではなかったか。

「って言うか、あんたら、面倒臭いからさっさと出てってくんないかな。下種の為に骨を折るの、嫌なんだよね」

 嘲るような女の言葉に、騎士二人が戦闘態勢に入る。

「まあ待てよ」

 高位魔術師が、それを声で止めた。

「お嬢さん、あんた喧嘩を売ってるのか? 四人相手に? デスペナ痛いし、やめときなよ」

「雑魚四人が、なんだって?」

 彼女との間に、交流の持ちようがないことを高位魔術師は実感した。

「仕方ない。やっちまいな」

 騎士二人は巨大な剣を手に持ち、女に踊りかかった。高位魔術師が、魔法の詠唱を始める。

 そして、二本の剣が振り下ろされる。

 その瞬間、倒れていたのは騎士の一人だった。

 その首の頚動脈が、的確に一撃で断たれている。

 それに駆け寄ろうとした聖職者の後頭部に、投じられた短刀の刃がめり込んだ。

 女はテーブルに背を預けている。

 高位魔術師は唖然とした。

 この女は、いつの間に騎士二人の間をすり抜けて、聖職者の後ろを取ったのか。

 その素早さは、尋常なものではない。人間の動きではないと言ったほうが正しい。まるで、バグかチートでも使われたかのようだ。

 高位魔術師は、魔法の詠唱を止めた。単体攻撃用の魔法では、相手に避けられると悟ったのだ。ならば後は、範囲を攻撃する魔法を唱えるしかなかった。詠唱時間が短い範囲攻撃魔法を、即座に選択して唱え始める。

「時間を稼げ、タイル」

 高位魔術師が、生き残った騎士に向かって叫ぶ。

 倒れこんだ聖職者の後頭部から、女は刃を引き抜く。

 その両手には、短刀が逆手に握られている。右手の短刀は金色に、左手の短刀は白銀に、それぞれ眩い輝きを見せている。

 その背中に、巨大な剣を振りかぶって騎士が襲い掛かる。

 その足が払われて、騎士は地面に倒れ付した。

 彼の兜が蹴り飛ばされ、守りを失った後頭部に金色の刃が突き刺さった。

「研ぎなおす手間がなくていいなあ」

 女は、歌うように言う。

「このゲーム、骨の概念がないもんね」

 その時、高位魔術師の詠唱が終わる。床全体を覆うような地獄の業火が、相手に向かって襲い掛かる。

 しかしそれすらも、天井付近までの跳躍で女は回避した。

 そして次の瞬間、女の姿が高位魔術師の視界から消えた。

「動いたら、刺さるよ」

 女のその声は、背後からしていた。

 高位魔術師は、素直に動きを止めた。

「そうそう、それでいいのよ。私のナイフは、今あんたの喉元にあるからね」

「……お前、今、天井を蹴って移動したのか?」

「ご明察。気がつくとは、あんたも筋が良いね」

「化け物か」

 高位魔術師は、呟かざるをえなかった。

 壁を蹴って進行方向を変える。それは、テクニックのひとつとはされている。大抵の人間は、それを可能にする為にキャラクターの移動速度をセーブする。

 人間の反応速度には限界がある。それを超えた速度で壁を目掛けて飛んでも、キャラクターが壁に叩きつけられるだけだ。

 しかし、この女の速度は尋常ではなかった。

 あのような速度で、正確に天井付近に達するタイミングを測ってキャラクターを反転させ、天井を蹴る。そんな技を、高位魔術師は見たことがなかった。

 いや、そもそも、男四人を翻弄する速度で動くキャラクターを使いこなす、このプレイヤーを異常だと考えるべきだった。

「ここさ、居座られると私がすっごいすっごい迷惑するのよ」

 呑気な口調で女は言う。

「で、あんたもデスペナ、嫌でしょ? 魔法からして、高位職だしさ」

「ああ」

「手間取らせるなら、どこまでも追っかけまわしても良いんだけれどな」

 それは、酷い殺し文句だった。

「ここでしても良いよ? 復活薬を垂らして、生き返っては殺し、生き返っては殺し。私の財布が傷む代わりに、君はデスペナルティを大量獲得できる」

「わかった。もう、ここには手を出さない」

 このゲームでキャラクターが死ぬと、次のレベルアップに必要な経験値の三パーセントを、それまで溜めた獲得経験値から引かれる。それが、デスペナルティだ。

 そして、その三パーセントの経験値は、高位魔術師にとっては数時間をかけて獲得するものだった。

 その時、高位魔術師は、自分のヒットポイントが一桁減ったのを知った。

 女の刃が、高位魔術師の首の薄皮を切ったのだ。

「ここ、だけ?」

「もうしない、しないよ」

 高位魔術師は、情けない声でそう叫ぶしかなかった。

「おっけ。もう面倒臭いこと、させないでね。私、ロートルなんだから」

 首から、刃が離れた。

 五年ほど前に流行った歌を口ずさみながら、女はギルドハウスの出口へ向かって歩いて行く。

「神速に、会えるとは思わなかった」

 高位魔術師は、思わずそう呟いていた。

 女の歌が、止まった。

「神速ぅ?」

「数年前に、ネットの掲示板で一時流行った噂だ。目にも留まらぬ速さで動くキャラクターが、人助けをするって」

 掲示板で、チート使いだ、運営のキャラだ、いや自演で誇張表現をしているだけだと騒がれた存在。それが、神速の異名で呼ばれるキャラクターだ。

 壁を蹴って方向を変えるテクニックも、その噂が元となって広がったとされている。

 今でも、職別の解説wikiには、伝説としてその異名が語り継がれている。

 同時に、移動速度の高いキャラクターで壁蹴りを成功させるのはギャンブルであり、実用性ではないと記されてもいるのだが。

「知らないね。私はただの半引退者だ」

「黄門気取りかよ」

 高位魔術師は呆れたように言う。

 女は手を振って、ギルドハウスから出て行った。

 高位魔術師は、武道家としてゲームをプレイしていた頃のことを思い出していた。

 武道家とは、素早くトリッキーな動きを武器として戦う職業だ。

 あの頃は、掲示板を読んで、壁蹴りを成功させようと練習していたものだった。 

 結局、細かく正確な操作を行なう技量がなく、動きばかりが俊敏になったキャラクターに嫌気が差し、キャラクターを魔術師に作り変えたのだが。

 あの頃は、掲示板で、神速なんて出鱈目だ、作り話だとバッシングをする側に組したものだった。

「実在したとはな……」

 もう一度、武道家を育てるのも良いかもしれない。

 その時は、素直な気持ちで、人の邪魔をすることなくゲームを楽しめるのかもしれない、と彼は思った。


 シンタとヤツハが町に戻ると、リューイが駆けてきた。

 そう言えば、パーティーを組んだままだったのだ。パーティーメンバーの位置は、他のパーティーメンバーには把握できるようになっているのだ。

 どう声をかけようかと悩んでいたシンタは、彼の声に驚いた。

「本当にいたんだ!」

 リューイはまるで、夢見る子供のような口調だ。

 それにやや圧倒されながら、シンタは問い返した。

「なにがだよ?」

「悪人を懲らしめてくれる正義の味方さ。そういう人が、以前いたって話は聞いていたんだけれど」

 リューイは興奮していて、その話は要領を得ない。

「何が起きたんだ?」

 シンタが問うと、リューイは微笑んだ。

「ギルドハウス、取り返してくれたんだよ! 神速って異名を持つプレイヤーが!」

 思いもよらぬ展開に、シンタは目を丸くする。

 どうやら事件は、シンタの知らぬ所で、既に正しい決着を得てしまったらしい。

 ギルドハウス奪還を目的にレベル上げをしよう、と考えていたシンタは、振り上げた拳の下ろし所に戸惑い、すがるようにヤツハを見た。

「良かったね。けどほら、私達はのんべの相手が待ってるから」

 そう言って、ヤツハはシンタの手を引いた。

「また、シンタくんを誘ってあげてね」 

 ヤツハに言われて、リューイは元気良く頷いた。

 グローブの、掌に該当する部分が収縮する。遠くのエッグを使っている、ヤツハの握力を伝えているのだろう。

 それに照れ臭さを感じながら、釈然としない気持ちでシンタは彼女の後を歩いた。

 けれども、笑えるような奇跡が起こった後ならば、酔っ払いにぐらい付き合ってやろうかという気になっていた。



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"神速"(歌世)

掲示板上でつけられた歌世の異名。

本人が助けた相手に名乗りたがらないことや、知っていても本人の名前を晒すことが躊躇われるという人々の思惑から、その異名がつけられた。

ゲーム世界の揉め事に介入したり、プレイヤーキラーを退治したり、全滅しかけているパーティーを助けたりと、その逸話は数多い。

そのうち噂ばかりが先行し、本人が活躍する作り話や、それを誇張して揶揄する類の作り話も数多く作られた。

本人は、その異名で呼ばれると恥ずかしくて逃げ出したくなり、未だにネット上にキャラクターの外見を晒される可能性を不安視している。

神速の伝説は、数年前にぱったりと途絶える。

PK禁止エリアが作られるようになって、プレイヤー間のトラブルが減ったせいもあるのではないかと推測されている。

本人が、揉め事とそれを発端とする対人戦を楽しんでいたことは、あまり知られていない。

ゲームに熱中し過ぎて学業をおろそかにした彼女が、進級する為にどれだけ頭を下げたかはもっと知られていない。

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